10話 裏技と悪魔の子
―― カチリ――――
機械的な音が鳴った様な気がしたシアは今、正に接触しようとしているレインに少し警戒をする。
しかし、当のレインに代わった様子は無く、杞憂だったかと警戒を解き次に放つ一手に神経を研ぎ澄ます。
(殺った!!)
シアの渾身の二刀がレインの首筋に差し掛かろうとしたその時―――
『母さん、まだ終わりじゃないよ』
シアの耳にレインの呟くような微かな声が聞こえた。
次の瞬間――――
レインの纏う魔力が爆発的に上昇。
大気を揺らす程の圧力を持ったそれは爆発というエネルギーを生み出し、肉薄していたシアを後方へと吹き飛ばす。 そしてそのエネルギーは留まることを知らず、熱エネルギーへと変換され、レインの周りの大地をガラス化させる程の猛炎を生み出す。
爆風と熱気がほとぼりを収めると、その爆心地に佇む少年が一人……
『ふぅ、何とか成功したかな?』
『!?!? 貴方、その姿は!?』
そこにいたのは自身のトレンドマークである黒髪の中に混ざり合う様に栄える白髪を爆風で靡かせ、愛刀である木刀を握りしめたレインであった。
『いやー、成功してよかったー。まだこの魔法完成してないんだよねー。本当にぶっつけ本番だったけど出来て良かった』
黒眼と翡翠の眼の左右非対称の双眸で自身の体を観察するレインはあっけらかんとそのような事を呟く。
『レ、レイン。その姿は一体何なの? 魔法と言っていたけどそれは魔法によるものなのかしら?』
その姿を目を白黒させながら見ていたシアは突如起こった異変について説明を求めた。
それもそのはずだろう。レインはシアが十年前に拾った黒髪と黒眼の双眸を持つ少年なのだ。 今目の前にいる黒髪と白髪の混ざりあった頭髪は以ての外、翡翠色の瞳をしたレインなどシアは知りもしない。シアは自分の息子の変化についていけていなかった。
そんなシアの様子を見たレインは苦笑し、この魔法について解説を始める。
『これは俺の切り札。まだ名前も決まってないけどコンセプトは母さんだよ』
『コンセプトが私ってどういう事かしら?』
レインの切り札。
それは簡単に言うと他者を自身へ投影するというものだ。
レインは剣術や体術、そして魔法にも長けていた。それ故、自身の欠点にいち早く理解していた。
世の中は広い。故に剣には剣の、魔法には魔法の専門家がいるのだ。 その事にレインは気づいていた。 何故なら自分の妹がそうだからだ。
レインは天才である。剣術と魔法。普通では相容れぬ二つの武術。その二つに精通し、卓越した才能をもったレインは天才であろう。それは歴然たる事実だ。
しかし、レインの妹。ルーナもまた天才であった。
そして、天才であるそのレインですら妹のルーナに魔法では凡そ埋まることのない差がある。
それは何故か―――
その理由はレインが剣にも長けていたからだ。
何事も一つの事を極限まで極めた者はその分野において比類のない力を発揮する。そしてそのような者は必ず持っているものがある。 それがその分野だけにおける才能だ。故に多才な者ほど一つの分野でその境地に立つことは難しいのだ。
その事にレインはルーナがシアに魔法を教わり始めた頃に気づいた。 (そのルーナがシアに魔法を教わり始めた頃とはレインがまだ七歳程の時であったため、その年でその事に気づいたレインはやはり天才なのであろう)。
そしてそれはレインにとって初めてぶつかる壁であった。
(才能の差。それは如何なる努力をしたところで埋まることのないもの。それこそが才能だ。ならばこの差を無くすにはどうしたらいい?どうすればこの差を。どうしたら俺は天才に近づく事が出来る?)
そこでレインが編み出した解決策。凡人が天才を打ち負かす為の手段。
それこそがこの魔法他者を自身へ投影する魔法なのだ。
そしてレインはこの魔法を作る際ある人物にスポットを当てた。
それこそがシア。自分と妹の母親。そして自分と妹の剣と魔法の師匠だ。 レインはシアにもまた天才である才能の片鱗を見ていた。しかし、そこで不思議な事を見つけたのだ。それはシアには剣も魔法の才能も無いという所だった。
シアは自分と妹の剣と魔法の師匠だ。レインとルーナの剣術や魔法は全てシアから教えて貰ったものだ。故にレインはシアには剣と魔法の才能があると思っていた。しかし、レインが七歳程の頃。この魔法を作ろうと決意した頃、ふと気がついたのだ。
シアには剣術も魔法の才能も無い事に。
では何故剣も魔法も才能が無いのに天才であるルーナよりも高威力の魔法を出せるのか。 それは経験とちょっとした裏技によるものだ。その裏技とは一つの分野に特化するというものだ。
シアは天才だ。彼女の種族の中で彼女程優れた者はいないだろう。
しかし、それは彼女の種族の中での話だ。 レインやルーナの様に人族にとっての才能とは武術や学力におけるものだ。剣術や魔法技術、体術に格闘術や学習能力。
では何故シアは天才と呼ばれるのか。
それは彼女が類まれなるセンスと常人離れした頭脳の持ち主だったからだ。
剣術、魔法、体術に古武術まで。 シアはあらゆる武術に関する圧倒的なセンスを持っていた。 それによりどの分野においてもその極地に踏み込もうとする程それらを極めていた。
しかし、シアの才能はあくまでセンスだ。それだけでは新の天才らと同じ極地に至る事は不可能だった。
そこでシアは考えついたのが多を捨て一に固執する事だ。
そしてそれをシアはその常人離れした頭脳により成功させたのだ。
それこそが裏技。
レインがシアから見つけた凡人が天才に近づく方法
。
故にコンセプトはシアなのだ。
そしてその裏技の原理は一つの事に特化する為に他を全て切り捨てるというものだ。
そう、レインやシアが天才に慣れないのはルーナ程魔法に特化してないから。
ならば自分がそうなればいい。
自分の魔法を極地に至らせるには不要なものを切り捨てればいい。
自身から全ての不純物を無くしただ一つの事に固執する。
それが自分に出来ないなら他人を真似すればいい。
『と。まぁ、こんな感じの魔法だよ』
『…………』
シアはレインの話したその魔法についてを聞き、戦慄した。
それはレインがそれ程までの魔法を作り出した事にではない。 その程度の魔法などレインにかかれば作り出す事など可能だということはシアは知っていたから。
故にシアはこの事にレインが辿り着いたことに戦慄したのだ。 何故ならシアはこの裏技に気づくまでに約二百年費やしたのだ。
それに約7年で辿り着いたその頭脳にシアは戦慄した。
(この子の頭はどうなっているの?それこそ天才じゃな…、いや天才なんてものじゃない… この子は。
この子のその頭脳は正しく…)
『悪魔ね…』
『悪魔?俺、人間だよ?』
母親の唐突な言葉にレインは首を傾げる。
しかし、シアの放った言葉もあながち間違いではない。
常人では到底考えもしない常軌を逸した考えとそれを成せる能力の高さ。
それは天才なんていう人間の枠組みを超越した頭脳。
それは正しく悪魔的なまでの才能だ。
レインは天才をも超えていたのだ。




