33話 兄と妹、姉と弟を教える
お待たせしました。
今回は少し長めです。
冒険者登録や初依頼、竜狩り騎士団、団長ガイルとの模擬戦などとてつもなく忙しい一日を過した次の日。
レイギス王国内に国王アーノイン・ヴァン・レイギスの詔勅が出された。
その内容はレインとルーナがアーノインとした取決に沿ったもので、レイギス王国の貴族間では【A】ランク冒険者 レインとルーナへの手出しは一切禁止するという内容だ。また、商人、教会もレインとルーナへの干渉は二人が望まぬ場合は控えるようにとのことだった。今後この取決を破った者は国王陛下への反逆罪として厳罰に処罰されるという。
これでレインとルーナのレイギス王国での安全は確保されたと言っていい。
以降、冒険者ギルド内での多少の揉め事はあるだろうがレイギス王国の貴族社会に巻き込まれるような事は無いだろうとイミーナは二人に話した。
何故、冒険者がこの詔勅に含まれていないのかは冒険者ギルドが一種の独立国家であるのが理由なのだがそれは追追語るとしよう。
朝支度をすませ、高級宿『白夜の月光亭』で朝食を取った後、レイン達一行は冒険者ギルドに向かった。
観音開きの木の扉をがばっと開け、レイン達は冒険者ギルドへと入る。
今日もギルド内は活気に溢れており、さまざまな冒険者が依頼書の貼られた大きなボードの前に並びに依頼を物色している。
他にもギルド内の酒場で酒を飲む者、談笑する者などまだ朝早いというのに冒険者ギルド内は沢山の冒険者で溢れかえっていた。
始めてここに立ち入ったリカードとイミーナは始めてみるギルドに目を輝かせていたのだが、あることに気づくと怪訝な表情をした。
「なぁ、レイン」
「ん?どうした?」
「お前達、昨日何かやらかしたのか?」
リカードは冒険者達がレインとルーナに向ける視線に何か不自然なものを感じた。
ある者は畏怖の念を、またある者は純粋な恐怖を、そして最も不自然なのがレインとルーナに誰一人とも目を合わせようとしない事だった。
レインとルーナが冒険者登録をしたのは昨日。彼らが人里離れた森に住んでいた事を知っているリカードは昨日来たばかりの人間に対し、余りに統率の取れた態度をとる冒険者達に疑問を感じた。
そしてその答えはレインの口から語られる。
「あぁ、実は昨日絡んできた冒険者がいてな、そいつらに向かってルーナが魔法を当てようとしたんだよ。しかも明らかに軽傷じゃ済まない程のやつをな」
「んな!?そ、それは…」
「あぁ、大丈夫、大丈夫。俺がそれは切ったから相手には当たってないよ。まぁでもそのせいでこのギルドのギルドマスターに呼び出されたけどな」
はははと愉快そうに笑うレインにリカード含む一行は頭を抱え、天を仰いだ。
「ほんっとにお前らって奴らは…」
「お二人の行動は私たちの想像の遥か上をいつも行きますね」
「姉様は呑気だな…。一歩間違えれば殺人事件だぞ」
「ん?大丈夫だって。そうならないように俺が止めるからさ」
「でも、お前。もしルーナに危害加えようとした奴いたら容赦なく―」
「殺すな」
「はぁ…。頼むから殺人だけは止めてくれよ…」
「ん、気をつけるよ」
「本当に頼むからな…」
そんな会話を聞いていた辺りの冒険者たちが顔を真っ青にしているのに気がついたのはフィムルエッタとティファニーだけだった。
「じゃあ、俺と姉様は冒険者登録してくるわ」
「おー、フィムとティファはいいのか?」
「はい、私達はあくまでリカード様とイミーナ様の従者ですから。その必要はありませんよ"レイン"」
「そうか」
「あら、いつからレイン様のことを"レイン"なんて呼ぶようになったのかしら、フィム?」
「えっ!?えっと、それは昨日…」
「ミーナさん、その話は後で。先に登録を済ませてしまった方がいいですよ。順番待ちしている冒険者の人もいますから」
「あ、そうですね。分かりました」
レインとルーナは昨日冒険者登録をしたのでまだ登録を終えていない二人のために一行は今朝、ギルドに向かっていたのだ。
二人の登録の際、公爵家の令息と令嬢と言うことが発覚し、冒険者ギルド内に大きな驚愕が走るのだがそれはまた別の話。
当初の目的を済ませた一行はレインの指示の元、王都近郊の森へと向かった。
歩く事約三十分。一行は王都近郊の森『ギムエットの森』に着いた。
中腹ほどまで進み開けた場所に着くと、レインが口を開く。
「まぁ、この辺でいいか。よし、ルーナ。障壁展開を頼む」
「はい、お兄様」
ルーナは魔法を唱え、レインを中心に半径一kmの障壁を展開した。
無詠唱での大規模障壁展開にレイン以外の全員目をむくがルーナの魔法はそれだけでは終わらない。
障壁が淡い青色に光ると、障壁を覆うように更なる障壁が生み出された。
「ルーナこの魔法は?」
「この魔法は【認識阻害魔法】です。この障壁内にいる私達をこの森の動物、魔獣、魔物の認識されないように薄い魔力の膜のようなもので覆ったのです。
この中にいればもし魔物に遭遇したとしても大丈夫ですよ」
「やっぱりルーナの魔法は凄いな。レインが天才と認めるだけある」
「あぁ、ルーナは天才だ」
レインとリカードが口々に褒め、ルーナは頬を赤くする。
「この魔法、人に対しても使えるのですか?」
恥ずかしそうにするルーナに助け舟を出したフィムにルーナは助かったという表情をするとその質問に変動した。
「はい、可能です。よく私とお兄様は森の獣を捕まえる時やドラゴンの卵を取りに行くのに使っていました」
「成程、人間にも使えるなら是非とも私も覚えたいですね。この魔法があれば私達の本職にとても役立つと思うのです」
フィムの本職である諜報員の活動は以下に対象に見つかること無く情報を手に入れるかが最も重要である。
そんな中、決して見つかることの無い諜報員になるべく、長い年月をかけてフィムたち『黒豹』は技を磨いてきた。
それがこの魔法があれば可能になるのだ。そうなれば絶対に見つかることない最強の諜報員が完成する。
レリクスが知れば、嫌レリクスに限らず他国の者も是非とも手に入れようとするだろう、正に夢の魔法だった。
「フィムさん達が覚えたいと言うなら教えてあげたいのも山々なのですが、国王陛下に私達を政治利用しないで欲しいと言った建前、それは難しいですね」
「あぁ、もしフィム達がそれを覚えたら何としてでもレリクス様がそれの習得方法を知ろうとするからな。そうなってしまえば立派な政治利用だ。
取決の内容を指定した俺達がそれを破ってしまえば取決は破棄されたようなものだからな。悪いがフィム。諦めてくれ」
申し訳なさそうに話す二人にフィムは慌てて頭を下げる。
「い、いえ。お二人が気にすることではありません。これは私の我儘のようなもの。元よりお二人が私達にその魔法を教える義務はありませんので。気にしないでください」
「はい、それにぃー。私達その魔法が無くても充分諜報員としての腕はありますからぁー」
間延びした特徴的な口調でティファがフィムに続いて話す。
「俺達はフィムとティファの諜報員としての活動を見た事ないからなんとも言えないけど、確かに実力は相当だろうな」
「はい、普段から気配を希薄にしてますもんね」
「あぁ、いつか本気の二人と戦ってみたいな」
レインとルーナは本心からそう話したのだがフィムとティファは苦笑で返すのだった。
「さて、話はこれくらいにしてそろそろ本題に入るか」
「レインが何故ここに連れてきたのか、だな」
「そ、ここに来たのはリッカ。お前との約束のためだ」
「約束?」
リカードがそんな約束はあったかと記憶を辿る。
リカードが記憶の中から答えを探し出している中、レインはその約束をリカードに話した。
「あぁ、俺達が旅に出る前。リッカが俺とルーナに旅に同行させて欲しいって頼みに来ただろ?その時に俺は話した。俺たちの旅に足でまといは必要ないって」
「それは覚えている」
「その後約束しただろ?」
「あ!あのことか!」
「リカード、あの事とは?」
「ミーナはルーナに頼むといい。俺より適任だろうからな」
イミーナが未だ混乱する中をレインはこれからやることをその場の全員に教える。
「今から二人に稽古をつける。俺はリッカに剣を。
ルーナはミーナに魔法を。フィムとティファはそのサポートを頼む」
◇◇◇
「さて、それじゃあ始めるか」
「宜しく頼む!」
レインとリカードは向き合うと互いに剣を握る。
レインは普段の木刀だか、リカードは鉄の直剣を握って、構えをとっていた。
「じゃあ、何回か素振りをしてくれ。特に姿勢なんかは意識しなくていい。普段通り、自然体で頼むよ」
「分かった」
レインに言われた通り、リカードは何度か素振りをした。
ヒュッと剣を振る音とリカードの軽い吐息がレインの耳に届く。
リカードの振るう剣はまずまずのものだった。それもそのはず、リカードは才能に恵まれながら努力を怠らず剣に邁進してきたのだ。同年代では敵無しで将来は剣士としても名を馳せるだろうと貴族社会では話に上がっていたほどだ。
そして、リカード自身もそれなりに自分の剣の腕に自信を持っていた。
「ふぅ、どうだった、レイン」
しかし、レインは
「ん?全然だめ」
と答えた。
「え、えっと…。何が駄目だった?」
それなりに自分の腕を信じていたリカードはレインの言葉に憤りを感じていたが言い返すことは無かった。
リカードは何よりレインの剣の腕を知っていたので、レインからしたら自分の剣はさぞお粗末なものなんだろうと思ったからだ。
しかし、レインはリカードの思いもよらなかった事を口にした。
「リッカ。剣を振るう時に何を考えている?」
「え?」
「剣を振るう時に何を考えているのかを聞いているんだ」
剣を振るう時に何を考えているかなどと言われてもリカードは返答に困ってしまう。
この世界の剣術と言うのは【身体強化魔法】で筋力、反射神経、瞬発力を強化し戦う、つまり身体能力の向上に重きを置いているのだ。しかし、レインが問うたのは心の話。
普段考えても見なかった事を急に問われてもリカードは返答できなかった。
「『剣術』っていうのはただ剣を振るえばいい訳じゃないんだ。俺の母さん曰く、『剣は己の心の具現化』らしい。剣士に求められるのは身体能力の高さ。そう思われがちだが芯にあるのは心。つまるところ『意思』の強さなんだ」
「意志の強さ…」
リカードがオウム返しでぽつりと呟く。
「それを今から実演するよ」
そう言うとレインは木刀を上段に構える。
「はっ!」
リカードの数倍速く、鋭い一撃が剣閃を描く。剣圧がリカードの髪を揺らした。
「今のは普通の素振り。そしてこれがっ!」
「っ!?」
先程よりも緩やかな一刀。しかし、その一刀はまるで先程の一撃が遊戯だったかのように感じるほどの力強さをリカードは感じた。
「どうだった?」
「す、凄かった…。明らかに前の一撃の方が速く鋭い筈なのにそれよりも今の一撃の方が何か『圧』を感じた…」
「そう、それが『意思』の力。剣術ってのは心、技、体。この三つの要素が必要なんだ。リッカにはまだまだだけど技と体は粗方出来てる。でも肝心の心が全くだ。なのでこれから毎日、ある特訓をしてもらう。クロガネ」
『お呼びでしょうか、主』
「あれをリッカに渡して」
『承知しました』
クロガネは再びレインの影に潜ると、しばらくしてからまた影から出てくる。その際に口には青銀に輝く腕輪を加えていた。
「レイン、これは?」
クロガネから渡された青銀の腕輪を指さしながらリカードはレインに聞く。
「これは、『記憶の腕輪』。これは装着者の魔力を使って装着者の最も恐ろしい過去の体験を追体験させるものなんだ。そこでリッカには心について学んでもらう。それが見事クリア出来たらそこからは剣術と体術を教えるよ」
「成程、じゃあこれをクリアしなければ俺はレインに剣術を教えて貰えない訳だな」
「そういう事。その腕輪で追体験した現象の中で受けた傷などは実際の体に影響しないから、文字通り死ぬ気で頑張れよ」
「ああ!必ずクリアしてみせるさ!」
そう言ってリカードは自分の最も恐ろしい過去の体験に挑みに向かった。
◇◇◇
「ではミーナさん、私は貴方に魔法をお教え致しますね」
「はい、ルーちゃん。よろしくお願いします!」
「それではまず、ミーナさん。"魔法"とは一体何でしょう」
「魔法とは魔力を用いて超常的な現象を起こすことです」
「正解です。それでは魔法にはどんな種類があるでしょう」
「魔法は火、水、風、土、雷、光、闇の七属性と、どの属性にも属さない無色魔法の計八種類です」
「正解。では最後に『詠唱』とは何でしょう」
「はい、『詠唱』は魔法を使う際に必要となるコードのようなものです。詠唱をすると魔法は安定し、失敗したりする恐れが無くなります」
「素晴らしいです。正に模範解答ですね」
パチパチとルーナが手を叩き、イミーナを賞賛する。
「これぐらいは当然です」
ルーナに褒められて照れくさいのか頬を赤らめながらイミーナはそう言った。
「はい、本当によく勉強しているんですね。でもミーナさん、ミーナさんの答えは模範解答すぎるのですよ」
「どういう事ですか?」
「えっと、これから私が教えていくのはきっとミーナさんの魔法学を根本から覆す言わば邪道の様なものです。しかし、それこそが『魔法』というものです。
どうか、毛嫌いすること無く着いてきてくださいね」
微笑みながらルーナはこう話す。
「それでは授業をはじめます」




