34話 妹、魔法を語る
大変お待たせ致しました。
あとがきにて一つ、ご報告があります。
一部、内容を変更致しました。
「それでは授業を始めます」
ルーちゃんがそう口火を切った。
「はい、お願い致します」
「先程、ミーナさんが述べた通り『魔法』には『詠唱』、そして『魔法式』が必要になります」
ルーちゃんが収納魔法から紙とペンを取り出し、つらつらと文字を綴る。
「これは火の初級魔法【火球】の詠唱ではこれを呼んでください」
ルーちゃんはそう言うと私にその紙を手渡す。
それを受け取り、私はそれを口に出して読んだ。
「『炎よ、我が手に宿り、敵を焼け』」
私の手から小さな火の玉がポンと出現した。
「はい、見事成功しましたね。それでは今、頭に浮かんでいる魔法式をその紙に書いてみてください」
「えっと、うん」
ルーちゃんの指示通り、私はその紙に魔法式を書いた。魔法式とは魔法を発動するのに必要なもう1つのプロセスで、詠唱した魔法を安定させる為に頭の中でそれを式に起こすのだ。
只、感覚的な話なのでそれを式に起こすのは意外と難しい。一応、七属性は基本の式が決まっており、それを元に魔法の位階が上がる事に複雑になっていくと言われている。
斯く言う私も始めて魔法式をおこしたのでとても難しかった。ちなみに魔法式は『文字』ではなく『図形』で表す。【火球】の魔法式は二重の円の中に六芒星の入っている図に表された。
「うん、上手に書けていますね」
ルーちゃんから御褒めの言葉を貰ったが一流の魔法師の方の魔法式と比べると随分と不格好だった。
「さて、今ミーナさんは『詠唱』、そして『魔法式』に触れたわけでしたが、どんな感想をお持ちになりましたか?」
「えっと、率直な感想を言うと難しいですね。『詠唱』は一言一句違わず覚えなければ行けないですし、魔法式も頭に浮かべるのは出来るけれど、式に書き出すのは一苦労。正直初級魔法でこんなに手こずっていたら先が思いやられますね…」
私が感想を述べるとルーちゃんは満足気に微笑んだ。
「はい、私もそう思います。兎に角『詠唱』も『魔法式』も面倒くさいんですよ。特に『魔法式』なんて超級魔法になると複雑すぎて式に起こすのなんて常人じゃやってらんない程ですよ。だから超級魔法は普及してないんです!魔法学は年々衰退していっています。
今から二百年前は大人なら誰しも上級魔法までは使えたそうです。それが今は中級魔法を使えるだけで持て囃され、上級魔法を使えれば天才と呼ばれる。超級魔法以上になれば英雄と讃えられる。
このまま行けば魔法学はかならず衰退を極めていきます!全く、腐った世の中ですよ!!」
ルーちゃんはまるで何かに憑かれた様に饒舌で熱弁する。余りの勢いに私も私の隣にいるティファも思わず引いてしまった。
私達の様子に気がついたのか、ハッとするとルーちゃんは顔を真っ赤に染めてその場に蹲ってしまった。
「や、やってしまいました…」
「る、るーちゃん?」
「私、魔法の事になるとどうにも熱が入ってしまって、よくお兄様にもそうやって引かれてしまったのです…。私、今まで魔法を教えられる立場だったので教える立場になれたのが嬉しくて、つい舞い上がってしまいました…。ミーナさん、ティファさん、お見苦しい所をお見せしました」
いつもお淑やかな可憐な少女のいじけた姿につい――
「ふ、ふふふ」
私は笑いを堪えることが出来なかった。
「み、みーなさん、笑わないで下さいよ…」
「ご、ごめんなさい。ルーちゃんのそんな姿始めて見たのでつい…」
ふと、隣を見るとティファを微かに笑っていた。
「お、おふたりともぉ~」
ルーちゃんの可愛い一面を見れて、嬉しかった。
「うぉっほん。それでは気を取り直して授業を再開致します」
頬の赤みの消えないルーちゃんが大きな咳払いをして、誤魔化したかのように話を進行させる。
これ以上は無粋だと感じたので私はルーちゃんの話に耳を傾けた。
「ミーナさん、先程述べました通り、『詠唱』と『魔法式』は面倒くさいんですよ。だったら手っ取り早くこれを無くせば簡単ですよね?
そこでこれからミーナさんに身につけてもらうのは『無詠唱魔法』です」
「いや、ルーちゃん。さすがにそれは無理ですよ。『無詠唱魔法』とは賢者と呼ばれるほど卓越した魔法師が何十年という月日をかけて到達する言わば魔法の極地です。そんなの私ができる訳ありませんよ!」
私は声を荒らげてそう話す。だがそれも無理ない事だ。それ程『無詠唱魔法』とは高度なものなのだ。
寧ろなんの違和感もなくこれをやってのけているこの兄妹がおかしいのだ。この王国で『無詠唱魔法』が使えるのはガイル騎士団長、宮廷魔法師団総督 クーゲル・ルード、そして冒険者ギルドリューグリア支部最高責任者 リリエッタ・リューグリア殿の僅か三名だけなのだ。
「ミーナさん、どうして『無詠唱魔法』がそんなに難しいと思っているのですか?」
「そ、それは『無詠唱』で魔法が使える原理が解明されていないからですよ」
そう、『無詠唱魔法』が普及していない理由はその原理が解明されていないことが原因なのだ。
本来、魔法とは『詠唱』と『魔法式』という二つのプロセスを経て完成する。
そしてそれさえ分かっていれば魔力を用いて誰でもその魔法が使える。
それを後世に残す為、『魔導書』と呼ばれる各魔法の『詠唱』と『魔法式』が書かれた書物が流通しているのだが、初級魔法の魔導書は比較的安価なのだが中級魔法ほどになると話が違う。
中級魔法とは魔法の才能のあるものが鍛錬を積み、使えるようになるものなので魔導書の価値も総じて高いのだ。
中級魔法魔導書は金貨5枚から、上級魔法魔導書までいくとこれまた一気に高くなり紅金貨1枚からなのでほとんど買えるものは居ないほどだ。
また、いくら魔導書が手に入ろうとも、使用する魔力量が足りていなければ使用出来ないため、上級魔法魔導書を買えるほど財のあるものは魔法師を雇い、魔法を教えを乞う方がより魔法を習得できる為あるとも言われている。
話は戻り、『無詠唱魔法』はその二つのプロセスを全く必要としない為、方法の確立の仕様がなく、机上の空論だった。
しかし、現に『無詠唱魔法』を使える者がいる。
そして使える者は例において皆『天才』と呼ばれる者達だ。
そんな彼らからしたら「え?逆になんで使えないの?」という感覚らしく、誰かに『無詠唱魔法』を習う事は現代においては不可能であった。
「えっとですね、『無詠唱魔法』なんて大それた名前がついていますが原理はそれほど複雑じゃないんです。と言うか、簡単のなら今のミーナさんでも出来ますよ」
「ほ、本当ですか!?」
魔法についてはお屋敷にいる時に魔法師の教師によって基礎は習っていたがその程度の私でも『無詠唱魔法』が使えるというルーちゃんの言葉に私は驚きを隠せずにいた。
「はい。それでは実際にやってみましょう」
そう言うとルーちゃんは私に指示を飛ばし始めた。
「まずは先程の『火球』の魔法からやってみましょう。では、ミーナさん。まず炎をイメージしてください」
私は言われた通り燃え盛る炎を脳裏でイメージする。
薪をくべた暖炉の中で燃える炎。
すると、次第に右手が熱くなってくる感じがした。
「良い感じですね。では次にその炎を球体にするイメージをしてください」
「炎を球体に、ですか?」
「そうです、ならべく綺麗な球体イメージしてください」
私は言われた通りに炎を丸く丸くするイメージをする。
そしてイメージが完成した時ふと不思議な感覚に陥った。
(あれ?この感覚って…)
「どうやら成功したようですね」
ルーちゃんが私の手元を見て満足げに頷いていた。
それに伴い私も自分の掌を見た。
するとそこには紛れもない初級魔法『火球』が完成されていた。
「えっ!?ん!?どっ、どういう…」
言葉も出ないとはまさにこの事だろうか。私は目の前の現象に理解が及ばなかった。
「ミーナさん。これが『無詠唱魔法』ですよ」
戸惑う私に向かってルーちゃんがにこりと微笑みながらそう話す。
「えっと…。つまり…、無詠唱魔法の正体って…」
「そうなんです。『無詠唱魔法』の正体とは詰まるところ人間のイメージ力の具現化なんです。
私とお兄様の魔法の師匠であるお母様曰く「人間の脳には魔法を構成する『魔脳』という器官があり、そこによって魔法式を構築している。
ではその器官を訓練によって他の人間より発達させたらどうなるか。
答えは魔法式や詠唱無しに別の手段を元に魔法を構築可能になる。
その手段とはイメージ力。人間の想像力によって如何なる魔法をも構築可能になる」のだそうです。
私とお兄様はお母様の元で幼い頃から『魔脳』を発達させる訓練を行ってきました。
それによって私とお兄様は『超級魔法』までは無詠唱で発動出来るようになったのです」
ルーちゃんの語った『無詠唱魔法』の真実に私はまるで酩酊したかのようにふらりと倒れそうになった。
人間に備わる『魔脳』という器官の存在。人間が魔法を使用出来る理由はそこにあった。
長年解明できなかった世界の謎である『魔法』。
それが脳に備わる器官が作り出した異能の力とは誰が解明できるだろうか。
そもそもこれをどうやって彼女の母親は知り得たのだろうか。
私は恐る恐るそれを彼女に聞いた。
「うーん、確かお母様は人間の体を調べる事を良くしていたらしく、人間がどうやって魔法を使っているのか調べたそうです。その為に沢山の人間の死体を解剖、解析した後、生きた人間を使った調査を何年もした結果、『魔脳』の存在を知り得たと言っていた様な気がします。
私も詳しくは聞いたことがありませんし、これを聞いたのも小さな頃でした。
なのでこれが真実とは限りません。まぁ、お母様なら知りたい事があればどんな手段を使ってでも知ろうとするでしょうから、あながち今の話も間違ってないのかもしれませんね」
「そ、そんな…」
人間の死体の解剖に生きた人間を用いた調査。
それが事実なら常軌を逸しているとしか言えない。
しかし、何処か納得出来てしまった。
目の前の少女とその兄は明らかに常軌を逸している。そんな彼女らを育てた母親だ。
どれほど『人間』離れしていても納得出来てしまう。
もし仮に今の話が事実だったとしても私は彼女の母親を異常者と糾弾する事は出来ない。
何故なら彼女らは私と弟、そして執事他従者達の命の恩人かつ私の初めての友人なのだ。
そんな彼女らを育ててくれたその人を糾弾出来るはずはなく糾弾してはならないだろう。
なので私はこう話した。心の底から思っていることだったが目の前の少女はそれにとても可憐な笑顔で答えてくれた。
「凄い御方なのですね」
「はい!私達の自慢のお母様です!」
◇◇◇
ルーナの無詠唱魔法についての説明を終え、二人は傍にあった切り株に腰を下ろすとこれからの訓練について話し始めた。
「では『無詠唱魔法』の原理が分かった所でこれからミーナさんにやって頂く訓練についてお話しますね」
「はい。お願いします」
ルーナが頷くと話を始める。
「それではこれからミーナさんには『魔脳』を鍛える訓練を行ってもらいます。
そしてある程度その訓練が終わったら私がミーナさんに実戦で使える魔法をお教えします。それと並行してミーナさんには基礎魔力量を増やす訓練も行ってもらいます」
「成程。まずは基礎からということですね?」
「その通りです」
「それでは『魔脳』を鍛える訓練について説明を致します。これは中々大変ですのでめげずに頑張ってください」
「はい!それでその訓練の方法は?」
イミーナが元気よく返事をすると訓練の内容についてルーナに問うた。
ルーナは一拍おいてからイミーナに宣言した。
「それは兎に角魔法を使いまくることですね」
「それだけ?」
「それだけですよ?」
「え?あの何か特殊な訓練とかは…」
「ありません」
「ただ魔法を使うだけ?」
「使うだけです」
「………」
イミーナが下を向く。
彼女は誰も知らないことだが実は冒険譚が大好きだった。
無能と蔑まれた少年がある日世界最強の魔法士に会い、弟子となり成り上がる話。
突如異世界に飛ばされた少年が強大な力を手にし、様々な敵を打ち倒し、世界を救い、美女を何人も囲うハーレムを形成する話。
魔物に生まれ変わった男が打ち倒した魔物達を配下につけ、自分の国を作り出す話などetc.etc.……。
彼女は隠れてはこの手の冒険譚を買い込んでは目を輝かせてそれを読む、言うなればヲタク女子だった。
そしてそんなヲタクが一度は思う最早この世の摂理であろう一つの感情。
「あぁ、自分にもそんな力があれば…」と。
そんな感情を密かに持っていたイミーナは期待していたのだ。
血のにじむ程の鍛錬の末、絶大な力を手に入れる冒険譚の主人公のような自分の姿を。
目の前の少女の様な何者をも寄せ付けぬ無類の強さを手にする自分の姿を。
しかし、それは目の前の少女の一言で潰えた。
「で、では私はこれから兎に角…「魔法を使いまくってください。そして魔力が終わったら私が魔力をミーナさんに送ります。そうしたらまた魔法を使いまくる。この繰り返しですね」
「魔力が完全に無くなるまでって…」
「はい、魔力枯渇による倦怠感が襲ってきますがそれは私が魔力を送りますので一瞬のことです。なので一度も休む必要はありませんよ」
「あまりゆっくりとやっているとお兄様と進度がずれてしまいますからね。リッカさんはお兄様曰く、そこそこ基礎が出来てるらしいのでミーナさんは急がないと行けませんから。
力技になりますが効果はありますのであしからず」
「は、はは…」
「ではミーナさん。早速始めましょうか。あぁ、ミーナさんの今の基礎魔力量は500程ですかね。その年でこの値ならミーナさんはやはり魔法士の才能があるようですね」
「っ!?ほ、本当ですか!?」
目の前の正真正銘の天才に才能があると言われイミーナは嬉しさと驚愕に打ちひしがれる。
しかし、彼女はその嬉しさの余り聞くと後悔する事を聞いてしまった。
「ち、ちなみにルーちゃんの基礎魔力量はどれくらいなのですか」
「私ですか?私は凡そ二十五万と言った所でしょうか」
「に、にじゅっ!?!?!?」
実はルーナは新たにクリスタという師匠を手に入れた事で更に実力を上げていた。
それによって嘗ては二週間で千程だった基礎魔力量の上昇率が二倍なり、二年間で十万も基礎魔力量を増やしていたのだ。
今では基礎魔力量だけで言えば『七つの首』の一人であるクリスタに追い付く程だ。
明らかに常軌を逸しており、流石のレインもこれに関しては苦笑し、そんなルーナを育てたシアとクリスタは「「流石私の可愛い娘!!姪!!」」と涙を流して喜んでいた。
「はい。でも、まだまだです。お母様を追い越すまで頑張ります!」
「ティ、ティファぁ…」
「お嬢様ぁぁ、お気を確かにぃ~」
やはり龍に育ててられた兄妹はおかしいようです。
お久しぶりです。星井兎宇結です。
約一ヶ月失踪していた訳ですが実は兼ねてから考えていた『新作』の執筆をしておりました。本当はもう少し早くにご報告したかったのですが何分学生の身ですので定期考査があったりなど中々小説に手をつけることが出来ず一ヶ月もお待たせしてしまいました。
本当に申し訳ございません。
さて、この度投稿を致します新作のタイトルですが……
「盲目の老剣士は頂きを目指し再び舞う」
でございます!!
一年間我ながら試行錯誤しながら投稿をしていましたこの作品とは全く異なる面白さがあると自負しております。
是非ともこちらの作品も読んでいただけると幸いでございます。
あらすじを載せると長くなってしまいますので気になった方は目を通して頂くと有難いです。
それではこれからは「龍に育てたられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです」と
「盲目の老剣士は頂きを目指し再び舞う」の二作品をよろしくお願いします。




