29話 兄と妹、謁見する
お久しぶりです。
レイン達と別れた後、俺、リカード・ヴァン・ヴェルダインは姉であるイミーナ・ヴァン・ヴェルダインと従者二人を連れて王宮へと向かっていた。
「しかし、此処は本当に変わらないな」
「そうですね、二年前お父様に連れられて訪れた時と何ら変わりがありません者ね」
俺が呟くと姉様が律儀に返してくれる。
俺には一つ上の姉がいる。
イミーナ・ヴァン・ヴェルダイン。
ヴェルダイン公爵家の一人娘で俺のたった一人の姉弟。質実剛健、容姿端麗、才色兼備。
【金木犀の華姫】と社交界で呼ばれる程の美しい女性だ。世話焼きで優しく、決して驕らないその佇まいは正に貴族令嬢然としていて、男女問わず憧れる俺の尊敬する御方だ。
そんな姉様だがどうやら気になる異性が出来たようなのだ。今までどんな男に言い寄られても柳に風だった人が急に色気づき出したのだ。
尊敬する姉様の恋路、是非とも応援したい所だが相手があのレインのようなのだ。
レイン。俺のたった一人の同性の友人で俺と姉様の命の恩人。剣と魔法の才に優れた少年なのだが、とんでもない程の朴念仁。姉様のそれと無いアピールを全く気づく素振りも無く、妹のルーナに構ってばっか。
俺としてもレインと姉様がくっつくのは悦ばしい事なのだがどうやら先は長そうだ。
おっと、話が逸れた。
俺達が何故王宮に向かっているのかと言うと父上であるレリクス・ヴァン・ヴェルダイン公爵から国王陛下宛の手紙を預かっていて、それを渡す任を任されたからだ。
上等な羊皮紙にはヴェルダイン公爵家の蝋印が押されており、余程の重要な案件が綴られていると推測される。
本来、こういったものは従者にやらせるのだが、俺達の目的が王都に向かう事だったので次いでと父上が任されたのだ。それにレインとルーナというこの上ない護衛が着いているためこの密書が何者かに奪われる事もない。
正に一石三鳥だった。
俺達は本来、王都の公爵家別邸に泊まるべきなのだが、レインが「俺達は今は旅人だろ?」と言ったため従者二人以外の満場一致で宿を取り、そこに泊まることになった。
今回の宿はこの王都でも上位に位置する高級宿『白夜の月光亭』をとることにした。
旅の路銀は並べく節約した方がいいので俺達は安宿でいいと言ったのだが俺の傍付きであるフィルが猛反対した為、要らぬ出費がかかってしまった。
優秀なメイドだが真面目すぎるのも考えものだ。
俺達は王城まで訪れると衛兵に取り合ってもらい、国王陛下との謁見を受託して貰った。
◇◇◇
「えっと、俺達が陛下に謁見ってどういうことですか?」
「あの、私達なにかしてしまいましたか?」
王都に存在する高級宿『白夜の月光亭』の前で問答をするレインとルーナ、そして『リューグリア騎士団』団長のアルバスがそこにはいた。
「実は、先刻ヴェルダイン公爵家の嫡男であらせられるリカード様とそのお姉様であるイミーナ様が王宮に参られたのです」
「あー、そーいえばそーだ」
レインはリカード達が王宮に手紙を届けに行く事を予め聞いていた。
その為、そこでなにかあったのだと憶測を立てる。
「そこで、リカード様とイミーナ様にお付の方がいらっしゃることを聞いた国王陛下が酷く興味を持たれまして。是非ともその方々を王宮に招待したいとのことで」
「なるほどねー」
「そこで、私達にお声がかかったのですね」
うんうんと頷き、納得の意を見せながらレインとルーナは答える。
「はい、ですので我々騎士団が貴方々をお迎えにあがったのです」
アルバスは端的に自分達が訪れた訳を二人に話した。
二人は納得すると【念話】を使い、議論を交わすとひとつの決断を出した。
「どうでしょう、ご同行して頂けますでしょうか」
「分かりました、是非とも連れていってください」
レインから色良い返事を貰ったアルバスは思わず顔を緩めると、深くレインとルーナに頭を下げた。
「ありがとうございます、それでは王宮までご案内致します」
レインとルーナはアルバス率いる『リューグリア騎士団』先導の元、王宮へと向かった。
王宮に訪れ、応接間に通された二人を待っていたかのように十数名程の執事とメイドが二人の前に現れ、自体の収集のつかぬまま、流されるままに準備が進められ、二人が気づいた時には上等な服に着替えさせられ、謁見の間の観音扉の前まで案内されていた。
「なぁ、ルーナ」
「な、なんですかお兄様」
「どーなってんの?」
「わ、私にもよく分かりません…」
余りに良い手際に二人は目を回し、ゆっくりとこの状況を理解しようと頭を回転させる。
「と、取り敢えずこのまま謁見をすればいいのかな?」
「はい、宰相様のお声がかかり次第中へお進みください」
「うぉ!?」
独り言を呟いたつもりのレインは意図せず帰ってきた声に驚愕し声を上げる。
帰ってきた声の方を向くとそこにはリカードの傍付きメイドであり、ヴェルダイン公爵家当主直属諜報部隊"黒豹"のメンバーであるフィルムエッタの姿があった。
フィルは二人の前に立つと深く頭を下げた。
「お二人共急にお呼び立ててしまい、申し訳ございません」
「いや、別にいいんだけど理由はもっとしっかり説明して欲しかった」
「えぇ、陛下が何故私とお兄様にそこまで興味をお持ちになられたのかが全く説明無しでしたからね」
二人には自分達が何故この世界有数の大国の国王の興味の的になったのかが全く説明無かったことに不信感を抱いていた。
宿に帰ったら騎士団がいて王宮に来いと言われ着いて来たはいいものの全くの説明無しに謁見しろというのだ。
二人の疑問は全くもってその通りだろう。
それに気づいたフィルは「はぁー」と溜息を漏らすと額に手を当て、呆れ混じりにアルバスを避難した。
「全くアルバスに任せるからこうなるのよ…。だから私が行くって言ったのにあの男と言えば
「これは俺が陛下から仰せつかった任だ」
なんて言って飛び出して行くんだから…」
「なぁ、フィル。あんたアルバスって言う騎士団長と知り合いなの?」
フィルの聞いたことない程砕けた口調にレインは素直に疑問に持った質問をする。
「はっ!も、申し訳御座いません!御二人の前でこの様な痴態を晒してしまい…、失礼な態度お許しください」
そう言い頭を再び下げるフィル。かなり恥ずかしかった様で肩を震わせている。
「いや、全然いいけど。寧ろその口調の方が俺はいいかな、あんまり畏まられても逆に気を使っちゃうし」
「私もそう思います。お兄様に敬語を使うのは全面的に許しますが私自身に使われると何とも恥ずかしいものですしね」
苦笑ながらに答えるルーナにレインも苦笑を浮かべると頭をポンと撫でるとフィルに向き合った。
「だから俺達にはティファと話す時みたいにしてくれよ」
フィルは少し考える素振りをすると苦笑をし、口を開いた。
「流石にリカード様とイミーナ様の御友人に敬語以外で話せと言われても私自身が許容できかねますので…。では、私が何とか許容できる範囲でこれからは御二人のことを『レイン』と『ルーナ』と呼ばせて頂きますね」
そう言ったフィルは何か吹っ切れた様に見えた。
後に聞いたのだが、フィルと『リューグリア騎士団』の団長 アルバスは所謂幼馴染と言う奴らしい。
代々、公爵家の諜報部隊を務めるフィム達一族と王家に仕えるアルバスのキルシュタイン家は同じ武家である事から深く交流があった。
そして、歳の近かった二人は自然と仲良くなり、気心知れた仲となったのだが、二人がそれぞれの立場に着いてからは何かと揉めていたという。
しかし、周りからは夫婦喧嘩だと捕えられていた。
事実、二人は婚約者の関係でもあるため、互いの主君であるアーノインとレリクスは『あの二人はどうせくっ付くのだからいらぬ手は出さない方がいい』と二人の自由にさせていた。
また、フィムの同僚件友人のティファ曰く、何やかんやでフィムもアルバスの事を気に入っているという。
要するに唯の照れ隠しとの事だった。
◇◇◇
「リカード・ヴァン・ヴェルダイン男爵、そしてその姉君であるイミーナ嬢の御友人
レイン殿、ルーナ殿、謁見の間へ入られよ」
高々と宣言するかのような大声が観音扉の奥から響く。どうやら【拡声魔法】を使ってるようで鉄製の巨大な扉をものともせずレインとルーナの耳にその声が届いた。
二人は向こう側から開けられた観音扉を潜り、謁見の間へと足を踏み入れた。
外観の豪華さは正に王宮と言うものだったが二人が足を踏み入れたそこは更にその上をいっていた。
豪華絢爛という言葉を誇張なく体現したかのようなその部屋には黄金であしらわれた装飾が所狭しと点在している。その一つ一つが名だたる芸術家の作品なのか気品に満ちており、いやらしくない。
そんな部屋の中央奥に存在する玉座に座るのは若々しい男性。
金銀の装飾と最も目を引く竜の頭部を象った巨大な黄金像のある人が座るには巨大な玉座にふてぶてしく鎮座している男。
彼こそがレイギス王国国王『賢王』アーノイン・ヴァン・レイギスその人だ。
黄金に輝く髪に鋭く射抜くような視線、鍛えられた肉体はまるで歴戦の騎士のようである。
その男から突如発せられるプレッシャー。
常人なら立ってられず頭を垂れ跪くであろう力の波動を受けた二人は平然としていた。
その様子を眺めていたアーノインは「ほう」と一言呟くと宰相であるケルハ・バレンに視線を送る。
レインとルーナの二人が玉座の前まで歩を進め、立ち止まりその場に跪くのを見届けるとケルハは声を上げる。
「陛下、彼らこそがリカード男爵とイミーナ嬢の御友人であるレイン殿とルーナ殿であります」
「うむ」
「これより陛下からお言葉を賜りたく存じます。
宜しいでしょうか、陛下」
「うむ」
アーノインはレインとルーナに視線を送ると一つ頷き口を開いた。
「面を挙げよ」
謁見の間に荘厳な男の声が響く。
レインとルーナは言われた通り顔を上げアーノインの顔を見あげる。
壮年というには若々しく、青年と見間違う程の姿であるのに漂う覇気は正に国王そのもの。
戦乱の真っ只中にあったこの国を一人で納め直し、数々の政策は全て国と国民の利益を第一としたものであり、その全てを実現しうえたその手腕から王国きっての賢王とされ、諸外国からは『賢王』の二つ名で呼ばれる男。
アーノイン・ヴァン・レイギス。
この世界の頂点に君臨する絶対者の一人。
その男はレインとルーナを値踏みする様にじっと見つめると言葉を続けた。
「まず、私の甥と姪の命を救ってくれた事国王でなく二人の叔父として礼を言おう。この件に関しては私からも褒美を出そうと思う。後ほどケルハに申すがよい」
「「有り難き幸せ」」
「うむ。さて私がお前達二人を呼んだ理由はなんだと思う?」
まるで試すかのように二人に問うアーノイン。
レインとルーナは互いを見合うと頷き合い、レインが口を開いた。
「はい、僭越ながら申し上げますと陛下は私達に武の才を見せることを所望していると思います」
「ほぅ、その理由は」
「私達はリカード男爵とイミーナ嬢と共に旅をしております。それはリカード男爵が陛下にお渡ししたであろうヴェルダイン公爵様のお手紙に書かれているかと思います」
「うむ、確かにそう書いてあったな」
「はい、そこで陛下の逸話を私は耳にしました。陛下は名だたる武を極めし者を他国から呼んではその武の姿を御観覧になられると。その話を聞き私は考えました。私達のような身分の者が王宮に呼ばれるには何かしらの訳が無ければ有り得ません。
そしてその訳とは陛下の前で私達の武の才を披露することだと」
レインは堂々と言い切るとアーノインの顔をしっかりと見上げた。
その視線の先にはしたり顔をする『賢王』の姿があった。
「レインと言ったか。お前はどうやらそちらの才にも秀でているようだな。お前達はここ王都に来てまだ半日程しかたっておらぬだろう。その短時間でよくここまで正確に私の事を調べたものだ。何せ私が他国の武人を招いてはその武の才を見ている事を知るものは余り多くない。それを調べあげるのは言う程簡単ではない。レリクスが興味を持つ訳だ」
アーノインは二人に初めて見せる笑顔でそう言うとレインとルーナを立ち上がらせ自身も立ち上がった。
そしてこれから起こるであろう見世物を高らかと宣言した。
「レインとルーナよ。お前達に一つ頼む、私の持つ最高の部隊『竜狩り騎士団』との模擬戦をしてくれ」
アーノインは実に愉快そうにそう言い放った。
リッカが男爵と呼称されていますがこの世界では上級貴族(公爵、侯爵、伯爵)の跡取り息子は10歳を超えると国王から男爵の位を賜る慣わしになっています。
よってリッカはレインと同じ12歳なので男爵と呼ばれています。




