17話 兄と妹、使い魔を呼び出す
説明回にしたのに何故か過去最大量になってしまった…。
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レイギス王国領の南部に位置する魔境。『アルクールの森』。別名『帰らずの森』。その中腹を走る黒い影が二つ。
その影は妙に小さく、明らかに此処に存在するはずのない人間の少年と少女の様な影であった。
その影は馬をも軽く凌駕する速度で駆けており、それでいて恐ろしい程足音が鳴っていない。
そんな影の正体はアルクールの森に住む『龍』に育てられた兄妹。
兄のレインと妹のルーナである。
今、レイン達はこの世界で三番目に広大な国土を誇る大国『レイギス王国』へ、向かっていた。
レイギス王国は賢王アーノイン・ヴァン・レイギスが収める大国で、その国力は世界有数であり、この世界の運営に多大な影響を持つとされている“三大大国”の一つとして数えられている。
また、軍部にも力を注いでおり、レイギス王国が誇る賢王アーノイン・ヴァン・レイギス直属騎士団『竜狩り騎士団』はこの世界で知らない者はいない程名を轟かせている。
彼らはその名の通り、本来ならば正規兵200人でかからなければ狩ることの不可能な魔物である竜をたった50人で討ち取ったのだ。
その逸話は瞬く間に世界を巡り、『竜狩り騎士団』の名は結成僅か三年にして世界各国へと名を知らしめた。そして、その騎士団を纏めあげる男こそレイギス国王直属護衛隊長兼竜狩り騎士団団長ガイル・リンダイン。
彼は敵の返り血に濡れながら獰猛な笑みを浮かべ敵を殲滅する様から"血鬼"呼ばれ他国から恐れられている。
その力は恐ろしいもので、彼が20半ば頃、当時派遣されていた領地での戦の際、賊軍約2500の内、約200人を一人で切り伏せたのだ。王国が三大大国として名を馳せているのも、彼の存在あってだろう。
経済力、軍事力に秀でた大国『レイギス王国』。そこに二人が向かう理由は二つあった。
一つ目は観光のため。アルクールの森から最も近い国であり、世界でも有数の大国。そこには二人の見たことの無いものに溢れており、きっと楽しいだろう。
そう考えたレインはまず第一の目的としてこの国に向かうことを選んだのだ。
そして二つ目。それは冒険者になるためだ。冒険者とは冒険者ギルドに所属する者達を総称するもので、主に魔物や魔獣など人的被害を起こしうる脅威を排除し、それを依頼として受けることによって依頼主から報酬金を得るという職業だ。
また、薬草の採取や土木作業、家屋の清掃まであらゆる依頼が存在し、それを自身が選択し、その依頼を成功させる事でも報酬金を得ることが可能である。
しかし、これらの仕事は総じて報酬金が少ない為、一般の冒険者は魔物や魔獣など討伐依頼をこなし、報酬を得ている。
また、冒険者ギルドでは魔物や魔獣の買取も行っており、武具や装飾、魔道具などの制作に使用される魔物、魔獣の部位を買い取ることもしているため、討伐依頼の方が優先されるのだ。
何故レイン達が冒険者になろうと思ったかはとても単純な理由。冒険譚はほとんどが冒険者の旅について書かれているからだ。
幼い頃よりレインは本の冒険譚が大好きだった。今旅をしているのも嘗て本の冒険譚の様な冒険をしてみたいと願ったからだ。故にレインが冒険者になろうと思う事はレインからしたら必然なのだ。
ともあれ、この二つの要因の為、レインとルーナはレイギス王国へと向かっているのである。因みに、ルーナは旅の一切をレインに任せており、生活面でのやり取りはするが目的地や旅の概要は全てレインに任せている。何故そうしているのかは明確な理由があるのだが、レインに聞かれない為ルーナも説明はしていなかったりする。
レイン達は今朝自分達の家を出発し、二時間かけて現在地までやってきていた。
「よし、少しだけ早いけど昼飯にしよう」
そう口にしたレインは何も無い空間に徐に手を翳すと、その空間に歪みが出現。その歪みに手を入れ、そこから一枚のレジャーシートを取り出しそばにあった木陰へ敷くとそこに腰を下ろした。
一見、摩訶不思議な光景だが、今のも歴とした魔法である。今レインが使用した魔法は次元魔法の一種【禁断之箱】という魔法だ。
これは此処とは異なる別次元の扉を生み出し、その別次元に物を収納するという魔法だ。此処に収納された物はもう一度魔法を使用することで取り出すことが可能だ。
そして此処に収納された物は時間の影響受け付けない。例えば氷を入れておけばそれは溶けず、取り出した際は氷のまま使用することが出来る。
この別次元(異次元)は魔法の使用者の基礎魔力量に依存し、基礎魔力量が多いもの程収納出来る空間が多い。
しかしデメリットもあり生物は収納できないのだ。正確には収納出来るのだがそれは死亡が確認されたものしか収納できないのだ。
故に、この箱の中に生きた人間や動物を入れ運搬するという事は不可能である。ただ冒険者の様な沢山の道具を持ち歩く職業の者からしたら魔法を使用するだけでたくさんの物を収納でき、食品は冷めることなく出来たてのまま保存可能なのだ、喉から手が出る程欲しい魔法だろう。
また、この魔法は次元魔法の一種なのだが、次元魔法の使い手が驚く程少ない為、使える者も希少である。この魔法が使えても他の次元魔法を使えない者も多く、一般的にはこの魔法は【収納魔法】という別の魔法として認知されていることも多いのだが、俗世に疎いレインとルーナはこのような事など全く知らないでいた。
そしてルーナも何も無い空間に出現した歪みに手を突き刺すと、中からシアお手製のランチボックスを取り出し、同じ様に腰を下ろした。
レインよりも魔法に秀でたルーナももちろん当然のように次元魔法を習得していた。
「はい、お兄様。今日は初旅という事もあり先に作ってきましたぁ。中身はお兄様のお好きなルーナ特製"タイラント"サンドですよー」
ランチボックスを開くと中にはカツサンドが入っていた。こんがりと焼け目の入ったサクサクのカツ。
それを覆う純白の小麦パン。白と狐色という二色に輝くサンドイッチはその色の対比を魅力的に感じる程美しいコントラストを生み出している。
そして、そのカツに用いられた肉こそ、この森の上位に位置する魔獣。黒く輝く体毛は如何なる武器の攻撃を弾き、下級魔法を受け付けない。その鮮血のように紅い瞳は見るものに圧倒的な恐怖を植え付ける。
その名は"タイラント"。嘗てルーナが苦戦しながらも倒すことの出来たこの森の魔獣の王。それの肉で作られていた。
現在のルーナならば、片手間で倒す事もできるのでレイン達家族の食卓にはよく"タイラント"が並べられたりもした。そして、ルーナの得意料理であり、レインの大好物の一つでもあるのがこの"タイラント"サンドだ。
タイラントは大柄でありながら決して大味でもなく、また身体の部位によって味が違う為高級食材として流通されていたりする。ただし、数も希少で倒せる者も少ない為流通は滅多にされず国王への献上物として古くから人間に愛されているようだ。
それを知ったルーナはタイラントを倒しては研究し、試行錯誤し、様々な料理の開発に勤しんだ。
その結果、このタイラントサンドが生まれたのだ。その味は少し甘みのある肉に塗られたマスタードがアクセントとなりタイラントの強烈な旨みを引き出し、油により挙げられたカツはサクサクとした心地いい食感を生みだす。更にそれをふんわりと柔らかなパンが包み込むことによって全体のバランスを取り調和の取れた一品へと完成させている。そして、極めつけはルーナ特製ソース。
これはアルクールの森で採れる様々な木の実、果物、野菜、薬草をブレンドし、蜜壷蟻の蜜と混ぜ合わせ加熱。蜜壷蟻の蜜がカラメル状になったらそこに石巨人の岩塩を加え、煮込み、それをこして2晩寝かせたもの。
そのソースによってこの料理は完成するのだ。そのソースも希少な魔物の素材を使用しているため、売れば相当の値が付くだろう。
そんな希少食材をふんだんに使ったルーナの料理に目を馳せたレインは思わず笑を零した。
「おぉ、タイラントサンドか!朝早くに起きて何をしているかと思っていたらこれを作ってたんだな」
「ええ、お兄様のその顔が見たくて張り切っちゃいました」
レインの喜ぶ顔が見たくて朝早くからこの料理の調理をしていたルーナはレインの喜ぶ顔を見れてとても満足気に語る。
そんな思いはルーナに感謝を述べると、レインはランチボックスからタイラントサンドを一つ摘むと口に運んだ。
「うん、美味い」
レインから"美味い"という言葉を聞いたルーナは口元をふにゃりと緩ませる。その緩んだ顔はとても可愛らしく此処に残念な大人がいたら悶絶していただろう。
レインから聞きたい言葉を聞いたルーナは同じ様にランチボックスからタイラントサンドを摘み口に運ぶ。
今回は張り切って作った為自分の中でも自信作だった。レインならルーナの作った料理を全て美味しいと言って食べてくれるがそれはルーナが気に入らない。しっかりと自分の納得出来るものをレインに提供したいのだ。ルーナが一口、口にしてうんと頷く。どうやら納得のいく出来だったようだ。
そして二人で談笑しながらゆっくりと昼食を楽しむ。ルーナが【禁断之箱】からティーカップとティーポットを取り出しレインと自分の紅茶を煎れる。
二人で食後のティータイムを堪能していたレインとルーナたが、レインがふと何かを思い出したかの様に「あっ」と声を上げた。
唐突に声を上げたレインにルーナは首を傾げながら理由を聞く。
「いやー、そういえば"アイツら"に餌あげてない…」
「あ!確かに"あの子達"のご飯を用意するの忘れていました!」
レインとルーナは盲点だった!と言わんばかりにあたふたしながらレインのナップサックに入っていた中に何も入っていない鳥籠と呼ぶには些かおおきな物を取り出し
「汝、我の目である。汝、我の足である。汝、我の翼である。血の盟約に誓いし黒き龍よ。その紅き眼で我の覇者への道を示せ。汝、我の声に耳を傾け、此処に顕現せんことを…。我、汝の真名を呼ばん。いでよ"クロガネ"!」
そう口にした。
すると鳥籠という名の"ナニカ"が黒く光る。そしてその扉から黒い霧が立ち込め、そこに紅い稲妻が奔る。
霧が晴れ、一際強い紅い稲妻が奔るとそこには紅く光る眼を持つ黒い鱗の小さな竜が存在していた。
『ふわぁ…』
その小さな黒い竜は優雅に欠伸をするとその目を主へと向け、小さくお辞儀をする。
『おはようございます、主。クロガネ、此処に顕現致しました』
頭に直接響き渡る幼い少年の声にレインは頷くとその頭を軽く撫でる。
「おー、おはよう。本来なら森を抜けるまでお前達を呼ぶつもりはなかったんだけど、今日お前達まだ飯食ってないだろ?それを思い出して呼び出したんだよ」
レインに頭を撫でられ気持ちよさそうにしていたクロガネは主の言葉に耳を傾けるとその場に小さく跪いた。
『それはそれは、有り難き幸せ。処で主?我が愚妹はまだ居ない様ですが?』
「ん?あぁ、まだ呼んでないよ。だってお前"あっち"から呼んだら怒るだろ?」
クロガネは周囲を見渡し、本来居るはずの片割れがいないことを確認し、レインにその訳を聞く。
そんなクロガネの様子に苦笑いすると、レインは嘗ての過ちをクロガネに話す。
『当たり前でしょう。我は奴よりも上なのですから。奴が我よりも早く主の御尊顔を拝見するなど許せるはずもありません』
そんな当然の事のように片割れを見下すレインはまたも苦笑いするとルーナへと目配せをした。
それに応じたルーナもまた苦笑いをしていたのだがそんな事はクロガネの目には写っていなかった。
「汝、童の友なり。汝、童の護衛なり。汝、童の下僕なり。血の契約に誓いし白き龍よ。その蒼き眼で童に歯向かう愚かな虫螻を射殺せ。汝、童の声に耳を傾け、此処に顕現せんことを…。童、汝の真名を呼ばん。顕れなさい"シロガネ"!」
先程までの黒い霧が立ち込めていた鳥籠という名の"ナニカ"から今度は白い霧が立ち込める。そして同じ様に蒼い稲妻が奔り、一際強い稲妻が奔ると蒼い眼の小さな白蛇がそこに顕れた。
『うーん…』
クロガネと同じ様に欠伸をした蒼い眼の白蛇はルーナへと目を向け、これまた同じ様に小さくお辞儀した。
『おはようございますわ、主様。シロガネ、此処に参上致しましたわ』
まだ年端も行かない少女の声に反する口調で返答した声もまた直接頭に響き渡る。
ルーナはその白蛇、シロガネを掌に乗せると、その体をゆっくりと優しく撫でる。
「ふふ、おはようクーちゃん」
ルーナは慈しむ様に優しく体を撫でながら答える。
シロガネも体をふにゃりと緩ませてルーナの掌で丸まった。
そんな穏やかな雰囲気を壊す声が―――
『ふん、漸く起きたか。姫様直々に起こされるとは随分な身分よのぉ?シロガネぇ?』
カチン―――
『あらあら、誰かと思えば私の愚弟じゃあありませんか。それに姫様は私の主なのです。主に起こして頂くのは何ら変な事ではありませんよ?』
カチン―――
『おい、誰が愚弟だって?そもそも我が何時お前如きの弟になったのだ。我の方が上だろうが!』
『はぁ?誰がお前の下のだって?そもそもお前如きが何故若様と契約しているのだ?私こそがお二人の護衛に相応しい!』
『あぁ?冗談も大概にしたまえ。我ほど護衛に向いた者がおるか。我こそがお二人の護衛に相応しい!』
『あぁ?』
『はぁ?』
止まることない罵りあいは苛烈を極め、二匹の喧嘩が始まった。レインの足下にいたクロガネはルーナの掌から降りたシロガネに向かって飛びかかりその尻尾に噛み付いた。対するシロガネも尻尾に噛みつかれようともものともせず、同じ様にクロガネの尻尾に噛み付いた。
二匹の龍が互いを飲み込まんとする様はある生き物を彷彿のさせ――
ビクリ!!!
「おい?お前ら?呼び出して早々何してんだ?何故お前らは何時もそうなるんだよ」
「ふふふ、まぁ、そういう生物ですからしょうがないのですけどね」
「まぁな?でも、こいつら一応俺らの使い魔をでしょ?なら俺達がしっかり管理しないと」
「ええ、そうですねぇ。では…」
「「お前ら(貴方達)、今日昼ごはんは無しだ(ね)!」」
『御二方、それはご勘弁をぉ…』
『そ、それは酷すぎませんかね?』
その龍は互いを飲み込まんと互いを食らう。
その龍は輪廻を司り"二体"で"一体"。
その龍は時と空間を司りし幻獣。
その龍は畏怖と信仰を人々から集められ、神として崇め奉られている。
その龍の名は双尾之龍。『尾を飲み込む者』という渾名を持つ、『憤怒』と『傲慢』の眷属。
彼らに課せられた使命は一つ。
主を護ること。
今日も彼らは主の護衛を全うせんと顕現した。
さて、今回から新章スタートですよ!
新たな仲間クロガネとシロガネを加え、レインとルーナの旅が始まります。
活動報告の方にクロガネとシロガネのSSを載せましたのでもし、よろしければ其方も御覧になってください。
やっぱり、一人称書くの楽しいなー。




