15話 七つの首
「「――っ!!」」
レインとルーナが振り向くとそこにはシアと同じ黒と白の混ざり合う御髪を携えた女性が立っていた。
シアと同じ白と黒の髪を肩の上で切りそろえ、シアと同じだが、黒と白の比率の真逆の着物を着た女性。
その姿は大体19、20程に見えるがその雰囲気には何処か幼さが残っており、まるで彫刻の様に端正な顔には愛嬌を感じる可愛らしさがあった。
そして極め付きはシアよりも更に豊満な胸。
そう、それはまるでシアを少し幼くした様で―――
レインは立ち上がると同時に傍に置いてあった木刀を握りしめるとその切先を女へと向ける。
その傍らに居るルーナも右手を女へと向け何時でも魔法を打てるように牽制している。
そんな警戒心と殺気を向けられる女はそんなことは気にもせず二人に向かって優しげに微笑みながら口を開く。
「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。二人は私にとって甥と姪みたいなものなのだから」
そう口にするとレインとルーナの後ろで頭を抱えているシアに向かってジト目を向けると高圧的に睨みを効かせる。
「「くっ!!」」
それは決して自分達ではなく後ろのシアに向けられていると分かっていても体が固まり、喉が渇く――
恐怖で思考が停止しかける――
そんな二人の様子を見かねてかシアはその女に向けてバツの悪そうに声をかけた。
「それ以上睨まないでよ、"クリスタ"。二人が苦しそうだからさぁ」
その言葉に女は更に視線を強くするもシアの言葉に従うとレインとルーナにとって信じられない事を口にした。
「元はといえばそっちのせいでしょ?お姉ちゃん?」
「「え!!??」」
思いもよらぬ事を口にした女とシアをキョロキョロと見比べると今度は互いを見つめ目を見開くレインとルーナ。
そんなレインとルーナの様子に微笑すると、女は二人に向かい合い、軽くお辞儀をすると自身の正体を明かした。
「初めまして。レインくん。ルーナちゃん。私はクリスタ。君たちのお母さんの妹だよ」
――――それが二人とクリスタとの出会いだった。
◇◇◇
「さて、何処から説明しようか」
突如現れたシアの妹を名乗る女。クリスタが話の口火を切る。
「それよりもどうしてここが分かったのよ」
それを遮るようにして、シアは鬱陶しそうにクリスタを見やる。
そんな視線を何処吹く風と受け流しながら、クリスタはシアなど見もせず先程からじっとこちらに視線を送っているレインとルーナに視線を送りながら質問の返答を待つ。
その視線に気づきレインとルーナは互いを見やると二人で頷き、何を聞くかレインが話した。
「取り敢えず、クリスタさんがここに来た理由を教えてよ」
レインがクリスタがここに来た理由を聞こうとするとクリスタは眉をぴくりと動かすと、微笑しながらレインの返答に答える。
「クリスタさんは止めてよ。私は君たちの叔母にあたるんだからさ。そんな他人行儀なのは悲しいな」
そんな言葉にレインとルーナは再び互いを見やるとくしゃりと顔を崩して笑うと笑顔をクリスタに向ける。
「うん、じゃあ、"クリス姉"って呼ばせてもらうよ」
「よろしくお願いします、"クリスお姉さま"」
美少年と美少女の笑顔。そして自分の事を愛称で呼ばれる感覚。更にその美少年達は自らの甥と姪。
その3コンボをくらったクリスタは顔を恍惚に染め、その母親である自らの姉に向けてへにゃへにゃとだらしなく緩めた顔を向けた。
「ね、ねぇ、お姉ちゃん。私今物凄くお姉ちゃんの妹でよかったと思ってるよ」
自分の自慢の子供達を褒められたシアは得意気にクリスタへ顔を向けると、目の前の子供達に抱き着いた。
「ふふふ、そうでしょう!なんて言ったって私の自慢の子供達ですから!」
そんな姉の自慢気な顔に少しムッとするとクリスタは目の前の二人に急に抱き着いた。
!!!!!
「「く、苦しい…」」
突如前後から抱きしめられたレインとルーナは二人の豊満な胸の圧で息が止められる。
そんな様子も気が付かない駄目な大人二人は目の前の『息子と娘』『甥と姪』という名の愛玩動物に夢中のようだった。
その二人にいい加減うざったくなったレインが風魔法で二人を吹き飛ばすまでそれは続いたのであった。
◇◇◇
「いや、取り乱して済まないね。レインくん、ルーナちゃん」
レインに吹き飛ばされて頭が冷えたクリスタはまるで悪びれていない様にレインとルーナに謝罪の言葉を言った。
「本当にそう思ってるのか怪しいけど…。兎に角早く説明してよ。クリス姉がここに来た理由と母さんの位階について」
いい加減進まないと思ったレインは強引に話を切り出した。
そんなレインに少し申し訳無く思いながらクリスタは自身がここに来た理由を話した。
「まず、私がここに来た理由はお姉ちゃんを探しに来たからなんだ。お姉ちゃんは二百年前の内輪揉めに嫌気がさしたのか今までの二百年ずっと行方をくらましてたんだ。
とうとうそれに心配した神龍様がお姉ちゃんを探す使者を私達龍の住む『龍の里』から送り出したの。それが私。それから私はお姉ちゃんを探し回った。でも、流石お姉ちゃん。全然見つける事はできなかったよ。
それで、たまたまこの『アルクールの森』付近に来ていた時に感じたの。お姉ちゃんの魔力をね。しかも、かなり強く。そして確信したわ。ここにお姉ちゃんがいるって。それで、この森を彷徨ってこのお家を見つけたって訳だよ」
クリスタはここに来た理由を三人に明かした。
しかし、レインには一つ気になった事があった。
「ねぇ、クリス姉。どうしてこの家に母さんがいるって思ったの?」
――何故無条件にシアがこの家にいると確信したのか
しかしそれは、至ってシンプルな理由だった。
「どうしても何も、この家中にお姉ちゃんの魔力が溢れてたからだよ。きっとお姉ちゃんがこの家自体に結界魔法を貼ったんだろうね」
まんまと気づかれたシアは少し残念そうにクリスタを見た。
「相変わらず、魔力感知が得意ね…。まぁ、貴方は魔力感知や気配感知とか斥候の役割のために生み出されたのだから当然と言えば当然なんだろうけどね」
「ふふ、まぁね。そう言うお姉ちゃんは相変わらずふざけた魔力量だね。流石私達の特攻隊長なだけあるよ」
二人の会話から何か違和感を感じ取ったルーナはその違和感の正体を探るべくクリスタに核心をつく質問をした。
「あの、クリスお姉さま。私達って事はお母さまとお姉さまの他にもご兄妹がいるのですか?」
その質問を聞いたクリスタは満足げに核心をついたルーナに優しく微笑みを送った。
「ふふ、目ざといね、ルーナちゃん。そう私達には他にも兄妹がいるよ。そう、それこそ貴方達のお母さんの位階を示すものでもある――」
そこで言葉を切ったクリスタは一度シアのことを見る。
シアは困った様な顔を一瞬した後、クリスタに笑みを見せた。それを肯定と判断したクリスタは二人の甥と姪に自身達の正体を明かした。
「――私達は七人兄弟姉妹七つで一つの頭。私達は神龍様に生み出されし七つの首。私とお姉ちゃんは『七つの首』なんだ」
「あー、やっぱりそっかー」
クリスタが二人を驚かせようと貯めに貯めて言った言葉に一人は納得しもう一人は苦笑いを浮かべ反応した。
「あ、あれ?以外に反応が薄い?」
思ったよりもかなり薄い反応で言った本人であるクリスタが戸惑う始末。
そんな様子を予め予想していたシアはルーナと同じように苦笑いを浮かべるとレインに自身たちの正体を見破った理由を聞いた。
「えっと、まず一つは母さんが少なからずとも古龍以上だろうと思っていたから。母さんの常識外れさは俺達が一番よく知ってるから。話に聞いた大龍よりは上という確信はあったんだ。模擬戦の時に感じた母さんの力は正しく龍そのものだったしね。
そしてもう一つはクリス姉に睨まれた時に感じた威圧感。あんなの初めてだった。体が動かなくて、一歩でも動いたら死ぬっていう程の殺気を感じた。恐怖ってこれの事を言うんだって初めて思った。
それで確信に変わったよ。
これはきっと古龍以上だって」
レインの目はシアが幼い頃から鍛えてきた。その洞察力はあらゆる感知魔法よりも鋭敏でその観察眼はあらゆる動きを感知する。そしてレインの生まれ持った才能であるその優れた情報処理能力ははそれらの情報を全て巧みに整理し、処理する。
その能力の片鱗を見たクリスタは冷や汗をかきながらその少年を育て上げた姉を見、苦笑まぎれに口を開いた。
「二百年間行方をくらませて一体何をしていたかと思ったらまさか、こんな少年を生み出していたとはね…」
クリスタの発言に苦笑すると、「育てたのは十年なんだけどね…」とこぼしながらシアは二人の子供達を見てから顔をクリスタに向け満足げに
「自慢の子供達だからね」
そう口にした。
そんな自慢の息子、レインはシアが『龍』だと知った時と同じ様な目でクリスタを見ると、興奮を抑えきれない様に詰め寄った。
「ところで、七つの首って他にはどんな人がいるの?誰が一番強いの?やっぱり母さん?それともクリス姉?それとも別の人?七つの首は皆強いんでしょ?ねぇ、どんな人がいるか教えてよ!!」
新たな玩具を見つけた年相応の子供のような反応を見せるレインにクリスタは圧倒されながらも元々話すつもりであったため、神龍が生みだした七匹の眷属『七つの首』についてレインの質問に細かく答えながら教えていった。
「そうだねぇ、まず一番強いのは多分お姉ちゃんなんじゃないかな?
私達七つの首は互いに役割が存在していたから誰が一番強いとか決めたことは無いけれど単体で最も敵を殲滅する能力のある者で言ったら間違いなくお姉ちゃんかな。
そもそも『七つの首』は神龍様が『龍』という種族に知性をもたす際に人間を構成する七つのマイナスの特性『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』を分散させて七体の眷属にする事によってそれらが互いに干渉し合う情報を元にそれと対のプラスの感情を生み出すために生み出された眷属なんだ。
そして私達が干渉しあった末に生まれたプラスの特性とマイナスの特性を入れた眷属。それが『龍』って事。
まぁ、だから私達は正確には『龍』とは呼ばないんだ。今はプラスの特性も持ってるけど昔はそれぞれの特性しか持ってなかったから『龍』とは呼べなかった訳だね。今は『龍』と呼べる存在になれているけど。
そして、お姉ちゃんはこの七つの特性の中で最も強く最も攻撃的な『憤怒』。だからきっと私達の中では一番強いんじゃないかな。ちなみに私はこの中で最も狡猾な『傲慢』だよ」
「なるほど…。じゃあ、ほかの五人はどんな人なの?」
「えっと、『嫉妬』は私達七人の末っ子の妹アシス。『怠惰』は弟のエメラ。『強欲』は兄のジャスパー。『暴食』は兄のタンザ。最後に『色欲』は妹のモルガナ。
ちなみにタンザお兄ちゃん、シアお姉ちゃん、ジャスパーお兄ちゃん、私、モルガナ、エメラ、アシスの順番だよ。
全員の性格をざっくり言うと食いしん坊、天真爛漫、捻くれ者、しっかり者、変態、面倒くさがり、引っ込み思案みたいな感じかな?」
「ちょっと、自分でしっかり者とか言うんじゃ無いわよ。それに私は天真爛漫なんかじゃありませーん。もっと知的で可憐な乙女ですぅー」
「さて、説明はこれくらいで良いかな?」
「うん、ありがとう。クリス姉」
「おーい、無視するなー」
クリスタによるレインとの質疑応答が終わり漸く四人の間にゆったりとした空気が流れ始めた頃、シアはクリスタに声をかけた。
「ねぇ、クリスタ」
「ん?何?」
「貴方、これからどうするつもりなの?」
「えっ?勿論ここに住むけど」
「「「えっ!?」」」
三人から驚愕の声が上がる。
しかし、当のクリスタは寧ろ疑問を頭に浮かべ三人に声を返した。
「えっ?逆にどうすると思ってたの?」
「それは勿論、神龍様に言われて探しに来たのだから里に戻るのかなって」
そう、クリスタは神龍にシアを探すように言われここに来たのだ。故にシアを見つけたのなら報告に行くのが当たり前だ。しかし、クリスタはそんな尤もな答えを否定しここに住むと言ってきたのだ。シアにはその理由が分からなかった。
「えっ?だってこんな可愛い甥と姪がいるのだから里になんか帰れる訳ないじゃない」
自分の思いもしなかった返答にシアは頭を抱える事になった。
そんな訳でレイン達家族に新たな家族が加わるのであった。
次回で序章最終話になります!
本当はこんなに長くするつもりじゃなかったのですが書きたいことが多すぎてこんなに長くなってしまいました…。
ちなみに七つの首は全員宝石がモチーフになっています。
・タンザ
モチーフ タンザナイト(灰簾石)
・シア
モチーフ オブシディアン(黒曜石)
・ジャスパー
モチーフ ジャスパー(碧石)
・クリスタ
モチーフ クリスタル(水晶)
・モルガナ
モチーフ モルガナイト(緑柱石)
・エメラ
モチーフ エメラルド(翠玉)
・アシス
モチーフ アメシスト(紫水晶)




