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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
15/63

海斗とカルミアー02

沙月の物が詰まった段ボール箱を自室の押し入れ放り込んだ。

 もうシャワーは浴び終わっており、あとは寝るだけだ。カルミアは寝ているはずだろう。

 部屋の電気を暗くし、椅子に腰をかけ、スマートフォンを操作し、耳にあてた。


「もしもし、姉貴」


 緊張から声が上ずっていた。


「あっ、海斗。珍しいね、電話かけてくるなんて」


 沙月に電話するのは久々だ。大抵は、メッセージのやり取りしかしていない。


「どうしたの? 生活費足りなくなった」


「いや、そうじゃなくって……その、元気かなぁと思って」


「そりゃあもう元気よ。海斗は?」


「俺は………ボチボチかな」


「ボチボチでもいいじゃない。お友達出来た?」


「……二人ぐらい」


「そう。良かったじゃない」


「まぁね」


「学校は、どうなの?」


「あぁ、まぁうまくいってる」


「いじめられてない?」


「いじめられてない」


 そうなるほど自分を見せてないし、関わっていないからだ。


「それなら良かった。お姉ちゃん安心だわ」


「ならよかった」


「学校はもう夏休みかな」


「明日から」


「いいなぁ羨ましい。あたしはまだ先よー。ほんと社会って残酷だわ」


「そうなの?」


「そうだよ」


 扉が開き、枕を片手に持ったカルミアが部屋に入ってくる。


「海斗ー、眠れん」


「あっ」


 姉との電話が一瞬凍り付く。


「待って、今女の人の声しなかった?」


「いや、してない」


口に人差し指を立てて、黙っているようジェスチャーする。


「いや、絶対したと思う」


「してないよ。気のせいだ。……あっやばいもう寝なくちゃ」


 夜の22時。寝る時間でもなんでもない。


「まぁいいわ。久しぶりに声聞けて良かった。体調に気を付けてね。じゃあ、おやすみ」


「うん。おやすみ」


 電話を切った。


 「す、すまない。連絡中だと思わなくて、つい」


「問題ないよ、たぶん。てか、どうしたんだ?」


「ん。あぁー眠れなくて、その」


 枕で顔を隠しながら


「一緒に寝てほしいなぁと思って、えへへ」


「…………」


 添い寝シチュ、いつか来るだろうとは思っていた。だが、まさかこんなすぐに来るとは考えてもいなかったから心の準備はできていない。

 しかし、カルミアの頼みだ。彼女の頼みとならば、やってやろうではないか。

 眠気も、何もかも吹っ飛んだ今、耳元に心臓の鼓動を聞きながら、心を落ちつかせるよう意識は向けていた。


「わ、悪いな。海斗」


 リンゴのように頬を染めながら、彼女はベッドの右半分で横になった。


「………」


 カルミアを跨いで横になった。

 右には壁、左には2歳年上の女性。仰向けもうつ伏せもできず、つい壁側のほうに体を向けて眠ってしまう。

 いや、そもそも寝ていいのだろうか。少年の脳みそによこしまな考えが浮かんだ。

 カルミアは17歳で、海斗は15歳。2歳も年が離れているが、四捨五入もすれば一緒だ。つまり、実質同年代ではないだろうか。


何を考えているんだ。俺は!


 一喝した。

 冷静になるよう深呼吸して頭を落ち着かせる。吸って吐いてを繰り返しながら、仏のように心を落ち着かせ、霊媒師のように邪心を払って、頭に浮かぶのはアレやコレ。

正直に言うと、爆発しそうだった。

なんとか理性によって自分の中に眠る獣を抑え込んでいる。


「海斗……」


 背中を抱きしめられ、心臓の鼓動が激しくなる。全身に血液が駆け巡り、息遣いが荒れる。

 これはどういう状況なのか。一体何が起こっているのか。

 経験したことが無い事態に海斗は、てんやわんやしていた。


「海斗……ごめん。ワレが弱いばかりに、全て任せてしまって」


 炎が鎮火される。


「もしかして、魔物とあの男のやつか。それなら気にするなよ。俺が好きでやっただけだ」


「でも、でも……ワレがもし強かったら、海斗は戦うことも無かった……ウゥ。魔物のときだって、そうだ」


 背中にかおをうずめられ、泣く。


「戦うのが怖くて、海斗に全部任せてしまった。ごめんなさい! ごめんなさい」


 そんな泣くことか、と思うけれど異世界人には異世界人なりの考えとか教え、あるいは定義があるのだろう。

 口を開いた。


「俺は今こうして生きているし、カルミアが助けてくれなかったらたぶん死んでた。お互いさまだろ」


 でも、これじゃ無いというのはすぐにわかった。

 今の彼女に吐くべき言葉は、もっと他にあるはずだ。

 ゼロに近いコミュニケーション能力でなんとか頭で考え、言葉をひねり出した。けど、思いつかない。

 かくなる上は――


「なら、俺強くなればいいよな。そしたらさ、傷つくことも無ければ、カルミアもそんな思いつめる必要ないよな」


 彼女は泣き止む。


「か、可能なのか」


「わかんねぇけど、そうするのが一番よくねぇか」


 強くなる方法はわからないけど、そこはヤミに訊けばいい。彼女であれば教えてくれそうだ。


「だから、そんなに思い詰めるなよ。俺は強くなるから問題ないだろ。で、戦うのが怖いなら、代わりに俺が戦えばいい。これならどう?」


「それだと……」


「メンツが立たねぇってか。この世界には、お前を王女と知ってる奴なんて居ねぇし、ちょっとくらいその重荷を下ろしたって、誰も気づきはしないって」


 だから大丈夫だって、俺に任せろ――言ってて恥ずかしくなり、カルミアの顔が見えない。


「………」


安直だとわかっていたけど、これが一番最善の手だと感じた。

 できるかどうかはわからない。でも、このままカルミアが思いつめられる様は見たくなかったのが本音である。

カルミアが笑ってくれるのなら、王女と言う肩書を忘れられるのなら、嫌いな努力をするし、苦汁だって飲むつもりだ。

彼女がこの世界で生きられるようできることは、何でもやりたい。


「まっ、だからあんま泣くなよカルミア」


 親指を突き立て、余裕綽々だと見せる。


「ありがとう、海斗」


 抱き着く手の力が一段と強くなり、喜びの声をあげながら顔をスリスリと背に擦る。まるでお気に入りのぬいぐるみに顔を埋める子供のようだ。


「どういたしまして。ただその場合『ドラゴンスレイヤー』借りるけど……問題ないよな?」


 ここがポイントであった。いくら戦う決意をしたとしても、あの武器はドラグネス王国の国宝である。それを一般人であり、なんの関係のない人間に渡すなど許されるはずがない。しかし、海斗はあの武器が無ければ異世界人と渡り合うことができないのであった。

 

「そこは大丈夫だ。だって、この世界は関係ないのだろ? なら、問題ない」


 海斗に渡す――『ドラゴンスレイヤー』の所有権が海斗へと移った。ただ元を辿れば彼の前世の所有物であったから、どちらかと言えば元に戻ったが正しいである。


「わかった」


 あの男の恐怖が今でも残っている。しかし、カルミアが死ぬほうがよっぽど怖かった。想像をするだけで身震いが起きるほどに、海斗にとって彼女の存在が大きくなっていたのだった。

 これからどうするけきか考えていると、突然別の場所へと飛ばされた。

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