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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
11/63

救出作戦①

 


 公園から少し離れ、家と等間隔に設置された街灯の場所に2人はいた。

 カルミアはブロック塀の所で公園をチラチラ覗きながら海斗を待っている。


 自分も戦うべきか後悔した気持ちになる。考えてみれば、この世界に来てからずっと負けていた。魔獣にも敗北し、謎の人物にも負けている。おまけにプライドもなく、ただの一般人にドラグネス王国の宝である『ドラゴンスレイヤー』を渡して戦わせてる。

 これほどまでに落ちぶれた王女が居るのか。もし国民が見たらどれだけ悲しませ、失望させるのか。


 わかっていた。


 それでももう彼女には、剣を握る勇気も、覚悟も、守ることもできない。

 カルミアがこの世界で死にかけたあのとき、全てはあれから始まっていた。1人でも戦っていけると自負していたし、孤独になってもこの世界で生きていけると思っていた。だが、突如として現れた魔物に殺されかけ、ただの学生である年下の一般人に助けてもらったのは恥でしかない。

 だから、あのとき逃げた。ドラグネス王国の姫がこんなに弱いと思われたくなかったから、魔物を相手にしても戦えなかった自分を認めたくなかったから、強がり、海斗からの提案を断った。


 今にして思えば、ちっぽけなプライドだ。彼はそんなこと気にもしていなかったし、むしろ異世界人である自分を快く受け入れようとしてくれた。

 王女としてではなく、1人の人間として扱ってくれたのに、「魔獣に負けた王女」というレッテルを貼られるのが怖くて、その場から逃げた。

 その結果、謎の人物に命を狙われ、剣をまともに握れず、敵を前にして背中を向けて逃げてしまった。


 愚か者。

 その言葉がぴったりだ。



「カルミアちゃん。大丈夫?」


 緊迫した空気の中、最初に声をかけたのは真澄のほうだった。

 公園から離れる際、名前のみの自己紹介を終えていたからお互いの呼び名は知っていた。ただ、どういう経緯でこうなったとか、どういう身分で、というのは隠しているのでお互いが何をしている人なのか知らない。

 それも全て、カルミアがレッテルを貼られることを恐れて細かい事に全く触れない選択肢を取ったからだ。


「大丈夫だ。問題ない。真澄のほうこそ大丈夫なのか」


「私は、全然大丈夫だよ。海斗くんが心配だけどね」


 カルミアは表情こそ見せなかったもののギクリとした表情はしっかりと表に出ていた。

 その動揺を隠そうと、


「海斗は大丈夫だ。強いからな」


 と、彼を認めた言葉を口にする。


「そっか。なら大丈夫だね。そもそもあの人はなんなの」



「あの男は……ワレにも知らん。ただ強いということだけはわかった」


「そ、そうなんだ」


「…………」


「…………」


 2人の会話は止まり、ピリピリとひりついてた。

 どうすればいいのか、お互い探り探りの中、突然


バシャン!!


何かが壊れた音が耳に入る。

この音は明らかに公園のほうから鳴っていた。カルミアは、恐る恐るまた公園のほうに目を向けるが、海斗と義信の存在を認識できずにいた。


「なんだ、今のは……」


 海斗の安否が気になり、体が前に出る。しかし、その体は塀の後ろへとすぐに戻した。


「海斗くん……」


 カルミアがじっと様子を窺っているさ中、真澄は意を決して塀から飛び出した。


「なっ」


 驚き、声が漏れる。

 慌てて彼女の手を引っ張り、すぐに塀の後ろへと隠した。


「真澄。危ないから行くな。よせ」


「そうだけど、今の音は確実にまずいときだって」


「そうだが……」


 髪色が金色なのは気になるけども、この世界の人間で魔法が使えないのだと推測すれば、真澄が弱いというのは明白である。それでも、自らあの戦いの場へと行こうとした勇気と勇敢さにカルミアの心は打たれた。

 この世界の人間は確かに弱いけども、意思だけは強いようだ。


「ど、どうして行こうとするんだ……。死ぬのかもしれないんだぞ」


 真澄は、下唇を噛みしめた。


「そうかもしれない。でも、クラスメイトが何かと戦おうとしてるんだよ。ほっとけないよ」


 真澄がポケットからスマートフォンを取り出し、片手で器用にも操作し始めた。


「何をするつもりだ」


「警察に連絡しようと思って。彼らならきっと助けてくれるから」


「……ッ」


 カルミアは、咄嗟に真澄からスマホを取り上げる。


「ちょっと、カルミアちゃん。返してよ」


「ダメだ。返すわけにはいかない」


 警察が来て問題が大きくなることよりも、大多数の死者が出ることを危惧しての行動だった。

 この世界の人間とカルミアが居た世界の人間、どちらが強いかと言われれば後者のほうが確実だ。どれだけ体を鍛えても、異世界の人間の前では木の枝と同じ。簡単に折ることが可能である。

 それは銃も同じで、トリガーを引いて発射された銃弾は、所詮鉄の塊だ。空中を飛ぶ無機物など子供でも扱える防御魔法1つで、簡単に動きを止めることが可能となる。

つまり、何をしても勝つことすらできず、勝負にもならないことが現実だった。

ただ対等に戦うことができるのは、1つだけある。それは、彼らと同じ力を扱うことである。それだけが唯一対等に戦う術である。

 勝つかどうかは、力量次第ではあるが。


「警察が着たら、大勢が死ぬからダメだ。絶対に阻止する」


「どうして」


 カルミアは、感じていることをこのまま伝えるべきか迷った。しかし、伝えなければ彼女は納得してくれない。

 意を決して、カルミア自身が思っていることを真澄に伝えた。


「言いにくい事だが、この世界の人間は弱い。我々よりも遥かに劣っている」


「それって、カルミアちゃんたちのほうが人類として強いってこと……」


「そうだ。我々は、真澄たちよりも遥かに強く、生物として完成している」


 カルミアが居る世界の人間は、自分で火を出すことも、動物を狩ることも、数カ月の治療を短縮することもできる。中には環境や状況により道具を頼らざるをえない人もいるが、それは一握りだ。ほとんどの人間は魔法1つで物事を簡単に片づけてしまう。

 だから、カルミアは「生物として完成している」と言葉にした。


「じゃあ、カルミアちゃんは、どうして逃げたの」


「そ、それは……」


 おかしな話だ。

 生物として完成しているのに、不完全である人間に剣を渡して戦わせる。矛盾した行動をしていることに気付き、言い訳しようとした口をすぐに閉じた。

 だけど、このまま黙っていても状況がよくなるわけがない。


 逃げたい一心で頭のなかに埋め尽くされていた時、「体が怪我していたから」という言い訳が頭によぎった。しかし、その傷はもう自身の魔法によって癒えて塞がっているのだから、嘘と言う扱いになる。


 バレなければいい。


 邪悪な考えが頭によぎるも、自分が何者なのかを問いただす。ドラグネス王国の王女であり、由緒正しきスカーレットの血筋を受け継ぎ、初代国王と同じ赤い瞳を持っているカルミア・スカーレットとしての立場が無くなる。

 カルミアは、1人の人間として決断し、行動した。


「ワレが弱いからだ」


 自分が弱者であることを真澄に対してぶつけた。

 もうそこには、王女も何も関係ない弱さを認めた1人の人間である。

 下に俯きながら、硬貨のような大きな涙をこぼして、赤ちゃんのように大声でワンワン泣いた。


「勝てなかったんだ……ウグッ。あの人間は……ただの人間じゃない。ヒグッ。すごく怖くて、強い。だから逃げた。海斗に全部丸投げしたんだ」


 あまりにも悔しくて涙が止まらない。

 戦士として生きることを決意したあのときから、カルミアは涙を流したことが無かった。それが例え家族の前でも、前線で戦う騎士となったあの日から今のいままで一度たりとも弱い部分を見せなかった。仲間と離れ離れになったときでさえも泣くことはなく、再会を強く誓ったのだ。

 


「悔しい……。弱い自分が悔しい」


 その光景を黙ってみていた真澄は、カルミアを両手で包んだ。


「そうだったんだね」


 包容されたことに、カルミアは戸惑った。

彼女の世界では「怖くて逃げる」行為は、タブーに近い扱いを受ける。冒険者であれば経歴に傷をつけることになるし、罰金を支払うことになる。それだけならいいのだが、場合によってはギルドで二度とクエストを受注できなくなるケースだってある。

なんせ、またクエスト中に逃げられればギルドの名誉は下がるし、備品が無駄になる。だから、逃げた際は嘘でも「次への準備」と言うのが暗黙のルールだ。

 冒険者でも逃げられない。それを踏まえた時、一国の王女が逃げたと知ったら国民から大ブーイングなのは間違いなし。居場所がなくなるだろう。


「………」


 だが、この世界の人間は逃げた者に対して優しく抱きしめ、共感してくれた。

 逃げた自分を責めていたが必要ならば逃げてもいい、と彼女の暖かさから伝わってくる。


「辛かったね。大変だったね」


「真澄……」


 彼女の優しさに甘えてしまう。

 そこにいるのは、王女ではない。1人の女性だ。


 カルミアの情熱的な赤い瞳から、1つの雫がゆっくりと零れ落ちる。

 

「ウウゥ……真澄」


 また1つ雫が流れる。今度は、左目だ。

 流れ星のように落ちる涙を止めることは、カルミアにはできない。けれど、今は止める必要があった。

 ここで泣いていれば、海斗が死ぬからだ。

 今からあの戦場に戻るのは怖いし、恐れている。だけど、自分のために命を落とされるほうがもっと怖かった。

涙を止め、真澄に熱いまなざしを向ける。


「真澄。もう一度あそこに行く。ありがとう」


 真澄に頭を下げ、カルミアは進んだ。

彼を救うために、もう一度あの場所へと落ちるつもりでいるが、体からは拒否反応が出ていた。手がブルブルと震え、とてもいいコンディションとは言えない。感情を吐き出しても、理解しても、剣を握って戦う怖さと言うのは乗り越えられなかった。


「カルミアちゃん、待って。私に考えがあるの」


 真澄の静止に足を止め、振り返る。


「考え……どんな内容だ」


「ただの時間稼ぎしかできないだろうけど、あのねコレを使おうと思うの」


 そう言って彼女の掌に乗っていたのは、卵状の道具だった。




 真澄から聞いた作戦は、正直微妙だった。

 そんな簡単に上手く行くとは思えず答えるのに少々時間がかかったが、海斗を救出し、自分たちも無事に逃げることに着目した場合、悪くない案ではあった。

 ただ問題があるとすれば、海斗が生きていることである。もし海斗が死んでいれば、作戦は元も子もない、意味が無いものとなってしまう。

 だから、強く願うしかない。生きていることを。


「それで行ってみよう」


「よかった!」


 真澄は表情が和らぎ、安堵した面持ちで胸を撫でおろした。


「真澄。こんなことに巻き込んでしまってすまないな。本当はワレが解決するべき問題なのに」


「大丈夫だよ。気にしないで」


「ありがとう」


 海斗といい真澄といい魔法を持っていないのに戦う意思があり、覚悟を持つ強さを持っている。もし世界が違えば、最強の戦士に成り上がることができただろう。

 彼らを敵にしたくない、と強く願うカルミアであった。


「では、行こう」


「うん。そうだね」


 カルミアと真澄の足が進み、公園の敷地内へと足を踏み入れた。

 海斗救出作戦の幕開けだ。


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