13話 母の秘密
第9話について今回の話との辻褄合わせの為一部変更させていただきました。
「二人に話があるの」
朝、レインとルーナが同じ部屋で目を覚ますと部屋に入ってきたシアからそう告げられた。
朝早くから何だろうかと思考を巡らせたレインとルーナであったが二人へと向けるシアの真剣な眼差しから薄々感ずいていた自分たちの出生についての話だと理解した二人はベットから起き上がると着替えもせずリビングへと向かった――
――リビングへと向かうとそこにはいつもの白と黒の着物に身を包んだシアがソファへと腰をかけてこちらが座るのを目で促していた。
「さて、朝からごめんね」
「いや、気にする事はないよ」
「はい、大事な話の様ですしね」
二人の返事を聞いたシアはゆっくりと息を吸うと意を決した様に口を開いた。
「朝から呼んだのは他でもない貴方達についての話よ。薄々感ずいていたと思うけど貴方達は私の本当の子供じゃないの。
私が貴方達を拾ったのはそれぞれ十年前と八年前。私がこの森に住むようになってから三年が経ったある日。その日は豪雨で森の木々がいつもより騒がしかった。何となく森の中をふらついていた時、人間の赤子の泣く声を聞いたの。私はその泣き声を頼りにそこへと向かった。あの時は本当に気まぐれに行っただけだった。そこは森の中腹あたりで人間が立ち入るのは危険過ぎてほぼ不可能の場所だったの。だからそこで赤子を見つけた時どうしてこんな場所に?と思ったわ。
でも、所詮人間の赤子。私には関係なかったからそのままその子をそこに置いていこうと思ったの。今なら絶対考えられないけどね。でも、いざそこを立ち去ろうと思ったら何故か体が動かなくて。後ろを振り返ると先程まで泣きじゃくっていた赤子がピタリと泣き止み、私の事をじっと見つめてたの。その目に何故か逆らえなくてね…。その子を抱えて私は家に帰ったわ。
それがレイン。貴方との出会いだったわ。それから二年間はレインの世話をして過ごした。大変だったけど毎日がそれまでの人生の中で一番楽しかった。そして二年後。レインを寝つかせた私は夜風に当たりたくなって森に出かけたの。その日は雨上がりで空が澄み渡っていて月がとっても綺麗だったわ。私が何となく空を見上げていたその時。二年前と同じように赤子の泣き声が聞こえた。声のする方へ向かうとまた人間の赤子がいたの。
それも二年前、レインを拾ったのと同じ場所に。その時私は運命を感じたわ。そしてそのままその子を抱えて家に帰った。こうしてルーナも私の子になったの。
これが貴方達二人との出会いよ」
二人の目をしっかりと見据えたままシアは二人との出会いについて語った。
「そっか、やっぱり俺達は母さんの本当の子じゃ無かったんだね」
「……気づいてたのね」
「うん、まぁね」
「そう……」
レインの反応に納得しつつも顔を曇らせたシアは少しばかり逡巡すると震える口をゆっくりと開きレインとルーナに向きながらも目を合わせることなく――
――「真実を知った今、貴方達は私の事をどう思うの?」
そう一言口にした。
自分でも思いもせず口にした言葉に思わずハッとしたシアは気まずそうに目を逸らす。
しかし、シアの目を正視し、その視線にシアが気づき自身と目を合わせたことを確認したレインは隣のルーナに目配せをするとシアの鬱屈とした発言を叱咤する様に少しばかり怒気を含ませながら言葉を返した。
「はぁ、そんな事で俺達が母さんのことを嫌いになるとでも思ったならそれが一番の俺たちへの侮辱だよ」
「ッッ!! っで、でも、私、貴方達の本当の母親じゃないのよ!?それを十年間も黙っておいて何母親面してんだとか思わないの!?」
シアは今、この時まで隠し通してきた事に対する自身への自責の念と伝えてあげる事の出来なかった罪悪感などの負の感情を全てぶちまける様に捲し立てながら言葉を発する。
まるで責め立てる様に言葉を募らせるシアは再びハッとすると意気消沈しゆっくりと口を閉じた。
それもそうだろう。それは本来自身へレインとルーナから送られるはずの言葉と悪意なのだから。それをその本人達に向けるのはお門違いもいい所だ。
しかし、その本人達はそんな感情を微塵も感じていないかのようにシアの言葉を黙って聞いていた。寧ろそこまで彼女を苦しめていた事に気づけなかった自分達を責める様に苦虫を噛み潰したような表情をしている二人も見てシアはポタポタと涙を零した。
「なんで…。なんで貴方達は私を責めないの…。どうして…。貴方達は悪くないのに…。悪いのは全て私なのに…。どうして…。どうして私を責めてくれないの!?」
今まで塞き止められていた『なにか』が噴き出すかのように。
シアはポタポタと涙を零し続けた。
そんな母親を左右から抱きしめたレインとルーナは優しくその小さな手でシアの頭を撫でた。
その手はとても優しくそして暖かく、シアの刺々しい心を包み込む様だった。
そんな二人の手の温もりで自らの凍えきった心が溶かされていくのを感じ、シアは涙で赤みがかった目を二人へと向けた。
そこには優しげに笑うシアの愛する子供達の姿があった。
シアの顔が自分に向いたのを確認したレインは優しく語りかけるように口を開いた。
「俺達が母さんのことを嫌っている訳ないよ。だって、母さんは母さんなんだから。どんな事があってもそれは変わらないよ。それにもし、あの時母さんに拾われていなかったら俺は死んでいたかもしれないしルーナに会えなかったかもしれない。
そんなのは絶対嫌だもん。だからね、母さん。あんまり自分を責めないであげて?」
「ッッ!!」
「そうですよ、お母さま。ルーナはお母さまの子供で本当によかったって思ってるんです。それなのにお母さまがそんな風に思っていたらルーナは…。とっても悲しいです。お母さまはルーナのお母さまです!何があっても!それだけは知っていてください!!」
「ッッッッ!!!!」
愛する我が子の言葉はシアの心に確かに火を灯した。
その火はゆっくりとシアの心に溶け込みやがて…
大きな炎と成ってシアの心に光を生んだ。
(あぁ、この子達は本当に私の事を母親と認めてくれるのね…。こんなにも罪深い私の事を…。なら、その期待に応えなくてはね…。だって。私は――)
「私は貴方達のお母さんだものね!!」
そう口にしたシアの顔はなんとも晴れやかで一輪の花の様であった。
◇◇◇
「ふぅ、取り乱してごめんなさいね。二人共」
シアがレインとルーナの生い立ちを話し始め、泣き出してから約三十分。 ようやく泣き止んだシアは恥ずかしそうにはにかみながらレインとルーナに声を掛ける。
その様子をずっと見ていた二人はようやくいつものシアに戻った事に安堵し、シアの体から自分達の体を離す。 そしてシアの方に向き直るとレインは今の今まで気になっていた疑問をシアにぶつける。
「ううん、落ち着いたみたいでよかった。……ところで母さん」
「ん?何かしら?」
「模擬戦での『あれ』何だったの?」
レインの抱えていた疑問。
それは模擬戦でのシアの変貌についてだった。シアは模擬戦中に急激な変貌を遂げた。その変貌は凄まじいもので人がまるで『竜』になってしまったかのようだった。
半人半竜。正にそんな姿だった。『あれ』はなんだったのか?レインは目覚めてからそればかり考えていた。
レインの向ける瞳の奥に未知なる知識を求めるまるで獣のような獰猛さを感じ取ったシアは体をビクリと震わせるとその瞳をしっかりと見据え話し始めた。
「…そう、よね……。その事も話さないとね…。あれはね『龍化』と言うの。龍化とは体内を巡る保有魔力と同じ様にある種族のみの体中に宿る『龍因子』を魔力と融合させ、自身の魔力を龍因子の含んだ魔力『龍血』へと変化させる事によって自身の魔力の質の向上を図る力のことよ。
『龍化』すると自身の魔力への干渉率を比較的に向上させて体の硬質化や『本来の体』の一部を人型の状態で使うことが出来るようになるわ。しかし、いい事づくめなんかじゃなくて、龍化中は保有魔力を消費し続けるから魔力切れになりやすいし、気性も荒くなるの。こればっかりはどうしようもないわね。
そしてこの『龍化』を使用することの出来る種族。まぁ、『龍化』なんて言うのだからもう気づいているでしょうけど…。それこそ私の本当の種族……」
そこで一度言葉を切るとシアはレインに向けていた目をルーナへと写し、またレインへと戻すとはっきりとした声で続きを話した。
「『龍』よ」
………シアがそう口にしてから刹那。静寂が走る。空気が張り詰め、温度が低下する。肌を刺すような静けさが部屋中を巡る中、レインはカラカラと嬉しそうに笑いだした。
「ふふふっ、あはははは!!!」
シアの衝撃的な告白に愕然としていたルーナと自分の唯一話すつもりは無かった秘密を話し、レインとルーナの反応に緊張していたシアは急に笑いだした息子と兄にビクリとしたシアとルーナはなおも笑い続けるレインへとキョトンと首を傾げる。
「「どうしたの(ですか)?(レイン?)(お兄さま?)」」
そんな二人の疑問に笑い続けるレインはゆっくりと深呼吸をし息を整えると、口元に依然笑みを浮かべながら面白そうに口を開いた。
「だって、『龍』だよ!?伝説上の生き物の!?もう絶滅したのではと語られなくなった神話の生物だよ!?前々から母さんが只の人間じゃ無いとは感ずいていたけどそれがまさかの『龍』だったとは!!凄いよ!!凄すぎてもう…。笑えてくる!!」
自分の母親が自分たち人間をかつて滅ぼしかけたバケモノと知ったレインは嬉しさと喜びと驚きで胸を高鳴らせたのであった。
変更の件、ご迷惑をおかけしてすいません。また投稿が遅くなったことについても申し訳ないです…。投稿頑張ります…。




