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龍に育てられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです  作者: 欲しい灯油
1章 レイギス王国編
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35話 弟の成長と兄の矜恃

お待たせ致しました。

 リカードとイミーナがレインとルーナにそれぞれ剣と魔法を学びだして早、三ヶ月が過ぎた。


 リカードは自身の恐怖に打ち勝ち、『心』の鍛錬に加えて剣術の鍛錬と組手の訓練を始めている。


 イミーナに関しては当初予定していたよりかなり早い速度で成長をし、今はルーナによる実戦的な魔法運用に着いて指南を受けていた。


 二人の成長速度の速さにはレインとルーナも目を見張るものがあった。

 しかし、二人はそうなって当然の理由があった。


 リカードとイミーナは言うなればサラブレッドなのだ。

 レイギス王国の公爵家とは国王の懐刀である。その地位に求められる能力は他を圧倒するものでなければならない。その為にヴェルダイン公爵家はある方法を用いた。それは『血』の洗練である。

 とある分野で他の追随を許さぬ才を持ったものの血を取り入れることによって洗練された人間を作り出す。

 それを何度も何度もそれこそ百年あまりも繰り返した結果が今のリカードとイミーナなのだ。


 ある時は剣の才能を持つ男を、ある時は魔法の才を持つ女を、またある時には絶世の美を持つ女を、と。


 幾ら優秀な『血』を取り入れたからと言って優秀な人間が生まれてくるとは限らない。

 しかし、ヴェルダイン公爵家は決まって優秀な子供が生まれてきた。先代を超える子がさらに自分を超える子を産む。

 その連鎖が完成された人間を生み出す。王家という温室で育てられた愚者よりも『血』の洗練を行い続けた公爵家の子供が優秀な件などざらであった。


 そしてその中でも取り分け優秀と謳われてきたのだリカードとイミーナなのだ。


 リカードは比類なき剣の才を、イミーナは完成された美をその身に宿していた。


 リカードの剣の才はレインが手を出す前に開花されていた。しかし、イミーナの魔法の才はイミーナが公爵家にいた時には花開かなかった。イミーナの才はリカードの剣に劣るとも思えぬものなので公爵家に居たとしてもあと数年もすれば必ず開花したであろう。

 しかし、その才能を開かせた決定打こそ天然(ほんもの)の天才であるルーナであった。


 得てしてリカードとイミーナをさらに完成したものへと近づけたのは二人の親友(レインとルーナ)であった。


 まぁ、日に日に腕を上げる二人に対してレインとルーナが熱くなっていたのもひとつの要因であろうが。



 ◇◇◇


 ルーナの作りだした障壁の中で互いの獲物で切り結ぶ二つの影。

 互いの獲物は同じ木刀。しかし、そこに込められた重さには歴然の差があった。


「踏み込みが甘い!」

「くっ!」


 手にした木刀を跳ねられ、相手に木刀を喉元に突きつけられる。

 それにたまらず降参とばかりに両手を上に上げた。


 突き出した木刀を収める少年と手を上げている少年。


 レインとリカードは互いに腕を下ろすと地面に座り込んだ。


「あーあ、今日も一撃も入れれなかった」


 不貞腐れ気味に顔を歪ませ、独り言ちるリカードにレインは苦笑を浮かべると声を返した。


「流石に剣を習って三ヶ月の奴に負けられないよ」


「確かに本格的な指導を受け始めたのは三ヶ月だが、それより前にもしっかりと訓練はしていたんだぞ?」


 リカードは恨めしい視線をレインに送る。レインはそれを再び苦笑で流した。


「所でミーナの方はどうなんだ?」


「姉様は順調に腕を上げおられるそうだ。ルーナも姉様を褒めていた」


「成程な。それでいつにも増して熱が入っていたわけか」


「そういう事だ。姉様に遅れはとらんさ」


「それじゃあ、再開としますか」


「あぁ、次こそ一太刀入れてみせる!」


 二人はバッと後ろに飛んで距離をとると互いの獲物を構える。


 リカードは最も基本的な構えである正眼の構えであるのに対し、レインは右足を引き体を右斜めに向け刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げた脇構えという構えをとる。


 正眼の構えは全ての動きに繋がる攻防一体といった最も合理的かつ実戦的な構えである。


 対して、脇構えとは相手から正中線を外すことで自身の持つ刀身の長さを相手に悟らせない構えである。

 しかし、レインの木刀はリカードと同じ長さである。本来のの利点を潰してなおこの構えを選択したレインにはある意図があった。


「じゃあ行くぞ!」


「ああ、来い」


 掛け声とともにリカードはレインの得意とする雷の魔法による身体強化を施す。リカードは時同じく魔法もレインから学んでいた。


 この魔法は並の魔法士には到底使用できない程高度なのだが、リカードは魔法にも長けていた。


 やはりヴェルダイン家の血なのか、魔法でも類まれなるセンスを持っていたリカードにとって自分の戦闘スタイルの正に模範が一番近くにいたのだ。


『魔剣士』。魔法と剣術の完全なる融合。それを可能にするには剣にも魔法にも長けていなければならない。そしてその完成形こそがレインだ。


 リカードは得てして『師』と仰げる者とこの三ヶ月、ずっと過ごして来た。そこでリカードは持ち前の柔軟さでまるで乾いたスポンジの様にレインからどんどん吸収していった。


 今のリカードなら並の魔法士が束になっても難なく渡り合えるだろう。


 レインはリカードの才能を高く買っていた。その為、教えられる事は何でも教えた。この魔法もその一つだ。

 それをリカードは機動する。


「【雷神】!」


 リカードの背後から雷の巨人が生まれ、そのリカード諸共レインにその巨大な腕を打ち落とす。


 レインはそれを【魔法障壁】で防ぐが、そこにすぐさま肉薄したリカードの一撃が迫る。


 本来ならば、レインに放たれたのと同威力の雷がリカードにも当たっているはずだがリカードの動きからはそんな様子を毛ほども感じさせない。


 肉薄するリカード。碧眼であった瞳は黄金に輝いており、身体からは稲妻が迸り、バチバチと音を立てていた。


 自身の身体強化と敵への攻撃を両立させた魔法。【雷神】。未だ成長段階のリカードではレインにどんな手を使っても身体能力で負けてしまう。

 その為には身体能力に左右されない、神速の一刀が必要だった。そこでレインがリカードの戦闘スタイルに合わせて作り出した【独自(オリジナリティ)魔法(マジック)】こそがこの【雷神】である。

 格上との戦闘を前提とした魔法で、この魔法の最大の特徴は避けられないと言う事だ。


 熟練の魔法士なら相手の魔法士が魔力を集めているのを敏感に察知し、その魔力が高まり、魔法が完成する前に相手に魔法で攻撃を加え、相手の魔法を阻止、破壊する立ち回りが可能になる。

 事実、レインとルーナはそれを可能としており、ルーナによって指導されているイミーナもつい先日、それを可能にした。


 魔法を察知され、その魔法を打ち消す相手にどうやって魔法を当てるのか。

 方法は三つつある。


 一つは魔力を隠蔽する事。自身の中に魔力を閉じ込め、魔力の高まりを感知させなくするのだ。

 しかし、これは相手の魔力を感知するよりも格段に難しい。イミーナですら、それはまだ不可能な程だ。


 そして、相手の阻害よりも早く魔法を放つ事も有効である。しかし、魔法の発動速度を上げる為には相手よりも魔力の扱いに長け、さらに正確に相手に当てなければならない。これは格上との戦闘ではほぼ不可能であり、また多数との戦闘でも困難を極める。


 では三つのうちの最後の一つは何か。それは相手に感知されない事である。理論上では可能なのだがそれを実際に行うのでは話が別だ。

 これの難しい点はまず魔法という超能力の根底を否定するものだからだ。

 魔法とは魔力という触媒を用い、超常現象を人為的に起こすものである。その為には外から取り入れた魔力を基礎魔力量と呼ばれる器に取り込み、その器の中の魔力を用いる必要がある。

 そしてその体内魔力を体外に放出する時には必ず魔力を外界に解き放たなければならない。

 魔力隠蔽もこれに当てはまるのだが感知させないのはこれの更に上位の技だ。

 何せ隠蔽ではなく感知させないのだ。それはつまり一ミリも外に魔力を漏らしては行けない事と同義である。


 ただ隠すのとそれを感知させないのでは大きな差がある。

 そんな事を平気な顔でやってのけるのは天才(ルーナ)くらいだ。


 リカードにそんな(才能)は無い。レインだってそうだ。しかし、レインはそれを可能にした。

 いつもレインは考えていた。凡人が天才と渡りあう術を。愛する妹と並び立つ術を。


 そして、ついにそれを完成させた。それを伝承した初めての魔法士こそがリカードなのだ。



「【雷閃】!」


 稲妻を帯びた上段からの雷速の一閃。その速さは目の前に突如リカードが現れ、意識の外から一撃を加えられるように感じるほどだ。


 この技は【雷神】と二つで一つ。相手の反応を鈍らせ、その隙に自身の最高速度で最速の一撃を叩き込む為だけに生み出された技。


 正に一撃必殺。人間の反射神経では到底反応出来ない速さの一撃。そしてそこには明確に『意思』が感じられた。雷速で繰り出された『意思』の篭もった一撃をレインは半身を引くことで躱した。


「うん。完璧に物にしてるな。リッカの成長速度には俺も驚かされてばかりだ」


「何余裕で避けてんだよ!? お前ほんと化け物だな!?」


 レインが優しく微笑む中、リカードの表情は納得と驚愕の入り混じる何とも奇妙な表情だった。

 しかし、その顔には何処か嬉しさがあるような気がする。決して超えられぬ師。その存在がリカードの戦士としての器を大きく変化させていた。


「しっ!」


「くっ!!」


 レインによるカウンターを何とか躱す。しかし、レインのとっていた構えは脇構え。その理由をリカードは身をもって体験した。


 半身を捻り、寸でのところで回避したはずのレインの一刀。しかし、リカードの目には未だ自身に迫り来る刀身の姿が映っていた。


「ちょっ? はぁあ!? んだよそれぇ!?」


「もらったぞ。リッカ」


 パァンと弾けるような音を立ててリカードに強烈な一撃が打ち込まれる。


 腹を打たれたリカードは肺から空気を吐き出し、その場に倒れる。


 レインは木刀を腰に収めるとリカードに歩み寄り、治癒魔法をかけた。

 腹の打撲も治り、息が整ったリカードは倒れた場所に腰を下ろすと先程の一撃についてレインに問うた。


「さっきのあれ。一体なんだったんだ? お前の木刀あんなに長くないよな。だって俺の貰った木刀と同じものなんだろ?

 剣士にとって自分の間合いの把握は必須だ。俺はこの剣の間合いを知ってるし、お前の間合いも知っていた。なのにあれはなんだったんだ?」


 矢継ぎ早に問いただすリカードにレインは「ははっ」と軽快に笑うと同じ場所に腰を下ろし、それについて説明をした。


「さっきのは俺の魔法【附与(エンチャント)】の延長上の技だよ。刀身に魔力を込めて擬似刀身を生み出したんだ。言うなれば魔力の刀だな。

 脇構えを使ってくる奴は自分の間合いを把握させない。その脅威をこの前説明しただろ?

 まぁ、それを見を持って対戦してもらった訳だ」


 レインの魔法【附与】は道具に自身の魔力を込める魔法だ。ただの剣に炎の魔力を込めて炎の出る剣にしたり、ただのブーツに風の魔力を込めて早く動けるブーツにしたりと実に汎用性が高く、レインの十八番と言ってもいいほどだ。


 その汎用性の高さはシアの【魔具生成】にも劣らない。何せシアの折り紙付きなのだ。嘗て世界を滅ぼしかけた怪物の折り紙付き。強い訳である。


 レインの剣と魔法をこの三ヶ月間学んでいたリカードはこの魔法の有能性をよく理解していた。

 しかし、こんな使い方まで出来るとは知らなかった為、まんまとレインの策にはまってしまったのだ。


「はぁ、ほんとお前という師匠は凄いよ。何せこうやって身をもってその技の有能性と使われた時の脅威を教えてくれるからな。俺も強くなったと思ってたんだかなぁ…」

「いや、事実リッカは強くなってるぞ? 三ヶ月の前とは比べるまでも無く」


 嘘偽りないレインの感想。それを嬉しく思いながらもリカードの心境は複雑だった。


「うん、まぁそうなんだけど。どうやっても超えられない壁がいるってのは嬉しいような、嬉しくないような。複雑な心境だよ」

「そうだな。でも俺は足掻き続けるよ。何度挫けても、何度その力の差に絶望したとしても」

「それはあれか? 『兄の矜恃』って奴か?」


 リカードの問いに少し考え込むと、レインはゆっくりと口を開いた。


「うーん、そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。まぁ、一つ言えるのはルーナの傍をずっと歩きたいんだよ。ルーナはどんどん成長してる。ミーナに魔法を教えてからはさらに成長速度が上がった気がする。

 俺はさ、置いていかれるのが怖いんだよ」


 天才と凡人。その才能の差をレインは十二年間ずっと感じていた。

 一番近くで一緒に居たい、どんな時も共に歩み続けたい相手に置いていかれる恐怖。

 それはどんな苦痛よりも耐え難く、レインの心を掻き乱す。


 レインのずっと抱えるものは強い焦燥感である。レインが一歩進めばルーナは二歩進む。レインが二歩進めばルーナは三歩進む。

 それは積もり積もっていつか自分の辿り着けない所に行ってしまう事を表していた。


 置いていかれたくない。ずっと隣に居たい。しかし、その気持ちを才能が許さない。

 お前に側に立つ資格はないと語りかけてくる。


 レインは魔法ではもう五年も前にルーナに勝てなくなっていた。レインは別にルーナに勝ちたい訳では無い。いや、昔は勝ちたいと思っていた。しかし、知ってしまったのだ。自分では一生掛けても勝てないのだと。


 本来ならそこで挫けていただろう。全てを投げ出してそれを甘んじていただろう。才能。それは福音である。しかし、持たないものからしたら呪いでしか無い。努力で才能を上回る。そんなのは物語の世界だけしかない。才能はレインにとって呪いでしかなかった。


 しかし、レインは諦めなかった。それなら努力でなんとかするしかない。幼いレインはそう思った。努力でどうにかなるものじゃないのは分かっているが何もしないのが一番怖かった。それこそがルーナの側に立つ資格が無いことだと思ったから。

 しかし、そんなものでどうにかなる話ではなかった。


 努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力努力。


 しかし、そんなもの意味はなかった。


 レインはその日、ルーナに負けた。魔法だけでなく、剣も使ったのに負けたのだ。


 そしてその後、母親にも負けた。


 愛する者に置いていかれるのをその日克明に感じた。


 全てを投げ出したくなった。努力は無駄だと証明された。持つものと持たざる者。その差を知ってしまった。


 何もかもその日どうでも良くなった。自分が側に立つ資格が無いことを受け入れようとした。


 しかし、それを引き止めてくれたのも愛する者だった。自分が側に立っていたいと思う妹だった。



『お兄さま……。今は泣いていいんですよ? ルーナにかっこ悪いとこいっぱい見せてください。ルーナの前では無理しなくていいのです。だって、そんなかっこ悪いお兄さまの事もルーナは大好きなんですから』


 その一言に救われた。ルーナは自分の事を本当に認めてくれていた。その事実に胸が焼けそうになった。

 嬉しかった。自分の弱さすら、側に立つ資格すら持たない自分を肯定してくれた。


 レインはそれから誓った。


『決して超えられなくても、置いていかれたとしても。傍に立つ資格がなくても。自分が胸を張って傍に立てるだけの努力はしよう』


 その努力が決して美を結ぶことがない事が分かっていたとしても。

 いつか必ず置いていかれてしまうとしても。


 それまでは惨めに、泥臭く、かっこ悪く、意地汚く。


 足掻き続けようと。



「ほんとお前はかっこいいよ。レイン」

「そうか?ただみっともないだけだと思うけどな」

「いいや、俺はお前ほど強くはなれないよ。何せ俺はお前に勝ちたいとは思っても追い越したいとは思ってないからさ。いや、お前に勝ちたいとすら思ってないのかもしれないな。でもさ」

「ん?」

「お前のようにありたいとは思うよ。何せ俺も『持たざる者』のようだからさ」

「そっか」

「ほんっと、出来た姉と妹を持つのは辛いなぁ」


 そう笑うリカードの顔はとても優しく、とても悲しげで、そしてとても嬉しいそうだった。


「そうだな」


 そう言って笑い合う二人はとても満足そうだった。


 笑い合う少年達のその視線の先に二人の少女の影が写っているように見えた気がした。


リッカの記憶の腕輪での鍛錬については次回の後にSSとして投稿するつもりです。

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