27話 兄と妹、冒険者登録をする
随分とお久しぶりです。お待たせ致しました。
「うおっほん。君達の力の異常さを改めて理解した所でそろそろ、私の昔話をしようか」
顔を微かに引き攣らせたリリエッタがレインとルーナに向かって口を開く。
「あ、そーだった」
「はい、ぜひお願いします」
レインとルーナはお互いの明かしていなかった能力について語り合っていたのを止め、リリエッタに向き直った。
それを確認したリリエッタはゆっくりと言葉を紡いでいく――
「それじゃあ、昔話を始めようか。これは今から百年前のお話さ――」
◇◇◇
リリエッタを語り部とした自分達の母親の過去の一端に触れる話は二人にとってとても楽しい時間だった。
リリエッタと母の会合から二人が友人になるまでの数年間を大雑把に纏めただけの話だったが自分の知らない大好きな母親の姿に二人は終始目を輝かせ、話を聞いていた。
「――そんなこんなで私とシアは互いを友人と呼べる仲になったんだよ」
リリエッタはふぅ、と息を吐くと話を締めくくった。
話している最中は過去を思い出し自らも懐かしみながら話していた為、余り話を聞いていた二人の顔を見ていなかったリリエッタはそこで漸く二人の顔を見た。
「ふふっ」
目を輝かせ、こちらを見る二人の姿にリリエッタは笑みを零すと二人に声を掛ける。
「どうだったかな?君たちのお母さんの昔話は」
「母さんにそんな過去があったなんてびっくりだ」
「えぇ、お母様は余りご自分の事を話す方では無かったので…。まぁ、欲を言えばお母様のお口から聞きたかったですね」
「はは、そうだな。まぁ、帰った時にでも色々聞けばいいさ」
(まさか貴方に子供が出来たと知った時はびっくりしたけど、何とも可愛らしい子達ね。貴方が自慢するだけあるわ)
自分達の知らない未知の物語を聞いた子供の様にはしゃぐ二人の姿に更に笑みを深めるリリエッタは自分の友への思いを馳せながらその光景を楽しそうに見ているのであった。
「あっ、そーだ。二人共冒険者登録まだだったよね」
二人を暖かい目で眺めていたリリエッタはふと思い出した様にポンと手を打つとレインとルーナに問いかける。
「ん?そーだった。肝心な事忘れてた」
「私達の当初の目的は冒険者登録をすることでしたもんね」
すっかり忘れていたと二人もはっと自分達の目的を思い出す。
二人にとっての目的はこの世界を旅する事。その為の路銀集めと更なる冒険を求めて二人は冒険者登録をする為に此処、冒険者ギルドに訪れたのだ。
当初の目的を思い出した二人にリリエッタは提案を告げた。
「それじゃあ、今登録をしちゃおっか。なんたって此処にはこのギルドのギルドマスターたる私が居るんだからね。登録だけならちょちょいのちょいだよ」
そう言ってリリエッタは立ち上がり自分の机の引き出しから掌ほどの板を取り出し、二人の元へと歩み寄った。
「これが冒険者登録をした者が所持することの出来る許可証。私達は【ギルドカード】と読んでいるわ。正確にはもっとちゃんとした名前があるのだけど余りにも長ったらしいから皆こう呼称してるの」
二人の目の前に差し出されたのは二枚の板。珍妙な彫刻が所々施されたそれにレインは目を凝らし、「ふむ」と一言零した。
「クロガネ」
『はっ、此処に』
「これってやっぱり魔法道具かな?」
『どうやら、そのようかと』
目の前の板をじっくりと眺めるとクロガネはそれをひょいっと小さな腕で器用に持ち上げ、目を閉じ額を近ずける。
するとクロガネの体から魔力が流れ、それがレインへと流れ始めた。
「ほー。こりゃ凄いな」
感嘆の意を独り言ちるレインにリリエッタとルーナは二人、意の異なる声をかけた。
「何か分かりましたか?お兄様」
「まさか、その構造を理解したの?」
二人から掛けられる声にレインは頷くと、声を返した。
「うん、大体は。一番深部の複雑なのは流石に分かんなかったけど、大まかな構造は理解出来たよ。と言うかこれ作ったの何者?こんなの人が作れる領域を超えてるよ。一種の神具かと思った」
そう言うとレインはこの板の自らが知り得た全てを二人に話す。
曰く、これは魔法と能力によって作り出された魔法道具だと言う。
これは魔力と血液をこれに送り込み、『登録者』として記憶、記録したものにだけ使える唯一の魔法道具で、レインの知らない未知の魔法構造と魔力物質、そして核になる能力によって構成されている。
故にこれ程高位且つ複雑な構造を持つ魔法道具は人間には作る事が出来ないとレインは語った。
「それって、お兄様でも無理なのですか?」
自分の兄の錬金術士としての腕を知っているルーナは素朴な疑問をぶつける。
「あぁ、俺はまだしもクリス姉ですら無理だな。俺はクリス姉から一通りの事は学んだ。なのに、この魔法道具は得体の知れない部分が多すぎる。俺に作れるとしたらこれの側の部分、能力の一切不要されていない唯の板の部分だけだな」
『これ程の魔法道具。我も久しぶりに見ました』
ルーナの持っていない錬金術士としての才能。それを持つ兄が出来ないと言うなら本当にこれはそれ程までの物なのだろう。
ルーナは改めて目の前の板をじっくりと眺めた。
「いやー、まさかこれについてそこまで理解したとは驚きだよ。と言っても、私もこれについてはさっぱりなんだけど。もし、これについてもっと知りないならそれを知ってる人の事は教えてあげるよ。
まぁ、あの人がそうそう簡単に会ってくれるとは思わないけど…」
未知の魔法道具を知り得る手掛かり。それはレインの心を否応無しに踊らせるものだった。
「是非!お願いします!」
「うんうん、そうしたら… これ」
リリエッタは机から一枚の紙を取り出し、つらつらと文字を綴る。
それを小綺麗な便箋に入れ、蝋印を押すとレインに手渡した。
「これは?」
「紹介状かな。これを"マルカス"っていう街の領主に渡して。そうしたら会えなくても便りは貰えるだろうから」
レインは手渡された便箋を眺めると、それを【禁断之箱】に入れ、リリエッタに向かい合った。
「ありがとうございます」
「うんうん、御礼を言えるのはいい事だね」
それに満足そうに頷くとリリエッタは二人の目の前の【ギルドカード】を指差しながら二人に声をかけた。
「さて、それじゃあ、手早く済ませよっか」
そう言うとリリエッタは刺繍針を二本取り出し、二人の前に置いた。
「これで指先に穴を開けて血を【ギルドカード】に垂らす。その後自分の魔力をここに注げばそれで登録完了。さぁ、やってみて」
レインとルーナは自分達の指先に刺繍針を突き刺す。
ぷくりと膨れ上がるように溢れた自分達の血液を【ギルドカード】に垂らすと、魔力を注ぐ。
すると淡く【ギルドカード】が光り輝き、その光がそれにゆっくりと溶け込むように消えていった。
「うん、それで登録完了だよ」
「おー、これで俺達も晴れて冒険者なわけだ」
「ふふ、お兄様嬉しそうですね」
二人は自分達の【ギルドカード】を手に取るとそれを見詰める。
――――――――――――――――――――――――
登録者名:【レイン】
ランク:【A】
従魔:【クロガネ】種族【???】
称号:【Aランク冒険者】【龍の加護を持つ者】【剣聖】【超級魔法士】【神級錬金術士】【神具を創りし者】【???】【???】
能力:【???】【???】 【???】
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
登録者名:【ルーナ】
ランク:【A】
従魔:【シロガネ】 種族【???】
称号:【Aランク冒険者】【龍の加護を持つ者】【神級魔法士】【???】【???】【???】【???】
能力:【???】【???】【???】【???】
――――――――――――――――――――――――
「へぇ、これが貴方達の【ギルドカード】ね。ちょっと見せてもらえるかな」
「うん」
「はい」
二人は【ギルドカード】をリリエッタに渡す。
「あら?所々、表示されていない箇所があるね。【ギルドカード】に映らない能力ね…。ほんとに貴方達は得体の知れない子達ね」
苦笑混じりに話すリリエッタにレインとルーナは一つ疑問を問うた。
「あの、ランクが俺達【A】になっているんだけど」
「ランクって【F】からスタートですよね。【A】ランクって最上位ランクでは?」
レインとルーナが持つのは黄金に輝くプレート。
それは冒険者ギルド最上位の者に与えられる証。
【A】ランク冒険者の【ギルドカード】なのだ。本来冒険者ランクとは【F】~【A】へと上がっていくものだ。
冒険者登録をしたばっかの者が与えられる資格ではない。
しかし彼らの【ギルドカード】は黄金色でそこに刻まれているランクも紛うことなき【A】。
故に二人は疑問だったのだ。本来【F】ランクである自分達がなぜ【A】ランクなのかを。
「あー、それね。確かに本来は【F】ランクからスタートだよ。でも君達の力は王都の冒険者ギルドでも最上位なんだよ。私と普通に戦えていたからね。そんな有能な者達を下位ランクで燻らせるのは惜しい。
それに君達以外の冒険者に見合った依頼が上手く回らなくなるだろうしね。だから特例として【A】ランクにしちゃった」
何でも無いように話すリリエッタに二人は首を傾げる。
「そんな事して大丈夫なの?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。私に文句なんて言えるの他のギルドマスターか国王陛下くらいだから」
「……。まぁ、ならいいよ」
「はい、問題ありませんね」
余りにもいい加減なリリエッタの姿に冒険者ギルドを心配になりながらも二人は納得した。
「し、失礼します!ギルドマスター!至急御耳に入れて頂きたい案件が!!」
突如、ドアを突き破る勢いで現れたのは一人のギルド職員。
きちっとした身なりから中々の地位の者だろうと推測されるがその慌て用にただならぬものを感じたレインとルーナは訝しげにその職員の事を眺める。
「どうしたの?そんなに血気迫る勢いで。サブマス?」
「そ、それが…。ん?あのギルドマスター此方の少年達は?」
「あぁ、とりあえずは気にしなくていいよ。それよりも要件は?」
レインとルーナを職員も訝しげに見るが、リリエッタに要件を促され、即座に切り替え要件を告げた。
「王都郊外の村にて魔物が現れたとの知らせが」
「魔物?そんなに急ぐ案件かな?」
この世界には魔獣、魔物と呼ばれる人外の生物が存在する。
彼らは人間を喰らい、襲う。なので人間の密集する地域、村や町を襲うことも暫しなのだ。
故に別段珍しい案件でなく、可及的に急ぐ話ではない。何せFランク程なら多少武装した男、三人程で倒せる程のものなのだ。これがEランク以上なら話は別だが冒険者ギルドのある王都に近い村ならある程度魔物は間引かれている。
その為、殆どこの辺りにはEランク以上の魔物は現れないのだ。
よってそれ程慌てる理由がリリエッタには分からなかった。
「そ、それがただの魔物じゃありません。その…」
目の前の職員は顔に悲壮感を漂わせながらゆっくりと先を話した。
「現れたのはランクA指定魔物 『赤竜』なのです」
「あららー。こんなの所に『赤竜』なんて珍しい事もあるものだね」
呑気に話すリリエッタにサブマスと呼ばれた職員は慌てた様子でリリエッタを問いただす。
「そんな呑気なこと言っている場合ですか!『赤竜』ですよ!今いる戦力では到底敵いっこないですよ!あぁ、こんな事なら彼らにあんな依頼受けさせるべきじゃなかった!」
慌てふためく職員を他所にリリエッタは少し考える素振りをするとふと何かを思いついたのか「あっ」と声を上げる。
そして職員が目を剥く発言を零した。
「そうだ!レイン君、ルーナちゃん。君達に初依頼をお願いしよう。すばり『赤竜』の討伐!今から行ってきてよ!」
「はぁぁぁぁぉ!?!?!?」




