25話 兄と妹、母の旧友に会う
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!!
冒険者ギルド"リューグリア"支部。
レイギス王国で最も栄えのある冒険者ギルドである此処にやら渾沌とした空気が流れていた。
ギルドに入って来た黒髪の少年と白髪の少女。
絡んできた男共を明らかに殺傷目的で攻撃した白髪の少女とそれを阻止した黒髪の少年。
その二人にその場の人は皆、驚愕した。
まず少女の放った魔法。それはどんな文献にも乗っていない未知の魔法であった。
超高速で放たれる魔力の弾丸。之に似た魔法はあるが先程のあれは最早物が違う。その魔法はあれ程速い速度ではない。精々馬が走る速度程度だ。
詠唱を行わずに魔法を使用した所もおかしい。何せ魔法とは詠唱あって成立する物。詠唱をせずに魔法を使うなど不可能なのだ。
そしてその異常さは少年の方も変わらない。彼は超高速で放たれた魔法を斬ったのだ。魔法とは魔力の塊。魔力は未だ原理が解明されていない未知の力だ。それは実体を持たない。
それを剣で斬り捨てたのだ。この世界でそんな事が出来る剣士など一人しか居ない。『剣聖王』ただ一人だ。
しかし、それが出来たのも彼が全盛期の頃。彼が剣の国『ソーブルク剣聖国』の国王になり、国を統治するようになってからは彼の逸話は聞かなくなってしまった。
故に目の前の少年が『剣聖王』な訳が無い。彼の息子な可能性も無いだろう。彼は世にも珍しい緑の髪を持つ人間族だ。しかし、目の前の少年の髪は漆黒。この世界で黒い髪を持つものは少ないが緑ほど珍しくは無い。
目の前の得体の知れない二人組にギルドにいる全ての者が混乱していた。
やけに静まり返ったギルドに尚も喧嘩を続ける二人の声だけが空間を支配する。
そこに――
「何事かな?」
少女の様な幼い声が反響した。
◇◇◇
気づいたらレインとルーナはギルドの一室に案内されていた。
ルーナが絡んできたチンピラもとい冒険者に魔法を打ち込もうとし、それをレインが阻止するというちょっとした事件が起こっていると突如レイン達は先程まで他の冒険者の受付をしていた女性職員に連れられ、この部屋に入っていた。
久しくしていなかった喧嘩に二人が気を取られているうちにどうやら何か騒ぎがあったらしい。
自分達が入って来てから誰も入って来ていないので中に元々居た誰かしらが何か問題を起こしたのだと考えられるがまだ冒険者登録もしていない自分達に何か関連があるとは考えられずに頭を悩ませながらも、ここで待つよう言われたので大人しくまっていると部屋の扉がギィっと空いた。
「ごめんね、お待たせしたかな?」
そんな声を二人にかけてきたのは見目麗しい少女だった。
白金の髪を左右で対象に纏め、ゆらりとそれを揺らしながら此方に歩いてくる少女にレインとルーナの顔が強ばった。
翡翠色の瞳はぱっちりと大きくクリクリでスっと筋の通った鼻は小ぶりで可愛らしい。
そして何より特徴的なのはその耳だ。レインとルーナの耳よりもやや長ぼそく先がツンと尖っている。
それはある種族の特徴。『精霊』と心を交わすことの出来る唯一の種族。この世界の中心に存在する世界樹の麓にある集落に住むといわれているその種族は―
「妖精族?」
レインの口から語られた。
妖精族とポツリと零したレインに目の前の少女はクスリと笑うと――
「初めまして。僕は冒険者ギルド"リューグリア"支部のギルドマスター リリエッタ・リューグリアだよ。宜しく『憤怒』の子 レインくん、ルーナちゃん」
そう言った。
◇◇◇
「ふふふ、なんで知ってるのって顔してるね」
レインとルーナは混乱していた。自分達が神竜の眷属『七つの首』の一頭『憤怒』の子供だとは誰にも知られていないはずだった。
それを知っているのは『憤怒』と『傲慢』、レイン、ルーナ、クロガネ、シロガネの四名と二匹だけだ。
これは二人の最高機密。誰にも他言した事は無い。
それを目の前の少女の姿をしたナニカは知っていた。
レインは即座に影からクロガネを呼び出し、臨戦態勢をとる。
しかし、ルーナは余りの衝撃に動けずにいた。
目の前の少女からはかつてレインとルーナが味わったあの嫌な感覚がとめどなく溢れている。
それは純粋なまでの殺気。肌にへばりつくような粘着質のあるそれはレインの肌を粟立てる。
恐怖。恐怖。恐怖。
レインの頭に危険信号が轟々と鳴る。
頭が真っ白になり目の前が赤く染まる。この状況をどうにかしようと超速度でレインの頭が回転する。
目が充血し、鼻から血が垂れる。ただならぬ主人の様子にクロガネの魔力が膨張しようとし
「まぁ、落ち着きなって。別に危害は与えないからさ」
ふっとそれが霧散する。
『な、何だと…』
自身の魔力が根こそぎ何かに押さえつけられた感覚に陥るクロガネ。
未だかつて無い驚愕の事態にクロガネは呆気に取られる。
「がぁぁぁぁ!!!!」
獣のような雄叫びを上げながらレインが目の前の少女 リリエッタに襲いかかった。
「はぁ、話ぐらい聞きなよ…。全くそこまであの子とそっくりじゃないか」
ため息を吐きながらリリエッタは肉薄するレインに手を突き出し
「【止まれ】」
と一言。
「っっっ!??!???」
リリエッタに件を振り下ろそうとしたその時レインの体が硬直する。
その瞬間
「くっ!っ!いっ!なっ!???」
突如体中の魔力の流れがかき乱れた。規則正しく潤滑していたそれが突如荒れ狂う様にレインの体の中を駆け回る。それによりレインの体が内部より破壊される。
体中に通る血管が何かによって切りつけられたようにブチブチと音を立ててちぎれる。
「かっっ!???」
レインが苦し紛れの声を漏らすと同時にレインの身体中から血が溢れ出た。
レインの体を見るとそこらかしこに無数の傷があり、そこからドクドクととめどなくレインの真っ赤な鮮血が流れる。
突如目の前で身体中から血を流した兄の姿に驚愕で飛んでいた意識が帰ってくる。
「お兄様ぁぁぁぁ!!!!」
バッと音がなりそうな勢いで駆け寄るルーナ。
「な、何をしたぁぁぁ!!!!」
ルーナの絶叫が辺りに響き渡る。即座に腰に差した短杖を抜くと魔力を込める。込めた魔力を
圧縮。圧縮。圧縮。圧縮。
「シーちゃん!!!」
『はい、主様』
服の袖からするりと這い出てきたシロガネがルーナの腕に絡み付く。
「【白龍時杖】!!」
ルーナが杖の持つ本来の力を解放する。
ルーナが持つ短杖。これはレインが錬金術で作り出した魔法道具の一つ。
『白龍時杖』。
これはレインが作り出した最高傑作。レインがルーナの為に作りだしたルーナしか使用出来ないルーナ専用短杖。
それの本来の姿が現れる。
シロガネの紅眼が怪しく光り、その光と呼応する様にルーナの短杖の先の龍の瞳が光る。
一際、その光が強まると杖に変化が起こった。
シロガネがどろりと溶けるように体を変え杖に溶け込む。
黒く輝く杖が白金に染まる。真っ黒な杖が真っ白に染まり、杖柄から小さな鎖に結ばれた懐中時計が現れた。
その懐中時計は目まぐるしい速さで秒針を刻む。蛇の形をした長針と短針が頂上でピタリと止まると、杖が白金に光り輝く。
ルーナがそれを振るった。
「【黒龍転輪】!!」
『ぬぉぉ!?』
ルーナの口から怒声混じりの詠唱が紡がれる。
するとルーナの杖から巨大な蛇頭が現れクロガネを巨大な顎が飲み込む。
するとその巨大な蛇頭の口腔から一本の漆黒の刀が現れた。
「はっ!!」
それをルーナ掴み、気合一閃。
放たれた斬撃がレインの体を切り刻む。
「くっ!」
斬撃を受けたはずのレインの体には斬撃痕は無く代わりにあった無数の傷が全て完治した。
「ふぅー、ありがと、ルーナ。ちょっと危なかったわ」
「ご無事で何よりです。それよりもこの刀は?お兄様が危険な目にあった時、これをお兄様に向けて振れって言われていたのでそうしたのですけど…」
ルーナが手に持つ漆黒の刀を掲げる。
「あぁ、それ?それはクロガネの魔力を使って作った俺の刀。ルーナの杖が無いと使えないからいつもは杖の中に収納してあんの」
レインはその刀を受け取ると軽く一振。
剣圧でルーナの体が吹き飛びそうになり、レインの体を咄嗟に掴んだ。
「す、凄いですね」
「まぁ、ルーナとシロガネの魔力も入ってるからね。この刀は母さんの刀と同じくらいかそれ以上のものだよ」
「あれと同じって…。流石ですね…」
シアの持つ刀【黒嵐】と【白海波】はシアの魔力から作り出された物だ。
それの凄まじさはレインとルーナの記憶に鮮明に焼き付いていた。
そしてそれを知っているのは二人だけでなく
「えっ?ちょっと待って?あれってあの"あれ"?そ、それは不味いなぁ…」
リリエッタも困惑していた。
「さて、じゃあ、第二ラウンドだ」
レインが楽しそうに笑う。ルーナも心做しか楽しそうである。
「ちょ、ちょっと待って。は、話合おう?」
リリエッタの戸惑う声はその場に虚しく響くのだった。
◇◇◇
「ぐすん。酷い目にあったよ…」
体を小さく丸め、床に塞ぎ込むリリエッタの前には満身創痍のレインとルーナの姿があった。
「よ、よく言います…」
「ほんと、アンタ何者だよ…」
第二ラウンドと称し、始まった戦いはリリエッタの勝利で幕を閉じた。
勝負の分かれ目はルーナの魔法だった。
緩急を持って放たれる魔法を逆にカウンターに利用されたのだ。そこから一気に崩壊し、レインとルーナはこてんぱんにやられた。
「ふっ、ふふ、はははははは!!!」
突如笑い出すレインに二人がきょとんとする。
「どうしたんですか?」
ルーナがレインに尋ねるとレインは心底楽しそうにカラカラと笑いながら言った。
「いや、こんなこてんぱんにされたのあの日以来だなーって」
レインは昔を懐かしむ様に話した。
「あぁ、確かにあの日以来ですね」
ルーナもかつてのあの日を思い出し懐かしそうに笑う。
「え、えっと」
「なぁ、リリエッタさん」
「え!?な、何?」
ルーナまで笑い出し、どうしようかあたふたしていたリリエッタは急にレインに声をかけられて跳ね上がった。
「アンタ、どうして俺達がシアの子供だって分かったの?」
レインはずっと疑問に思っていた事を聞いた。
それにリリエッタは「なぁんだ」と納得するかのように頷くとレインとルーナに自身ことを話した。
「改めまして、レインくん。ルーナちゃん。私はリリエッタ・リューグリア。エルフの女王 『妖精王』エルエッタ・エルル・エリシウルの娘。"ハイエルフ"であり、エルフの里の裏切り者。そして貴方達のお母さん『憤怒』のシアのお友達よ」




