18.5話 兄と妹、"テンプレ"に遭遇する~その2~
ギリギリになってしまいすいません。
レインは森を駆けていた。その理由はただ一つ。人間が魔獣の群れに襲われていたからだ。
つい先刻、レインの索敵魔法に魔獣の群れが引っかかった。それもアルクールの森の中でも厄介な魔獣の一つである "シルバーファング" が。
俗世に出ていないレインはモンスターの"ランク"と言うものを知らない。
しかし、12年間、この森の中で過ごしてきたレインは人間が奴らと太刀打ちするには少々分が悪い(実際にはランクAクラスが複数人居なければ太刀打ち出来ないのだが)ことは理解していた。故にレインなら一瞬にして始末出来る魔獣であっても他の者には対処が難しいとレインは考えていた。
「おいおい、また一人反応が消えた。これ間に合うかな?」
レインの索敵魔法は基本的な索敵魔法と異なる。何故ならレインの索敵魔法はレインの独自魔法なのだ。
【独自魔法】とはその名の通り既存の魔法を使用者の手で改竄、編集、最適化することによって新たな魔法として作り替えれた独自の魔法の事である。この魔法は既存の魔法を自分の手を加え変化させ、新たな魔法を作り上げるので作り手の技量に作用される。
例えば初級魔法である【火球】であっても、高度な技術を持った魔法士ならば中級魔法と大差ない威力の【独自魔法】へと改竄する事も可能なのだ。
そしてそれがレインほどの卓越した魔法士ならば言わずもがな。
レインは従来の索敵魔法に不満を抱えていた。それは索敵範囲の広さと精度の低さである。
そして、それらを改善させたレインの新たな魔法。
【多感同一型索敵魔法~万物を見通す龍眼~】
この独自魔法にはかつてレインが生み出した【監視者】の技術が組み込まれている。
レインがこの魔法を作る時に重点を置いたのがその精度だ。
従来の様に魔素の大きさで感知を行うと強者達には寝首を搔かれてしまう。この森には自身の魔力を抑える魔獣が多く生息していた。それ故にこの魔法の欠点に気づいたレインはその対策に頭を悩ませた結果、【監視者】の技術を応用したのだ。
【監視者】とは主にルーナの護衛に用いている魔法で原理はルーナに座標を定め、そこへと魔力を飛ばす事でその魔力に何かが干渉した際にレインへと通達が送られるという魔法だ。そこでレインは考えたのだ。
「これを"個人"でなく"個体"にしたらどうなるのかな?」
その答えはレインの思想を凌駕させた。レインはルーナという"個人"ではなく自身の周りにいる生物"個体"を魔力で覆ったのだ。アルクールの森は様々な生物が存在する。よってその対象となる生物も沢山いた。そして、レインは片っ端からその生物達に自身の魔力を送った。
鳥、小動物、木々に獣。延いては魔獣まで。その結果分かったことは二つ。
一つは自身の魔力で覆う事はどんな生物でも可能であるという事。
もう一つは波長の合う生物なら感覚の共有が可能であるという事。
どうやら生物なら如何なるものであろうとも魔力で覆うのだけは可能のようだった。試しにこの森の四強である魔物や魔獣にも使用してみた所成功したのだ。しかし、成功したからといって何が利益があった訳ではなく唯成功しただけであった。
それより驚愕的だったのは感覚の共有が可能であった事だ。魔力で覆った時に他の生物と違う感覚のあった生物と何度か同じ事をすると、感覚の共有が可能になったのだ。しかも、驚くべき事にその個体が成功したらその個体と同種であれば全ての個体で感覚の共有が可能になる様なのだ。
これによってレインは波長の合う生物なら視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感すべての共有を可能にさせたのだ。そして、その結果自身の魔力の届きうる範囲 半径十キロメートルまでなら索敵可能という正に常識外れの魔法を作り上げたのだ。
これを三人に説明した時は全員が物凄い呆れ顔だったのをレインは「解せぬ」と思ったのを覚えている。
そして、この魔法で探知した人間達の座標はその索敵可能ラインのギリギリの十キロメートル。
故にレインはルーナ達に事情の説明もせず一目散に走り出したのだ。
レインが疾走している間にも一人、また一人と兵士が倒れていく所が視える。
レインにも焦りが芽生え、更に速度を上げる。風の上位魔法である【暴虐の嵐】を両足に纏い、ジェット噴射の要領で加速する。レインの通過した跡は地面が抉れ、轍が出来ているがそんな事お構い無しにレインは兎に角駆けた。
そして、遂に彼らの元に辿り着き、今にも老人に襲いかかろうとするシルバーファングの一体を目にし――
――一閃
老人の目の前の銀狼の首を刎ねると足に纏っていた【暴虐の嵐】を剣に【附与】。神速で放たれた斬撃は超高密度の鎌鼬となって何の躊躇いもなくそこにいた全ての銀狼の首を刈り取った。
それはまるで死神の鎌の様で、そこには無惨にも朽ちた銀狼達とその首が佇むだけ。
脅威であったシルバーファングを全て刈り取ったレインは息を一つ吐くとぽかんと口を開けている老人に声を掛けた。
「ふぅー。何とか間に合ったか。お爺さん大丈夫?」
老人に対し話しかけたつもりなのに何故か反応が帰ってこず、レインは首を傾げた。
「あれ?聞いてる?おーい、大丈夫?」
老人ははっと我に返ったのか顔を一振りすると目の前で手を振る少年に目線を移した。
「え、えぇ。ご心配無く。所で今のは貴方が?」
目の前の現実を受け入れられないのか疑い深く探るように尋ねる老人。そんな老人に何時もの能天気な声でレインは返答した。
「ん?そうだよ。いやー、間に合って良かったよ。あと、一秒来るの遅かったらお爺さん死んでたよ」
そんな何気なくレインが発した発言に周りの空気が凍りついた。
「そ、それはどういうことですか?私もそこそこ出来ると自負しているのですが…」
レインはその答えを聞いて何か納得したのか「あぁ」と一言発すると老人の質問に答えた。
「えっと、奴らは"シルバーファング"って言ってこの森でも中々厄介な奴らなんだよ。確かにお爺さんなら一体ぐらい倒せただろうけど一体倒して消耗した所に全員で襲われて終わり。ちなみにお爺さん、さっき何かの能力使ってた?一時的に身体能力を強化する反面防御力が低下するみたいな。なんかそんな感じの能力ならやっぱりお爺さんあと、一秒遅かったら死んでるよ。あいつら本当に姑息で一体で勝てないってなったら即全員で攻めてくるから」
そんなレインの返答に老人は驚愕した。それはレインが話した"シルバーファング"についてでは無く、自分の能力を見破られたからだ。
先程使用したのは【限界突破】という能力だ。この能力は正にレインが言った通りで一時的に自身の身体能力を上げることが出来る反面、防御力が低下してしまうのだ。本来魔力は全身を守る様に巡っている。しかし、この能力は魔力を各部位に集中させ身体能力を向上させるというものなのだ。故に腕や脚など攻撃に使う部位に魔力を集めてしまうと必然的に防御力が低下してしまうのだ。
その原理を見ただけで理解した目の前の少年の異常さに老人は戦慄した。
(一体この少年は何者なのだろうか…。只者では無いのは確かだろうが…)
そんな気持ちを抱いたとしてもその問いには答えて上げるのが誠意というものだ。こちらの問いに答えてくれた礼として老人は口を開いた。
「えぇ。さっき私が使用した能力は【限界突破】というもので先程貴方が仰った通りのものです。しかし、凄いですな。見ただけで能力の効果を見破るなど」
見ず知らずの人から褒められた事に少し満足気なレインは嬉しそうに顔を緩ませた。
「いや、それ程でもないよ。俺も唯の憶測だったんだし。あ、そうだ。所であんた達は何しに此処へ?」
ずっとレインが抱いていた疑問。それは何故此処に人間が居るのか。本来アルクールの森は特級危険指定区域だ。此処には人など立ち寄らないし立ち寄れない。しかし、現に彼らは此処にいる。では何故?それがレインの彼らを発見してからずっと思っていた疑問だった。
それを老人に聞こうとし
「それについては私から説明致しましょう」
そんな凛とした声が聞こえた。
声の主に視線を向けるとそこには金色に輝く髪に蒼く透き通った瞳を持った少女が佇んでいた。
スッと伸びた鼻筋に小さな紅色の口。白く澄んだ肌は陶器の様に繊細な美を感じる。
そして、その傍らには同じような金色ブロンドに輝く髪に蒼く透き通った瞳の少年がこちらを興味津々に見ている。
「先ずは、危ない所を助けて頂き感謝します。私はヴェルダイン公爵家令嬢イミーナ・ヴァン・ヴェルダインと申します。そしてこちらが弟の」
「ヴェルダイン公爵家令息リカード・ヴァン・ヴェルダインだ」
イミーナと言う少女とリカードと言う少年は公爵令息と令嬢らしい。公爵とは国王の次に権力のある者で上位貴族と言う存在だ。そんな存在を目の前にしたレインは
「へぇー。公爵家ね」
いつもと変わらない様子だった。
余りにも薄い反応にイミーナは困惑し、リカードは腹を抱えて笑っている。
「え?え?あ、あの公爵家ですよ?」
「ん?らしいな」
「レイギス王国で二番目に偉いのですよ?」
「ほー。それは凄いな」
「反応薄くないですか?」
「そうか?」
そんな茶番をしている最中に何かが駆ける音が聞こえ、身構える者達。
しかし、そんな者達にまた呑気な声が掛けられる。
「あぁ、警戒しなくても大丈夫だよ」
「それはどういう事ですかな?」
先程まで命の危険にさらされてきた老人はどうしても警戒してしまう。そんな老人を安心させるようにレインはその理由を話した。
「だって、こいつらは――」
「おーにーいーさーまー!!!」
「ごふぅぅぅぅう!!」
ドンと言う衝撃音を立てて何がレインに衝突した。その何かに後方に吹き飛ばされるレイン。
先程自分たちを救ってくれた恩人が飛ばされていくのを眺める全員。その距離は恐ろしいもので約十メートル程飛ばされた様だ。
しかし、その飛ばした張本人は彼のことをお兄様と読んでいた。ならば彼が心配無用と言ったことにと納得出来る。
「お兄様!何故何も言わずに飛び出して行ったんですか!」
「いや、だってかなりやばい状況だったし…」
「だからってルーナに何も言わずに行くのはあんまりです!心配したんですからね!」
「心配って…。俺がこの森で心配される状況に陥る訳無いだろ?」
「そ、それもそうですけど…。でも、心配は心配なんです!特に今日お兄様は浮かれていたし」
「う、浮かれてなんか無いぞ!た、確かに今日を楽しみしていたのは本当だが…」
「それを浮かれていると言うんです!」
「あ、あのう…」
「そんな事言うならルーナだって浮かれてただろ!」
「えっとぉ…」
「う、浮かれてなどいません!た、確かに今日は早起きしてタイラントサンド作ってましたけど…」
「そのぉ…」
「ほらな!浮かれてるじゃないか!」
「は、話を…」
「「さっきからうるさい!!」」
「えぇー……」
「「はっ!」」
レインとルーナが仲良く兄妹喧嘩をしている最中に誰かが声を掛けていた。しかし、レイン達にはお互いの責め合いで忙しく聞く耳を持たない。それでもめげずに声をかけ続けていたら怒鳴られる始末。
余りにも理不尽。その事にようやく気づいたのかレイン達は互いを見合うとその声の主イミーナの方を恐る恐る向いた。
イミーナは目元に涙を浮かべながらこちらを恐る恐る見ている。公爵家の令嬢として生まれたイミーナは余りに他人に怒られた経験が無い。よって見ず知らずの自分と近い年の少年少女でも怖がってしまうのだ。その事を悪く思ったのかレインは咳払いをすると無理矢理自分たちについて話し出した。
「う、うん。えっと取り敢えずごめんな。先ず警戒してる人達はその警戒を解いて大丈夫だよ。俺の名前はレイン。そしてこっちが妹の―」
「ルーナと申します。見苦しい所をお見せしてすみません」
互いに苦笑いを浮かべるレインとルーナ。
これがレイン達兄妹の生涯の友。イミーナとリカードとの初対面だった。




