30話 兄と妹と『竜狩り騎士団』
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「私に着いてこい」
立ち上がったアーノインが外套を翻しながら謁見の間を後にする。
レインとルーナはそれに従い、後ろをついて行く。
アーノインは普段から王宮内を出入りしている様で一国の王が王宮内を普通に歩いていても従者達は変に畏まらず仕事に専念している。
しかし、従者の特にメイド達の視線がレインとルーナに暫し送られているのを感じ二人は少し気恥しくなり少しだけ俯いて歩いていた。
「どうやらお前達二人はメイドに人気のようだな」
そんな二人を振り返り見ながら面白そうにアーノインは茶化した。
◇◇◇
王宮内を歩く事数分、アーノインはある場所で足を止めた。
「ここがこの王宮内の兵士達の修練場『闘技場』だ」
レインとルーナの家の数倍はあるかと思われる広大な土地に様々な武器や防具、傀儡人形があらゆる所に点在する様子に二人は目を剥く。
そんな中、男達の掛け声とある男の怒声が響いていた。
「二番中隊、手を緩めるな!敵は四方からやってくるのだ!お前達の不手際が騎士団全員の命を落とす事に繋がる事を今一度自覚せよ!」
「「「「はっ!!!」」」」
「マルクス!お前だけ皆とテンポがずれておるぞ!呼吸を肌で感じろ!お前の腕ならそれが可能なはずだ!」
「は、はいっ!」
「デューグ、中隊指揮官のお前がその体たらくではお前の部下達はこの騎士団で最も脆弱だと言っているようなものだぞ!中隊長という部下の命を背負う覚悟を見せろ!」
「はっ!」
「よし!あの、素振り二十本の後休憩を取る!最後まで気を引き締めよ!」
「「「「はっ!!」」」」
兵士達の練度はかなり高く王国最強の騎士団の名は伊達ではないようだとレインは彼らを見て感じた。
先程まで兵士達を取り仕切っていた男性はこちらに振り返り大きく礼をするとレイン達に近づいてきた。
「陛下、この度はこのような所までどの様なご要件で?」
「うむ、お前達に紹介したい人物がいてな…
この者達は私の甥であるリカードと姪のイミーナの友人でな、名をレインとルーナと言う」
そう言い、アーノインはレインとルーナの背を軽く押した。
「ご紹介に授かりました、レインと言います。
こっちは妹の」
「ルーナと申します」
「これは丁寧に。私は『竜狩り騎士団』の団長ガイル・リンダインだ。宜しくレイン、ルーナ」
レインとルーナの目の前に立つ男こそこの国最強の男。
レイギス国王直属護衛隊長と竜狩り騎士団団長の二つの顔を持つ男ガイル・リンダインその人だった。
◇◇◇
「急に闘技場まで来いなんてどうしたんだろう?」
「何かあったのですかね?」
王宮内の一室で過ごしていたリカードとイミーナは突如メイドを伝いアーノインに呼び出されていた。
「陛下直々なんて大事じゃなければいいのだけれど…」
「いや、でもあの陛下だぞ?姉様も知っての通りの御方だからな…」
「そうですね、今考えられるのは…」
「「あの二人絡み」」
「…だよな」
「…でしょうね」
二人の頭には正反対の髪色の兄妹の姿が浮かぶのであった。
二人が闘技場に着くとそこには二人のよく知る人物達が勢揃いしていた。
この国の王 アーノイン・ヴァン・レイギス、宰相 ケルハ・バレン。
この国のツートップの隣にいるのは二人のよく知る友人のレインとルーナ。
そしてこの国最大の戦力 『竜狩り騎士団』の面々と王国最強の男 ガイル・リンダイン。
レイギス王国の重鎮の中にぽつんといる少年と少女の姿にリカード達は小さな溜息をそっと零した。
「おぉ、二人とも来たか」
「はい、お望みの通り参上致しました」
「ふっ、そんな他人行儀でなくても良い。ここには気心知れた者しかおらん。楽にしろ」
「で、では。そうさせて頂きます。アル様」
「私もそうさせて頂きますね」
「うむ、やはりリカードは堅物だな。私はイミーナぐらい砕けた方が可愛げがあると思うがな」
何とも親しげなやり取りをするリッカ達に辺りの皆も肩の力を抜く。
しかし、そんな中鋭い気配を放つ存在が二人いた。
「ではリカード達も来たことだ、そろそろ始めよ」
「「はっ!」」
アーノインの言葉にレインとルーナ、そして『竜狩り騎士団』が返す。
闘技場の中央へと向かう中、レインとガイルだけはそこから少し離れた所に立った。
「レイン、本当にルーナだけでいいのか?」
先程確認した事を再び思わず聞き返してしまうガイル。
アーノインの希望により竜狩り騎士団との模擬戦をする事になったレインとルーナは竜狩り騎士団の代表のガイルとその打ち合わせをする事になった。
その打ち合わせで決まった内容とはルーナ一人対竜狩り騎士団二個中隊との模擬戦、そしてレインとガイルの一騎打ちである。
これはレインとルーナの希望の元決められたものだった。
しかし、受けたガイルにも戸惑いはあった。
それもそのはず騎士でなくても大の大人百人で一人の少女に攻撃をするのだ。
倫理観がまずその行動を許さない。そしてその大人がこの国最強の戦士達。どう見ても勝ち目は無く悪戯にか弱い少女を傷つける結果しか見えなかった。
しかし、そんなガイルにレインは「俺の妹は強いですよ」と言うだけ。
止める気が無いことを悟ったガイルはその内容を承諾したのだが、今になって再びこの模擬戦の余りの異常さに己の騎士としての矜持が歯止めをかけた。
「えぇ、大丈夫です。俺の見立てならルーナの勝利は確定ですから」
申し訳なさそうな顔をするガイルにレインは自信満々に言い切った。
◇◇◇
「ふぅ、さてそれでは始めましょうか」
私は私を取り囲む騎士の人達に声をかけた。
「なぁ、本当にやるのか」
その中でも少し装備のいい一人の騎士が私に疑う様に話しかけてくる。
「えぇ、心配しなくても大丈夫ですよ。私、こう見えて丈夫なんです。ですから思いっきり来てください」
「しかしだな…」
「陛下のご命令なのです、従わない道理はありませんよね?」
「ま、まぁ…」
「それに私、貴方達には負けるはずがありませんので」
空気が凍った。
「余り大人をからかうものじゃないぞ」
「いえ、からかったつもりはありません。事実ですので」
更に空気が凍る。
「後悔するなよ」
「はい、大丈夫です」
私のよく知る空気が流れ出した。
「お前達、全力でやれ」
「「「はっ!」」」
これは戦場の空気だ。
「では始めましょうか」
私の戦いが始まった。
隊列を組んだ騎士達が押し寄せてくる。訓練用と思われる皮の盾と木剣を持った歩兵部隊、その後方から弾幕射撃を飛ばす魔法士部隊。
そしてそれらに指示を飛ばす司令官。
それなら私がやることはただ一つだ。
「まずは魔法士と司令官ですね」
魔法の発動。それは『詠唱』を伴う。詠唱は口にして行う。では喉を潰し、声が出せなくなったらどうなるか。
「結果は魔法が使えなくなる、ですね」
突如その場から音が無くなる。いや、『声』が無くなるのが正しいだろう。
「っ!?――――!?!?」
突如声が出せなくなった騎士達が戸惑いを隠せず目を剥き互いを見やる。
その隙に私は魔法を発動した。
「【崩壊】」
騎士達に黒く蠢く何かが巻き付き、その身の自由を奪う。身動きを封じられた騎士達は身を捩り何とかそれから抜け出した。
「っ!?!?」
しかし、抜け出した自身の姿を見、騎士達は驚愕する。
彼らは先程まで身にまとっていた騎士兵装がどこかへ行ってしまったのか消えて無くなり下着姿になっていた。
「私の独自魔法【崩壊】を受けたご気分はどうですか?」
私は驚愕と恐怖で支配された騎士団の方々に微笑みながらそう問うた。
◇◇◇
「じゃあ、俺達もやりましょうか」
「あ、あぁ」
目の前の王国最強の男が戸惑いを隠せずにいながらも応じる。
「どうでした、ルーナの試合」
俺は率直に聞いてみた。
「凄まじいの一言に尽きるな。あれ程巧妙に敵の自由を奪い、戦力を削ぎ、心を砕く魔法士を私は見たことがなかった」
王国最強の男の賛美を受けたルーナは少しだけ照れくさそうだ。
「えぇ、あいつは天才ですからね」
心の底からそう思う。あいつはこの世の誰よりも魔法に優れ魔法に愛された正真正銘の天才だ。
その事を俺は誰よりも知っている。
「そんな俺の妹が見てるんです。俺も兄として無様な姿は晒せませんよ」
あの日以来、俺はより一層鍛錬に奮励した。
全てはルーナの隣を歩く為。胸を張ってあいつの兄だと言う為。
今日もそれは変わらない。母さんとの約束の為にもおれは負けない。
「それ程まで覚悟がある男に恥をかかせる訳には騎士として、そして同じ一人の男として行かないな」
王国最強の男 ガイル・リンダイン。その男が大剣を構える。
「宜しくお願いします」
「あぁ、国王陛下の剣としてお前の相手をしよう」
俺も腰から愛刀を抜く。握り慣れた感触が俺の心を落ち着かせてくれた。
「それは木刀か?」
「はい、この辺りでは珍しいものかもしれませんね」
「あぁ、確かに東洋の国の剣だったか」
「はい、これは俺の母親の手作りですけどね」
俺の宝物の一つであるこの刀を掲げる。
「良い物を作る方だな。一度会ってみたいよ」
ガイルさんは笑顔でそう答えた。
「話が逸れましたね。そろそろ本当に始めましょうか」
「あぁ、余り陛下を待たせるものでは無いからな。レイン、本気で来い」
「はい、本気で行かせて頂きます」
王国最強の男の実力、さて如何程のものだろうか。
俺は胸を踊らせていた。




