11話 模擬戦終幕
『さて、種明かしもした所だし、そろそろ行くよ?』
そう言うと、レインは手にしていた木刀を地面へと突き刺した。
『ん?どうして剣を放したの?さっきの話だと貴方は剣を使うのではないの?』
先程の話ではレインの切り札は他者を自身へ投影する魔法。 ならばレインの目の前の自分を投影し、その自分の様に剣で戦うのではとシアは疑問に思った。
しかし、そんなシアの疑問とは裏腹にレインは剣を放した意図を語る。
『え?だって剣で戦ったら俺絶対母さんに勝てないじゃん。俺の中での剣の頂点は今の所母さんだから。もし、母さんになっても母さんには勝てないでしょ?だったら剣じゃなく別の土俵で戦わなきゃ駄目。だから、この魔法を使ったんだよ。剣じゃなくて魔法で母さんに勝つために』
そのレインの言葉にシアは疑問も覚える。
レインはあくまでもシアに勝とうとしているのだ。この模擬戦に於いて魔法を使ってはいけないというルールは無い。先程までシア達も使っていたのだ。だから、剣では敵わないと思ったから魔法で勝とうとしている事に納得はできる。
しかしだ。
シアの手には今二本の刀が握られている。
万物を切り裂く黒い刀身を持つ刀【黒嵐】。
そして、万物を飲み込む白い刀身を持つ刀【白海波】。
この二刀がある限り魔法はシアには効果がないのだ。
故に効果の無い魔法でレインが戦う意味をシアは理解出来なかった。
それを指摘されたレインはニヤリと厭らしく頬を釣り上げる。
『母さん。それはただの魔法ならでしょ?今俺がなってるのは俺の知りうる最高の魔法士。そいつの事は母さんもよく知ってる。だって今此処にいるのだから』
『!?ま、まさか…』
その言葉にシアはある少女に視線を向ける。この訓練所の隅でこちらの様子を伺っている少女に。
『そう、そのまさか。俺の知りうる最高の魔法士。それはルーナ。俺の大好きな妹だよ』
(不味いわね…)
その言葉にシアは背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
それはルーナの魔法の危険性をよく知っていたからだ。
ルーナに魔法を教えたのもシアでありその才能の事も重々承知だ。 そしてそれが桁外れな事も。
きっと彼女程の才能の人族が生まれてくるのは二百年に一度程だろう。
正に天才。現存する人物ではルーナを超える才能の持ち主はほぼいないと言っていいだろう。 そしてその才能の塊が今目の前にいるのだ。
レインがどんな魔法を使ってくるかは見当もつかないがどんな魔法であっても相当なものだろう。故にシアは表情には出さないものの内心では少しばかり焦りを感じていた。
『ふふ、まさかルーナとはね…。これは貴方達二人と戦ってるみたいね』
『俺も何とかこれを使わずに勝とうとしたんだけど出し惜しみは止めた。妹の力を借りてでも母さんに勝ちたくなっちゃったから』
そう言ってレインはいつもの人懐っこい笑顔を見せる。
そんなレインを見てシアもニコリと微笑んだ。
『いいわ、貴方の…いえ貴方達の力、見せて頂戴!』
『うん、行くよ。母さん』
レインの周りに魔力が集まり出す。
『はぁ!!』
それを感じたシアは大きく踏み込み、地を蹴る。そしてその勢いのまま、【黒嵐】と【白海波】の二刀で左右袈裟斬りを打ち込む。
しかし、それをレインに集まった魔力が魔法障壁となりガキンという硬質な音を立てて防ぐ。
『くっ、硬いわね』
必中の一撃を思わぬ手で防がれたシアは思わず悪態をつく。
しかし、防がれた反動を用い、距離を取り直したシアは更に地を蹴り加速すると、左右の二刀で何度もレインを切りつける。
二本の刀が黒い線と白い線を描きながらレインへと迫る。正に猛攻。レインの目を黒と白の剣筋で埋め尽くす。しかし、やはりその全てがレインの硬質な障壁により防がれてしまう。大きな横一文字斬りが薙ぎ払われた後、シアは再び弾かれた反動で距離を取ると煩わしい物を見る様にレインのことを睨む。
そして、ふぅと一息つくとレインのように魔力を自身の周りに集めだした。
『どうやら、私の【魔具】でもその障壁は破れないようね…。なら私も取っておきを出すことにするわ』
シアの黒い魔力が高まる。
そしてその魔力がシアの持つ二本の刀へと注がれる。魔力を注がれた二本の白と黒の刀はそれぞれの刃に浮かぶ波紋に紅い線が描かれていき、ドクドクと脈打つ。その姿は刀自身がまるで生きてるかのようで何とも言えぬ不気味さを感じる。
そんなシアの持つ二本の刀に訝しげな目を向けるとレインは集まった魔力を凝縮しながらシアに声をかける。
『母さんも次で決めるつもりって訳だね』
『ええ、じゃないと私がもたないし』
『そっか、じゃあ行くよ!!』
レインの両手の中の魔力が輝き出す。それは膨張、収縮を繰り返しとてつもない高密度の魔力の塊となり、その余波でレインの両手の皮膚は焼けついている。しかし、それを気にする事無くレインは魔力が限界まで集まるのをじっと堪える。そして魔力が限界まで集まり大きな閃光を上げたその時。
レインは魔力の塊を頭上に投げつけると同時にその魔法名を轟いた。
【月光雨!!!】
その瞬間魔力塊が破裂。そしてそれは小さな無数の魔力弾の雨となりシアの元へと降り注ぐ。
空から降り注ぐ光り輝くその魔力弾は正に月の光の雨。その雨粒一つ一つが高密度の魔力弾であり、その数凡そ数万。
自身の魔力を凝縮しながら集めることでその魔力は膨張と収縮を繰り返しながらそのエネルギーを蓄積させていく。それが限界まで達した時に破裂させ、そのエネルギーを小さな高密度の魔力の弾丸として打ち出す魔法。レインがルーナであるから使える二人の魔法。
これこそが本当の奥の手。レインが天才に追い付くために作り上げたレインだけの魔法。
【月光雨】。
眼前に広がる月光の雨を目の当たりにしたシアはその光景に思わず見蕩れていた。
(あぁ、なんて綺麗な魔法なの。こんな魔法はレインにしかできないわ。いえ、もし仮にレインの他に使える者がいたとしてもこの魔法を使おうとは思わないでしょうね。リスクを省みないレインだからこそ思いつき完成させた魔法。レインの最高傑作。だから。だからこそ…。今からこれを塗りつぶすのが本当に惜しまれるわね)
『【喰らえ】』
自身に降り注ぐ魔力弾の雨をしっかりと見据えたシアは不気味に脈打つ二本の刀を徐に振るう。
すると今正にシアに触れようとしていた魔力弾の一つがふっと消滅する。
『え?』
そして大きく振りかぶると神速の二刀を横薙ぎに振るった。
二本の刀から打ち出された赤黒い魔力波の剣撃は魔力の弾丸の雨を次々と消滅させていく。
辺り一面に広がっていた光り輝く月光の雨は赤黒い嵐の様な波によって全て飲み込まれてしまった。
その光景を唖然として見つめていたレインは高速で自身に接近する女性の姿を認識出来なかった。
腹部に感じる熱と痛み。
『………あれ?』
やっと目の前に目を向けると自分の腹に二本の刀を突き刺すシアの姿を見つけた。
『ごめんね、レイン』
そう一言発した母の少し辛そうな顔を見たところでレインの意識は深い眠りに落ちた。




