18話 兄と妹、"テンプレ"に遭遇する
長くなりそうだったので2話展開にしました。
今回はその第1話です。
レインとルーナ、そして二人の使い魔のクロガネとシロガネの昼食が終わり、現在は真昼。
レインとルーナは相変わらず常軌を逸した速さでアルクールの森を駆けていた。
その傍らを追従する黒い竜と白い蛇。
『処で、主。今はどちらに向かっているのでしょうか?』
『私も気になっておりました。進路からしたらレイギス王国でしょうけど』
その二体はそんな事を口にした。
その二体とは"二体"で"一体"。雌雄同体の身体を持ち、互いを飲み込まんとする輪廻を司りし幻獣。そして、"七つの首"の二対『憤怒』と『傲慢』の眷属。
『双尾之龍』の雄個体"クロガネ"、雌個体"シロガネ"。彼らは彼らの創造主に一つの使命を任された。それは創造主の息子と娘の護衛――
そんな訳で新たな名ずけ親のレインとルーナと共に行動している。
普段、あまり自分達に意見を言わない二体から意見を言われた事に少しびっくりしつつも、レインは二体と情報の共有を行った。
『成程。やはりレイギス王国に向かっていたのですね』
『更には冒険者登録をすると。主達なら忽ちAランク以上になれるでしょう』
「なぁ、その"Aランク"ってなんだ?」
冒険者ギルドには"ランク"という制度が設けられている。"ランク"とは冒険者の実力を位階で表したもので、ランクが高ければより、高難易度の依頼を受注可能になる。しかし、ランクを上げるのもそう容易では無く、ただ実力が有るだけでは上位ランクにはなる事が出来ない。
そもそもランクとはギルドの冒険者への信頼の証なのだ。高難易度の依頼を任せるとはギルドにとって生殺与奪を決める事でもある。ギルドが認めた冒険者がもし、仮にその依頼に失敗した場合、その責任が冒険者だけでなく、ギルドにも与えられるからだ。
何故なら、高難易度依頼迄になると、それこそ一体で国を崩壊させる程の魔物、魔獣の討伐や王族、貴族の護衛任務、又は王族、貴族からの直接依頼なのだ。これが失敗したとなるとそれを仲介したギルドにも責任問題が問われる事になる。それは、ギルドの存在価値を大きく揺るがすほどに。
故に上位冒険者とは実力は勿論の事、素行、素姓、所作、それら全てがギルドの設けた基準値に至ら無ければならないのだ。それ故、上位冒険者の数はとても少ない。しかし、その影響は大きく、ギルドに於いては最高責任者の次に大きな権力を持つのだ。また、実力はあってもその素行が良くないため上位ランクに慣れない冒険者も多く、一般的にCランク冒険者の評価はあまり良くないといわれている。
ちなみに冒険者のランクは
Aランク――上位冒険者。英雄と呼ばれる程の実力を持つ。ギルド内で大きな権力を持つ。
Bランク――上位冒険者。かなりの強者。Aランクとの差はとても大きい。しかし、実力はかなりのものでギルド内でも重宝される。
Cランク――ここまで行くとベテランと呼ばれる。この上のB、Aランクとの壁はかなりのもので多くの冒険者は此処で止まる。しかし、実力は認められているので、そこそこ良い依頼を受注可能。
Dランク――中堅クラス。初心者では無いがまだまだ未熟な者が多い。依頼も余り金になる者は無く、金に困っている者も多いので色んな者に食い物にされる事も多い。
Eランク――初心者に毛が生えた程度。やっと一人で魔物や魔獣を倒せる程度。実力に見合った行動が出来ない者も多く、このランクが一番命を落としやすいとも言われている。冒険者の登竜門でもある。
Fランク――初心者。冒険者登録をした者はこのランクから始まる。討伐依頼は一切受ける事が出来ず、薬草採取など、常備依頼しか受注出来ない。しかし、Eランクへの昇進はとても簡単で常備依頼を三つこなすだけで昇進できる。
となっている。
これが一般的な冒険者のランク分けである。またこの上に"Sランク"が存在するがSランクは各支部の最高責任者しかなれない。しかし、例外も存在し、過去一人だけSランクに到達してなお、最高責任者にならなかった冒険者もいるらしいが眉唾とされている。
「ふーん。それで俺達ならAランクになるのは可能って訳か」
『作用に御座います。主達なら"Sランク"にもなれるでしょう』
「いやー、それは無理じゃね?」
『いいえ、可能ですわ!何せ主様達を下等な人間等の指標で評価するなど烏滸がましいにも程がありますもの!』
血気迫る様子でそう訴えるシロガネ。その様子に引き気味なレインとルーナは顔を見合わせるとクスリと笑い会った。
「まぁ、何でもいいよ。兎に角俺達は冒険が出来ればそれでいいのだから」
「ええ、私はお兄様に付いて行くだけです。それとシーちゃん。人間を下等なんて言っちゃダメですよ。だって私とお兄様だって人間なんですから」
『うっ…。然し、主様達は最早人間と言う種の範疇を超えています。故に人間なんて下等な生物とは格別した存在なのです。ですから…』
「シーちゃん?」
途端、発せられる威圧感。それは、幻獣ウロボロスをも凄ませる力の圧力。それに当てられたシロガネは萎んだように大人しくなった。そんなシロガネの様子をレインの隣で嘲笑するクロガネ。その隣のクロガネを見るレインの瞳はとても冷たいものだった。
◇◇◇
そんなこんなにあって、再び歩みを始める二人と二体。
快調に歩みを進めていたレイン達であったが、ふとレインが歩みを止めた。
『主?』
「どうかしましたか?お兄様」
二つの呼びかけに返事もせず、レインは辺りをキョロキョロと見渡す。
そして、ある方向をじっと見つめたかと思うと急にそちら側へ向かって駆け出した。
「お兄様!」
『主!?』
『わ、若様?』
そんなレインの様子から只事では無いと判断したルーナ達は不審げながらもレインを追う。
レインは焦っていた。何故ならレインの索敵魔法に魔獣の群れの反応があったからだ。
それも何故か此処に居る筈もない"人間"の集団を取り囲む様にして。
「結構、不味いな…」
そうぼやきながら、レインは更に速度を上げた。
◇◇◇
アルクールの森の浅部。そこに響き渡る悲鳴と魔獣の遠吠え。
「ど、如何してこうなってしまったの…」
「くそ!何がどうなってるんだ!」
俯きながらも辺りの惨状を目にし、檄を飛ばす少女と少年。
金色に輝く髪に蒼く透き通った瞳。スッと伸びた鼻筋に小さな紅色の口。白く澄んだ肌は白亜の如く、スラリと長い脚は彼らのスタイルの良さを否応無しに著している。その顔立ちは似通っており彼らが血縁関係にある事を示している。
そして、キリッとした瞳は知的で、その者達の気品の良さを感じさせる。しかし、本来美しいその瞳は影を孕み、奥に絶望の炎が燃えている。
彼らの周りは正に地獄絵図だった。血痕がべとりと張り付いた地面にはその主である人間の死骸が見るも無惨に放置されている。
そして、それを成した銀狼の群れが彼らを取り囲む様にその鋭い眼光を向けている。奴らはまるで狩りを楽しむかの様にじわりと彼らににじり寄り護衛の兵士を一人、また一人と刈り取って行く。偶に敢えて攻撃を喰らい、仲間の復讐とばかりに執拗に兵士を嬲る始末。
その行動は余りにも陰湿で余りにも残酷だ。現にまた一人、兵士が刈り取られた。そんな光景を目の前で繰り広げられ発狂しない彼らはかなり肝が据わっているだろう。しかし、そんな事は今は関係ない。例え肝が据わっていようとも戦う術のない彼らにはどうしようも無いのだ。彼らを守る兵士は一人一人無惨に命を散らし、数でさせ奴らに劣っているのだ。勝ち目など無いだろう。
「貴方達。お嬢様達を連れてここを離れなさい」
そう話したのは彼らの前を立ち塞がる様にして油断なく銀狼達を見据える老人。質の良いスーツを着、すっと筋の通った背筋は齢60程に見える容姿からは想像出来ない程美しい。更に漂う気配は幾度もの修羅場を潜って来た者のそれで只者でないのは確かだろう。
しかし、たった一人の老人が幾ら強かろうとこの場を乗り越える事は不可能だ。
何故なら彼らを取り囲む銀狼達はAランク魔獣『シルバーファング』なのだ。奴らは"個"にして"全"。故に群れの長など居ない。奴らは独自の知覚器官を持っており他の生物に感知できない音波を出すことでコミュニケーションを行っているのだ。それは狩りにおいても同様。奴らは他の生物に感知されない音波により全ての個体の視覚、聴覚、嗅覚、触覚を共有しているのだ。故に奴らは各々の最も最適な行動を取る。そして、その情報を元に更なる最適行動を取るのだ。そこに死角は存在せず、いかなる攻撃でも奴らは対応してのける。
また、奴らにとって仲間が幾ら死のうと関係がない。何故なら奴らには明確な司令塔は居ないのだ。各々が最適を取るためにそれを指示する必要が無いのだ。故に幾ら仲間が死のうがそれは取れる手段が減るだけ。奴らには恐怖という感情が無いのだ。その圧倒的な迄の冷酷さと残虐さ。そして、一体を相手にしたら群れ全てと相手をしなければならないという厄介さから奴らはAランク魔獣と恐れられているのだ。
余談だが、魔物や魔獣にも"ランク"が存在する。本来冒険者のランクとはこの魔物や魔獣のランクを元に制作されたのだ。故に奴らも同じでF~Aまで存在する。その中でもAランクとは人間の手に負えない怪物とされている。何せAランク魔物はAランク冒険者が三人以上で対処しなければならない程脅威なのだ。更にこの上に"Sランク"と呼ばれる怪物も存在するが奴らは滅多に現れない為最早幻と言われている。
『シルバーファング』は一体一体なら精々Bランク程度だが、群れでとなるとAランク相当に及ぶ。故に老人一人で手に負える筈がない。それを知ってなのか老人を引き留めようとする声が上がる。
「それだけは許しません!爺や!」
「お前に死なれたら困るんだ!頼むから一緒に逃げてくれ!」
一層悲痛な少女と少年の叫び。その声にふっと頬を緩めると
「お嬢様。お坊ちゃま。申し訳ございません」
そう答えるのだった。
「爺や!なりません!爺や!」
「お坊ちゃまは止めろと言ってるだろ!帰ったら説教だ!だから死ぬな!」
尚も自分を引き留めようとする少女達に老人は笑みを深めると目の前の銀狼達を睨む。
「悪いが此処を通す訳には行かん。それでも通りたくば私を殺してからにしなさい」
そう口にすると腰に差した直剣を抜き、構える。
その構えには隙がなく老人が只者でないことを顕在的に著している。しかし、それに臆すること無く銀狼達は老人に近ずき、一瞬にして飛びかかった。
それを予測していたように老人は剣を横に――
――一閃
「は?」
振るわなかった。嫌、振るえなかったのが正しい。何故なら老人へ銀狼達が向かってくる事は無かったからだ。正確には向かってくる前に何かに切り伏せられたのだ。
一体の銀狼の首が落ちる。ボトリと音を立てて1つの首が落ちたのを契機に取り囲む様にいた約20の銀狼の首が一斉に落ちる。
その余り異様な光景にその場に居た全ての人間の動きが止まる。何があったのか。それを考えている者達の耳に
「ふぅー。何とか間に合ったか」
そんな呑気に声が届いた。
その声のする方を見るとそこには黒髪黒瞳の傷だらけの血塗られた木刀を握った少年が笑顔で立っていた。




