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想い出屋 アンティーク  作者: 麒麟草
蓄音機 ~おばあちゃんの声~
2/7

第二話

何で?どうしたの?頑張らないと、私。

自分に言い聞かせても、どうしても朝、ベッドから出ることができなかった。


高校には体調不良ということにしている。

けれど、体調不良を理由にして何日も学校を休み続けたら、さすがに学校の先生たちも、おかしいと思い始めるはずだ。


もう学校を休み始めてから一週間近くが経ってしまっている。

―――いつまで隠し通せるだろう?


何でこうなっちゃったんだろう。


母にとって、良い成績を取ることが出来ない私は、きっと価値が無い子なんだ、と思う。


この家のどこにも自分の居場所が無いように思えてきて、私はベッドの中でただただうずくまることしかできないでいた。


ピンポーン・・・


インターホンの音にびくりとする。

何も悪いことをしていないのに、犯罪者のような、後ろめたい気持ちを感じてしまう。


ベッドから起き出して、インターホンの画面におそるおそる目をやると、そこには麻衣が立っていた。

・・・ああ、麻衣か。良かった。


麻衣は中学時代からの同級生だ。クラスは違うけれど、同じS高校に通っている。


急いでマスクを付けて玄関まで歩いていき、ちょっとだけドアを開ける。


「ちょっと、大丈夫?なんか体調良くないって聞いたけど?」

心配そうに私を見つめる麻衣の顔を見るのが忍びない。

とっさに顔を下にそむけてしまう。


その後、無理に笑顔を作って麻衣に伝える。

「大丈夫だよ、心配いらないって。ちょっとたちの悪い風邪ひいちゃったみたい」


麻衣にまで迷惑はかけられない。

私は、気づかないうちに、自分の気持ちに仮面を付ける癖が付いてしまっていた。


麻衣は中学の頃から心配性だ。

まだ何か言いたそうだったけれど、

体調が悪いと言い張る私を気遣ってくれたのか、それ以上は何も言わずに帰っていった。


嘘ついちゃった。

麻衣に悪いことをしちゃったな・・・。

ごめんね、と心の中で思いながら、麻衣の後ろ姿を見送り、私は静かに家のドアを閉めた。


窓から外を眺める。

今日は久しぶりの良い天気だった。


私が学校に行けなくなってから、ずっと雨の日が続いていたのだ。

だから、今日は家から出て、散歩してみようという気になったのだ。

きっかけとしては、ただそれだけの事だったと思う。


後からわかることだけど、今日という日は、私の人生を変える出会いの日になった。

でも、今から思うと、私がそのお店に出会ったのは、ほんの私の気まぐれからに過ぎなかったはずだ。


春の陽気で華やぐ通りを、あても無く歩いていく。

「桜が綺麗ですねえ・・・」

「本当にねえ・・」

近所のおばさん2人組が話し込んでいる。

悩みなんか、全然無さそうに見える。羨ましいな・・・。


学校を休んでいる、という後ろめたさがあったから、いつも登下校に使っている道をなんとなく歩きづらくて、一本隣の通りを歩いていく。


距離にしたら10mも離れていないのだけれど、この通りを歩くのは今日が初めてだ。

もう一年も学校に通い続けているのに、一度もこの通りを歩いたこと、無かったな・・。

一本隣の通りに入っただけなのに、通りの景色がとても新鮮に映る。


はたと足が止まる。


――あれ?このお店、なんだろう?

何の気なしにふっと見やると、そのお店には、木彫りの看板がかかっていた。


「想い出屋 アンティーク」

看板には、そう書かれている。


アンティーク・・・。


窓からお店の中をのぞいてみる。

薄暗い店の中には、古い時計やティーカップなどが置かれているのがぼんやりと見える。

多分、看板に書かれている通り、アンティークショップなのだろう。


――なぜそうしたのかは、今でもよくわからない。

ふらりと何かに引き付けられるように、私はお店に近づき、入り口のドアを開けた。


ドアに架けられた小さなドアベルが、カラリン――と涼しげな音色を奏でる。

私はゆっくりとお店の中へ入っていった。


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