表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想い出屋 アンティーク  作者: 麒麟草
蓄音機 ~おばあちゃんの声~
4/7

第四話

改めて、店内の品々をゆっくりと見て回った。


あちこち傷ついてボロボロになっているものがあるかと思えば、

100年以上も昔に作られたはずなのに、とても良く手入れされていて、

傷一つ見当たらない骨董品があったりする。


「一つ一つの骨董品に、持ち主のたくさんの想い出が詰まっている。

例えば、この時計。

ほら、ここに傷跡がついているだろう?この傷跡一つ取ったって、そうなんだ。

実はこれは、私の家で昔使っていた置き時計なんだけれど」


田崎さんは、置時計を手にとって、私に見せてくれた。

角にちょっと大きめの傷が付いている。


「この傷跡は、小学生の頃に昔慌てて落としてしまってね。

それで母にこっぴどく叱られた。

私の祖母の代から使っていた、年代ものだったからね。

でも、今となっては、叱られた記憶も懐かしい。

目立たないように修理してしまうことも出来るんだけど、

直さずにそのまま置いているんだよ」


田崎さんのお母さんは数年前に他界したのだという。

この時計の傷跡は、そのお母さんとの想い出の一つというわけだ。

確かに、それは直せないよなあ・・・と思う。


このお店には、お客さんから譲ってもらった骨董品も数多く飾られているんだそうだ。

持ち主の人から骨董品にまつわるエピソードを聞かせてもらうのが、私の楽しみなんだよ、

田崎さんはそう言う。


静かな足音がこちらへ近づいてくるのが聞こえた。

「あら、珍しいわねえ。随分と若いお客さん」

そう言って笑いながら、エプロンを付けたおばさんがこちらにやってきた。

私はぺこりと頭を下げる。


多分、私の母と同じくらいの年齢。40代半ばくらいだろうか。

聞けば、女の人は田崎さんの娘さんだという。良子さんというそうだ。


・・・なんとなくわかってはいたけれど。

なぜかって、その優しげな目もと。

田崎さんそっくりだ。


四人掛けの小ぶりなテーブルに案内してもらった。

このテーブルも椅子も、随分年代ものに見える。

これも、このお店のアンティークなのだろう。


椅子もとても高そうだ

座っちゃっていいのかな。ちょっと緊張する。

私は恐縮しながら椅子にかけ、お店の品々を眺めた。


しばらくしていると、良子さんがコーヒーとお菓子を持ってこちらへやってきた。


良いんだろうか。お金、払わなくていいのかな・・・。

思わずバッグの中の財布に目が行ってしまう。


「お金払わなくちゃ、とか思ってない?――気にしなくていいからね」

良子さんは笑ってそう言う。


う・・・図星だ。

丁寧にお礼を言って、コーヒーとお菓子を頂いた。


「――美味しい」

自然とそう口をついて出る。


確か、このお菓子はフロランタン、だったかな。

キャラメルとアーモンドの香りが口の中に広がる。美味しいな・・・


お菓子とコーヒーを頂きながら、良子さんと話をした。


「このお店は、半分はお父さんの道楽みたいなものなの。ただ、お父さんも、もういい歳だから・・。

一人にしておくのが心配だから、私がこうやって週に3,4回は

 お店に手伝いにきているの」

「まだまだ大丈夫だと言っとるんだけどなあ・・・」

田崎さんは苦笑する。


そのまま陽が落ちるまで、2時間くらいずっと、田崎さんと良子さんと話し込んでしまっていた。


自分で言うのもなんだけれど、私は人と話をするのがあまり得意じゃない。

だから、今日初めてあった人と2時間もずっと話し続けるなんて、滅多にないことだ。


辺りが薄暗くなってきた。もう流石に家に帰らないといけない。

二人に丁重に今日のお礼を伝えて、私はお店を後にした。


夜へと移りゆく街を歩きながら、私は今日の一日を振り返っていた。


ふさいでいた気持ちがすっと晴れていくような一日だった。

久し振りに、穏やかな春の陽の光を感じることができた気がする。


その夜。

電気を消してベッドの中で今日の出来事を思い出していると、不意に優しかったおばあちゃんの顔が脳裏に浮かんできた。


あのお店の田崎さんや良子さんと話をしていると、

まるで亡くなったおばあちゃんと一緒にいるような、懐かしい、温かい感じがするのだ。


おばあちゃん。

本当に私を可愛がってくれた。


子供の頃、おばあちゃんの家に行くのが本当に楽しみだった。

私がおばあちゃんの家に行くと、いつもにこにこして頭を撫でてくれた。

その優しい手のひらの感触は、今もはっきりと覚えてる。


無条件に愛情をくれる存在、とでも言えばいいんだろうか。


私が中学校の頃まで頑張れていたのは、きっとおばあちゃんの存在が大きかったに違いないと思う。


けれど、私を可愛がってくれたおばあちゃんは、私が中学の頃に亡くなってしまった。


本当に突然のことだった。

一日前までは母と普通に会話を交わしていたのに、突然倒れて、そのまま息を引き取ってしまった。

だから、「おばあちゃんが亡くなった」と母から聞かされた時、

私はそれが現実のことだと、しばらく理解することができなかった。


火葬を終えて、骨だけの姿になってしまったのを見て、私はようやく、「ああ、おばあちゃんは、もういないんだ」ということを理解した。


でも、今日という日。

またおばあちゃんに会えたような、そんな感覚がしたのだ。


優しかったおばあちゃんの事を思い出す。

じわりとこみ上げる大粒の涙が、頬を伝っていく。


部屋の外に声が漏れないように、私は静かに泣き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ