第二話
何で?どうしたの?頑張らないと、私。
自分に言い聞かせても、どうしても朝、ベッドから出ることができなかった。
高校には体調不良ということにしている。
けれど、体調不良を理由にして何日も学校を休み続けたら、さすがに学校の先生たちも、おかしいと思い始めるはずだ。
もう学校を休み始めてから一週間近くが経ってしまっている。
―――いつまで隠し通せるだろう?
何でこうなっちゃったんだろう。
母にとって、良い成績を取ることが出来ない私は、きっと価値が無い子なんだ、と思う。
この家のどこにも自分の居場所が無いように思えてきて、私はベッドの中でただただうずくまることしかできないでいた。
ピンポーン・・・
インターホンの音にびくりとする。
何も悪いことをしていないのに、犯罪者のような、後ろめたい気持ちを感じてしまう。
ベッドから起き出して、インターホンの画面におそるおそる目をやると、そこには麻衣が立っていた。
・・・ああ、麻衣か。良かった。
麻衣は中学時代からの同級生だ。クラスは違うけれど、同じS高校に通っている。
急いでマスクを付けて玄関まで歩いていき、ちょっとだけドアを開ける。
「ちょっと、大丈夫?なんか体調良くないって聞いたけど?」
心配そうに私を見つめる麻衣の顔を見るのが忍びない。
とっさに顔を下にそむけてしまう。
その後、無理に笑顔を作って麻衣に伝える。
「大丈夫だよ、心配いらないって。ちょっとたちの悪い風邪ひいちゃったみたい」
麻衣にまで迷惑はかけられない。
私は、気づかないうちに、自分の気持ちに仮面を付ける癖が付いてしまっていた。
麻衣は中学の頃から心配性だ。
まだ何か言いたそうだったけれど、
体調が悪いと言い張る私を気遣ってくれたのか、それ以上は何も言わずに帰っていった。
嘘ついちゃった。
麻衣に悪いことをしちゃったな・・・。
ごめんね、と心の中で思いながら、麻衣の後ろ姿を見送り、私は静かに家のドアを閉めた。
窓から外を眺める。
今日は久しぶりの良い天気だった。
私が学校に行けなくなってから、ずっと雨の日が続いていたのだ。
だから、今日は家から出て、散歩してみようという気になったのだ。
きっかけとしては、ただそれだけの事だったと思う。
後からわかることだけど、今日という日は、私の人生を変える出会いの日になった。
でも、今から思うと、私がそのお店に出会ったのは、ほんの私の気まぐれからに過ぎなかったはずだ。
春の陽気で華やぐ通りを、あても無く歩いていく。
「桜が綺麗ですねえ・・・」
「本当にねえ・・」
近所のおばさん2人組が話し込んでいる。
悩みなんか、全然無さそうに見える。羨ましいな・・・。
学校を休んでいる、という後ろめたさがあったから、いつも登下校に使っている道をなんとなく歩きづらくて、一本隣の通りを歩いていく。
距離にしたら10mも離れていないのだけれど、この通りを歩くのは今日が初めてだ。
もう一年も学校に通い続けているのに、一度もこの通りを歩いたこと、無かったな・・。
一本隣の通りに入っただけなのに、通りの景色がとても新鮮に映る。
はたと足が止まる。
――あれ?このお店、なんだろう?
何の気なしにふっと見やると、そのお店には、木彫りの看板がかかっていた。
「想い出屋 アンティーク」
看板には、そう書かれている。
アンティーク・・・。
窓からお店の中をのぞいてみる。
薄暗い店の中には、古い時計やティーカップなどが置かれているのがぼんやりと見える。
多分、看板に書かれている通り、アンティークショップなのだろう。
――なぜそうしたのかは、今でもよくわからない。
ふらりと何かに引き付けられるように、私はお店に近づき、入り口のドアを開けた。
ドアに架けられた小さなドアベルが、カラリン――と涼しげな音色を奏でる。
私はゆっくりとお店の中へ入っていった。




