ドラグネス王国の王女―04.マリーの考え
カルミアはひざ元に顔を埋めて泣き続ける。
仲間の死を知った彼女の精神が心配ではあるが、ずっと構え続けるわけにはいかない。一緒に逃げて来たロビンを見つけ、彼にも連絡しなければならないからだ。
机の上に水晶玉――『ミエルくん』を置いて、彼の居場所を映し出し、見た。
黄金の剣を使う少年とロビンは対峙し、戦っている。少年は劣勢で、森の大男に叩き落されたところだった。
「カルミア様……『ドラゴンスレイヤー』はどうされたのですか」
「あ、あげた。か、海斗っていう男に渡した」
そこに映っているのがその人物なのだろう。しかし、どうしてカルミアが渡したのかわからなかった。彼女は、『ドラゴンスレイヤー』を大事にし、自分の体の一部として持ち歩いていたから絶対に手離すことはあり得なかった。それなのに、どうして彼が――その疑問は、水晶玉に映った戦闘を見て理解する。
彼はカルミアよりもその武器を使えていた。剣の構えは甘いし、戦闘に慣れてないのが目に見えるが、重い鉄の塊を軽々と片手で持ち上げていることは事実だ。認めるしかない。彼を信用したわけではないが、あの武器をあれだけ使える人物は見たことが無い。
「…………」
助けるしかないだろう。あのまま戦わせてしまえば、少年は死んでしまう。もしそうなれば、カルミアが悲しむかもしれないし、『ドラゴンスレイヤー』を使える人物が居なくなる。上手い事利用して仲間にすれば彼は戦力となり、この先の戦闘を容易に運ぶことが可能となるだろう。
ただ信用はしていないから、もし裏切ることがあれば殺す。確実に息の根を止めることを条件し、マリーは独断で行動を開始する。
「カルミア様。ちょっとロビンをお呼びしてきますので、そこで待っててくれますか」
「わ、わかった」
カルミアが顔をあげる。そこには、赤くなった彼女の表情が
それまでに泣き止むといいが――『ハイルくん』に全ての『GI』を詰め込み、玄関から飛び出した。
―――――ー
『トベルくん』——『GI05』は空飛ぶ箒だ。これは移動するためだけに作られた発明品で、これに跨ってロビンと少年が居る場所へと向かう。急いでいかなければあのまま殺されるから、全速力で向かった。
「………」
下のほうに少年とロビンが見える。
少年は、鷲の顔に胴体を噛まれ、上半身と下半身が引きちぎれそうになっていた。
右手に黒のグローブ――『キエルくん』と名前が付けられた『GI06』をハメ、少年のすぐ傍へと着地する。
鷲の顔に右手を触れると、その大きな顔は霧散し、消えた。
そして、森の大男は自然魔法であるから、対自然魔法を叫ぶ。
「ダイエルク」
魔法は使えない。けれど、擬似魔法を使うことができる。それは、頭にある『ハッセイくん』——『GI03』を介して行うからだ。ただこれは使える魔法には限りがあり、対自然魔法や呪いの解除魔法などの打ち消す魔法ならば簡単に出すことができる。それ以外の火の玉を出すや雷を下ろすなど、殺傷能力のある魔法は出ないようになっている。
「グオオオオオオオ!」
森の大男は朽ち果てる。その後、ロビンに向かってカルミアが生きていることを伝えると、うろたえた。
「な、なら僕は一般人を殺そうと……」
「そういうことだよ」
ロビンから事のいきさつを聞きながら、少年を『カイフクくん』でグルグル巻きにした。
『カイフクくん』——『GI13』は、包帯だ。回復時間に違いはあれど、多少の傷を塞ぐことができる。ただしデメリットもあって、切断された腕を繋げることなどはできない。それは魔法ではなく、ただの奇跡だから、できない。
今回の場合、人間の治癒能力と『カイフクくん』だけで完全にふさぐことはできない。できたとしても、1日がかりの時間が要する。少しでも早く彼の傷を治して、強くなってもらう必要があり、1日だとあまりにも時間がかかりすぎだ。
マリーは瞬時に考えて、今後の計画を立てる。考えとしては、カルミアが居た家まで彼を運び、その後ロビンの回復魔法で治癒するだ。ロビンの事だ、きっと知りもせず自身の決めつけで攻撃をしたのだろうから、その償いをさせるべきである。
考えを伝えた。
「ロビン。できるよね」
彼は迷うことなく、ただ一言。
「できるよ」
と、了承してくれた。
やはり反省しているようで、頭を抑え、少年に心配した面持ちを見せていた。
彼はいつもそうだ。見た目は知的で友好的に見えるが、実際は怒ると一番手に負えない存在となる。誰の制止も振り切って、すぐに喧嘩を買って、相手を致命傷にまで追い込む。特にカルミアの事に関してはすぐに怒りをあらわにする。沸点が低い。
年齢の割に精神が未熟だ。カルミアのほうがまだ成長していて、落ち着いている。
「ちゃんと反省しなさいね」
「わかったよ。気を付けるよ」
本当にそうなのか――何度も聞いた反省のセリフだが、とりあえず今はいい。
彼を抱えて、『トベルくん』に跨った。
「乗ってく?」
その言葉にロビンは首を振った。
「自分で行く」
反省しているのだろう。すぐに顔に出るからわかった。
「そう。あんま思いつめないようにね」
「わかってるよ」
マリーとロビンは、空へと上昇を開始する。
「…………」
カルミアは、この世界に来て少しおかしくなっている。いや、弱くなっていると言うべきか。とにかく、彼女はカウンセリングが必要だ。
そのためには、ひざ元で寝ている少年――海斗がカギとなるだろう。
信用はしていないけど、カルミアのためにも彼は裏切ってほしくない。正直、裏切ることはないだろうけど、万が一というのがあり得る。あの世界はその万が一を何度も経験し、いくつも存在していたから、違うとわかっていても警戒はした。
「裏切らないでよ。少年くん」
その願いと共に、2人は飛び立った。




