第三話
陽の光があまり入らないせいなのか、店内は外より少しひんやりとしていた。
お店の奥のほうまで行くと、かなりうす暗い。
シェードのついた白熱灯の光を頼りに進む。
ぼんやりとした白熱灯の光に照らし出される骨董品の数々が、ちょっと怪しげな雰囲気を醸し出している。
まるで魔法がかかっているみたいだな、と思う。
小ぶりの置時計が目に入る。
あまりごてごてとした装飾がされていない、シンプルな作りの時計だ。
ローマ数字の描かれた小さな時計盤。その下には小さな引き出しが付いている。
小物入れだろうか。
思わず、時計の小さな引き出しの取手に手を伸ばす。
――その時。
「おや、こんなに若いお客さんとは珍しい」
少しくぐもった声。
はっとして後ろを振り向くと、ベージュ色のエプロン姿のお爺さんが立っていた。
サンタクロースを思わせるようなもじゃもじゃの白い鬚。まん丸の銀縁のメガネ。
そして何より優しそうな眼が印象的だ。
多分、このお店のご主人だろうと直感した。
「ご、ごめんなさい。勝手に触ってしまって・・」
悪いことをしてしまった、という後ろめたさで、あたふたとしながら頭を下げる。
「いやいや、構わないよ。驚かせてしまったようで申し訳ない。ゆっくり見ていって下さい」
「このお店の、ご主人の方――ですか?」
「うん。その通り。
ただ、ここはお店とは言っても名ばかりでね。
ショールームに近いかもしれない。
この店で飾っている骨董品は、そんなに積極的に売ろう、という気があるわけでは
なくてね。
欲しいという人がいるならば、誰かに譲ることも無いわけじゃないんだが。
まあ、年寄りの道楽というやつだよ。
定年後にこの店を始めたから、もう10年くらいになるかな」
窓越しに見える穏やかな瀬戸内海の凪を眺めながら、お爺さんは静かに答えてくれた。
「えっ・・そうなんですか・・」
私は、生まれてから16年間、ずっとこの街に住んでいるのに。
こんなに近所にある、このお店のこと、全く知らなかった。
ちょっと恥ずかしい。
「この店は小さいけれど、飾っているアンティークの数は、ざっと百以上はあると思います。
ぜひゆっくり見ていって下さい」
その後、ご主人――田崎さんというらしい――から、アンティークのことについて少し教えてもらった。
100年以上前に作られた工芸品や美術品。それを“アンティーク”と呼ぶそうだ。
今から100年前というと、確か第一次世界大戦の頃だ。
歴史の教科書でしか知らない時代のものが、このお店に飾られている。
そう思うと、なんだかすごいことだ。




