24話 兄と妹、 王都へ行く
ごめんなさい。だいぶ大きな設定ミスが発覚しました。
よって一部変更致します。
レイン達がレリクスらと別れを済ませてから三時間程。
レイン、ルーナ、リッカ、ミーナの四人はレリクスが用意した馬車でレイギス王国王都"リューグリア"へ向かっていた。
今まで快調に進んでいた一行だがふと、レインが馬車を止めさせた。
急に足を止めたレインに訝しむリッカとミーナ。
レインとルーナは素早く馬車から降りると、ルーナはさっとレインの後ろに立ち、背中合わせになると最近腰にさげている杖を手に取った。
「おい、つけてんのは分かってる。さっさと出てこい」
虚空に向かってレインが声を上げた。
すると、突如レインの背後、ルーナの正面の木陰から二つの人影が現れた。
今の今まで、自分たちがつけられていたことにその時初めて気がついたリッカとミーナは驚愕した顔でその二つの人影を見た。
「まさか、気づかれていたとは…」
「流石というべきですかねぇ」
堅苦しい声と間の抜けた声は二つとも女性のものだが、全身を灰色のローブで覆っているせいか、性別を判断するまでには至らない。
油断なく杖を握るルーナとは対照的に極々自然体のレインは振り返り、ルーナの隣に立つとその二つの人影へ声を掛けた。
「あんたらの目的は?」
「お兄様、そんな事より早く始末してしまいましょう。この程度の者など、お兄様が手を出す程ではありません。私が即座に始末致します」
キッと睨みをきかせながらルーナが魔力を高める。そんなルーナに苦笑すると、ポンと頭に手を置きながら、更に言葉を続けた。
「まぁ、待てよ。お前も気づいているはずだろ?
こいつらが俺達に危害を加えることは無いって」
急にそんな事を宣ったレインに二つの人影は首を傾げた。
「如何してそう言いきれる」
二つの人影の内の少し背の高い堅苦しい声の方がレインの発言の理由を問うた。
「理由は二つつ。
一つ目はあんたらが公爵邸を出てから今までずっとつけてきているから。
二つ目はあんたらが二人に何らかの縁がある者だと思われるから。
三つ目はあんたらの気配は公爵邸の中にもあったから」
指を一本づつ立てながら説明をするレイン。
その説明を聞いてルーナ以外の者達がそれぞれ異なる反応を示した。
リッカとミーナは自分たちに何かしら縁のある者だと聞き、目の前の二人が誰なのか探るように視線を送る。
そしてその二つの人影は体をビクリと震わし、驚愕に戦いていた。
「まさか、あの時既に気づいていたとは…」
「本当に何者なんですかぁ…。これじゃあ任務失敗ですぅ」
そう言うと二つの影は頭を覆っていたフードを外す。
そこにはメイドの正装であるホワイトブリムと呼ばれる白いカチューシャを頭に嵌めた二人の女性の顔があった。
「フィル!?」
「ティファなの!?」
それと同時にリッカとミーナの驚愕した声が上がった。
◇◇◇
「改めまして私、ヴェルダイン公爵家レリクス様直属諜報部隊"黒豹"所属 団員No.3 フィムルエッタと申します」
「同じくぅ、"黒豹"のNo.5 ティファニーですぅ」
灰色のローブの下に着たメイド服の裾を摘むカーテシーをしながら二人は自分の名を名乗った。
「まさか二人がつけていたなんて…」
自分のよく知る人物が秘密裏に自分達を尾行していたと知りミーナは未だ驚愕から逃れられずにいた。
しかし、弟のリッカは難しい顔をしながら腕を組み、自分達を尾行していた二人をじっと見つめていた。
「父上直属の諜報部隊か…。よもや本当に存在していたとは」
ヴェルダイン公爵家当主直属諜報部隊"黒豹"。
フィルとティファの手によって語られたそれにリッカは思わず耳を疑った。
ヴェルダイン公爵家はレイギス国王の右腕 "諜報部"を任されている。
それは初代のヴェルダイン公爵から変わっておらず、以後200年間普遍的にそれは続いていた。
そしてその200年間の中である噂が浮上したのだ。
それこそがヴェルダイン公爵家直属諜報部隊の存在。
他国の情報を他国に忍ばせた数多の間者から随時報告が可能な特殊な魔法道具の存在から始まり、諜報部隊の数は一つの都市の人口程いるとか、そもそもヴェルダイン公爵領の領民全てがこれに所属しているなど荒唐無稽な様々な噂が飛び交っていた。
ある種の都市伝説のようなものだと思っていたものがまさか実在したなどという驚愕の事実にリッカの頭は混乱していた。
しかもその一員が自分と姉の傍付きメイドだったのだ。
彼の混乱も頷けるものだろう。
「我ら"黒豹"は初代ヴェルダイン公爵家の当主様ご自身が世界中から集めてきた凄腕の諜報員の一族によって構成されております。私とティファニーも幼い頃より今代のヴェルダイン公爵で在らせられるレリクス様にお仕えするため、様々な訓練をしてきた者です。ですのでそれなりに腕には自信があったのですが…」
「これではお父様やお爺様に叱られてしまいますねぇ」
自らの落ち度を悔しそうに語るフィルとティファ。
それをルーナの頭を撫でながら聞いていたレインはふと、思った疑問を二人にぶつけた。
「なぁ、それって俺らが知っていい事なの?」
それは至極当然の理由だ。何故ならこれはヴェルダイン公爵家の最高機密なのだ。
それを部外者であるレインとルーナに話していいものなのか、レインは単に疑問に思った。
それにフィルは淡々と返答した。
「本来はこの機密が口外される事は"黒豹"の存続に関わる事態です。しかし、レイン様なら気がついでもおかしくないのでもし口外させるようなことがあれば全てお話するようにとレリクス様より仰せつかっておりますので問題ありません」
フィルの話にレインは一瞬ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
(なるほどね。敢えて重要な秘密を公開することによってそれを共有するより強い繋がりを持たせ、俺達がレリクスさんもといレイギス王国を裏切る可能性を減らしたって訳か。
これで俺がもし俺がこの情報をどこかに漏らしたら俺らは王国の重鎮の機密をばらした大罪人として指名手配。
そうなれば旅を続けるのに多少なりとも支障がでる。更には俺は彼らに俺たちの情報を一部ばらしているからそれを種に更に俺らの自由を奪うって事か。
流石レイギス王国ヴェルダイン公爵。抜かりないな)
頭を撫でるレインの変化に目敏く反応したルーナは兄の偶にする悪い顔にふふっと小さな笑を零した。
「ん?どうした?」
「お兄様のそのお顔、私好きです」
先程までの悪い顔をぱっと変え、何時もの表情に戻ったレインの顔を下からのぞき込むルーナは楽しそうにそう話した。
「では私達はこれまで通り陰ながらお二人をお守りしようと思います」
一連の話が終わり、レインが彼女らにこれからどうするのか尋ねるとフィルはティファと一緒に頭を下げながらそう言った。
しかし、その答えに待ったが掛かる。
「ちょっと待ってください。レイン様、彼女達も旅に同行させてはどうですか?」
ミーナは折角再会出来た自らの従者と離れるのを拒んだ。
彼女にとってティファは幼い頃から共に過ごした言わば年の離れた姉の様な存在なのだ。ミーナの芯の通った性格と少し間の抜けたティファの組み合わせはいい塩梅で二人とも二人でいる時はいつもより口調が軽くなったりしている。
最もティファは元より軽い口調なので二人でいる時はさらにフィルにそこを指摘されてはいるが。
「確かに、フィルは優秀だ。連れていくとなればきっと役に立つだろう」
リッカにとってフィルはミーナとティファ程軽い中では無いが信頼に足る人物である。フィルもリッカが幼い頃よりずっと傍付きメイドとして共に過ごす中で彼女の有能さにはリッカはいつも瞠目していた。
二人の斡旋もあり、レインが答えを出そうとした時―――
「私は断固反対です!!!」
ルーナの力強い声が辺りに響き渡った。
「えっと…、なぜ反対なのです?」
今まで聞いたことない程の力強い否定の声にミーナは困惑ながら理由を聞いた。
するとルーナはキッとフィルとティファを睨めつけながら勢い強く話を始める。
「お二人を旅へ同行させるなど私は反対です!だって!だって!お二人がお兄様に色目を使うかもしれないじゃないですかぁぁ!!」
「「「「「………え?」」」」」
ルーナの怒声と間の抜けた五人の声が静かな辺りに木霊した。
◇◇◇
レイン達一行は遂にレイギス王国王都"リューグリア"に到着した。
一行には公爵家の令息と令嬢というとてつもないVIPがいる為、関所は顔パスで難なく通った。
「ほぉー、こりゃ凄いな…」
「久しぶりに来ましたね」
「そうだな、やはり此処は変わらないな」
レイン、ミーナ、リッカが思い思いの感想を零す。
レイギス王国王都"リューグリア"。そこはレイギス王国の象徴である。街の床は行き交う馬車が安全に通れるように完全に石畳で舗装され、街の建造物は全て貴重な建材である『魔煉瓦』が所狭しと使用されている。
それはその国の潤沢な資源の現れであり、他国の者はまず此処に驚くと言う。
そして所々並ぶ露店では様々な料理が売られており、街一帯を香ばしい香りが漂っている。
行き先々の人々が露店で買った料理を片手に街の中を徘徊する様は活気に溢れ、それとなく情緒を感じさせる。
そして極めつけはその人の量。城郭都市"レオニス"を大いに勝る量の人がそこには居た。
此処こそが王都。大国レイギス王国の中心部である。
それに圧巻されたレインは好奇心に目を輝かせ、目に映る全ての物に興味を示していた。
「ほんと凄いな!辺り一面に人がいる。レオニスも凄かったけど此処は一段と凄いな!なぁ、ルーナ!」
レインが勢いよく隣を向くとそこにはムスッと顔を顰めたルーナの姿があった。
「私はまだ認めてませんからね…」
拗ねた子供の様にふいっとレインから顔を背けるそれは年相応の仕草で何とも可愛らしいがこの場の一同はこれにてんてこ舞いであった。
「なぁ、そろそろ許してやれよ…。二人とも悪い奴じゃ無いのはお前が1番よく分かっているだろ?」
レインは困った様子でルーナを窘めた。
ルーナにはある能力がある。それは相手の内側を除く事が出来るというものだ。本人曰く、何となく相手が善人か悪人か分かるらしいが本人も何が基準でそれを判断しているか分からないらしい。
明らかに良からぬ策略をしていたレリクスもルーナの目には悪人には見えなかったという。
そこでレインはその相手の"本当の根っこ"の部分によって判断しているのだろうと解釈しているのだがそれも定かではない。
そして今回の二人、フィルとティファはルーナの目には疑いの色は無かった。
故に二人は善人であるのだろうが、何故かルーナは頑なに彼女等の同行を許可しなかった。
そこにレインは何かしらの理由があるのだろうと考えたのだがその理由がメイドの二人がレインに色目を使うかもしれないからだと知り、一同は呆れ果てた
そして、二人はその可能性を強く否定したので最後はレインが押し切り、二人は旅に同行する事になったのだが、それからこの調子である。
「あの、レイン様。ルーナ様がこうまで仰るのなら私達は…」
「俺が同行を許可してるのはあんたらに何らかの価値があると踏んでいるからだ。別に善意で許可している訳では無い」
ティファが申し訳なさそうに話すのをレインが強引に遮った。
レインの物言いにフィルが少し顔を顰めたがその主人の二人は困った人を見る様な何とも優しい目をすると
「おい、レイン。あんまり二人を虐めてやるな。二人も真に受けなくていい。こいつ、変な所意地っぱりだからな」
「そうですよ。レイン様は恥ずかしがり屋さんですから」
と微笑みながら話した。
◇◇◇
六人は宿をとると大広間へと移動した。
「では私達はお父様より預かった陛下へのお手紙を届けに行ってきます」
「二人はどうするんだ?」
「あー、俺達は冒険者ギルドへ行ってくるよ」
「つーん」
それぞれやり取りを終えるとリッカ、ミーナ、フィル、ティファは国王の住まうレイギス城へレイン、ルーナは冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルド。そこは周りと建物と比べるととても大きく、町中にある家々の倍はあるかと思われる所だった。
しかし、そこからは剣呑な雰囲気が漂っており、道行く人もそこを避けて通っているように思えた。
レインは大きな観音開きの木の扉をゆっくり開ける。
中は想像通り広く、武器や防具を身に纏った者が酒を飲んだり、カウンターに並んだり、掲示板の様な板を眺めていたりした。
しかし、レインが扉から入ってくると一斉にその視線がレイン達に向いた。
レイン達を見て、興味深そうな顔をする者、見るだけ見て興味を失ったのか視線を別の所に写す者、そしてニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる者と様々。
レインが興味深そうに辺りをキョロキョロと眺めているとスキンヘッドの大男とヒョロりと長い男がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら近づいてきた。
「おいおい、此処はお子様が来る場所じゃあねぇんだけどなぁ」
「ひ、ひ、ひ、どうちたんでちゅかー、ぼうやー」
「ん?なんか用?」
突如目の前に現れた男達にレインが首を傾げる。
その仕草に何を思ったのかスキンヘッドの大男がレインの前にずいっと近づくと威圧する様に仁王立ちをした。
「おいおい、話はちゃんと聞けよ。此処は冒険者ギルド、腕に自信のある奴が命張って競う場所だ。そんな所にお子様が来るんじゃねえって言ってんだよ」
「何なら今から痛い目見るかぁ?あぁん?」
大男と長男が腰に下げた直剣をチラリと覗かせる。きっと彼らは力の無い子供を脅かし、楽しもうとしたのだろう。
しかし、今は相手とタイミングが悪かった。
「お、お、お兄様を…。お兄様を…。お兄様を愚弄するなァァァァ!!!!」
「やっべ!?」
突如放たれる明らかに無事では済まないルーナの【弾丸】。
「「ひっひぃぃぃ!!!!」」
ルーナの【弾丸】の強み。それはその速度だ。まるで光のように打ち出されたそれが男達に着弾するかと思われたその時――
「はっ!」
突如その【弾丸】が目の前で消滅する。そしてそこには愛刀を握ったレインの姿があった。
「な、何故邪魔したのですか!?今そこのゴミを焼却処分しようとしたのに!!」
「ばか、今居るのは冒険者ギルドだそ!?これから冒険者登録するというのに冒険者を消し炭にしてどうする!!」
「で、でもそこのゴミはお兄様を愚弄しました!!」
「この程度の奴ほっとけばいいだろ!!それよりも冒険者登録だろうが!!」
「私はお兄様が愚弄される事は何より許せない事なのです!!それにもし私が手を出さなくてもクーちゃんかシーちゃんのどっちかがこいつらの首を跳ねていましたよ!」
「なっ!?おい、クロガネ、シロガネ嘘だろな!?」
わいわいと兄弟喧嘩を始めたレインとルーナ。
その傍らには白目を向いて失禁した男達の姿があった。




