46話 帰宅
今回もお楽しみください。
村へ戻ってきた頃には、もうすっかり夜も更けていた。
家々の明かりは落ち、辺りは静まり返っている。
「……思ったより遅くなったな」
本当なら、セラやコリンズたちにもすぐ謝りに行くつもりだったが、この時間だ。
流石に起こすのも悪い。
「明日にするか?」
「そうしようかしら……あ」
ノエルが、小さく声を漏らす。
すると視線の先。
村の入り口近くに、小柄な人影が立っていた。
銀色の髪が、月明かりに照らされている。
「……セラ?」
「えへへ、おかえり♪」
まるで、ずっと帰り待っていたみたいに、セラは当たり前のように笑っていた。
「な、なんでここにいるんだよ!?」
「んー……なんか帰ってくる気がしたから?」
「なんだそれ」
適当すぎる。
けど冒険者時代、似たような話はよく聞いた。
強い白魔法に長けた者は、繋がりのある相手の気配を無意識に感じ取ることがある——とかなんとか。
一方で、俺みたいな前衛役は、相手の殺気や闘気に敏感な節があるという豆知識。
まぁ、本人は絶対そこまで理解してなさそうだが、恐らくそうなのだと思う。
「ノエル?」
すっと、ノエルが前に出る。
彼女は少し俯いたまま、ぎゅっと拳を握っていた。
「……私は」
小さく、声を震わせる。
「私は、ライルが好きなの。昔から、ずっと好きだった」
夜の静けさの中、その言葉だけが妙にはっきり響いた。
セラは目を丸くしている。
「だから……セラに嫉妬して、勝手に逃げた……心配かけたと思う。だから、その……ごめんなさい」
上手くまとまっているわけじゃない。
途中で言葉に詰まりそうにもなっていた。
それでもちゃんと、自分の言葉で伝えようとしている彼女に対し、セラは優しく目を細めた。
「……ノエルちゃん、ありがと」
「え……?」
「ちゃんと言ってくれて、嬉しい」
セラは、ふわりと笑った。
「私もライルくんのこと好きだよ?」
「さらっと、とんでもないことを言うな?」
「あはは、でもさ、このまま流れでライルくんを取っちゃうの、なんか嫌だったから」
そう言って、ノエルの手を取る。
「ノエルちゃんがちゃんと気持ち言ってくれて、安心した」
ノエルは、少し驚いたようにセラを見ていた。
けれど、その表情はどこか安心しているようにも見える。
「……セラ、ありがと」
小さな声だった。
でも、ちゃんと届いていた。
その空気を見て、俺も少しだけ肩の力が抜けると思ったのだが
「それで? ライルくんはどうなの?」
セラがこちらを見る。真っ直ぐな目だった。
「ノエルちゃんのこと、好き?」
逃げるな。
そう言われてる気がした。背中も押されている気がした。
だから、俺は息を吐いて。
「好きだよ」
ちゃんと、口にした。
その理由も今は明確だ。
「ノエルを追いかけた理由なんて、それだけで十分だった」
ノエルが息を呑む。
緊張していることが伝わってくる。
「それに……セラ、お前が背中押してくれたの、すげぇ嬉しかった」
セラは寂しそうに笑った。
まるで負けが決まった相手のように……ってあれ?
「……そっか。じゃあ、決まりだね——」
ん、なに勝手に結論付けようとしてるんだ?
「いや、待て」
「えっ?」
なんか話が終わりそうな空気になっていたので、慌てて止める。
きょとんとするセラの両肩を、俺は思わず掴んだ。
「俺は、お前も好きだからな」
「え、えっ、えぇぇっ!?」
不意を突かれたセラが驚いている。
あ、マズイ。言い方や順序を間違えたかもしれない。
「……は?」
当然のごとく、ノエルの声が低く、怖い。
空気が固まっていたが、俺は言わずにはいられなかった。
「いやだって、お前普段から距離近いし、あんなことされてたら意識するだろ普通!」
「え、えっ……」
セラが珍しく困惑している。
「内心ずっと緊張してたんだよ俺は!」
「はぁっ!?」
次の瞬間、ノエルに胸倉を掴まれ揺さぶられる。
「い、今更なに言ってんのよアンタっ!?」
「ぐ、ぐえぇ……っ」
「場所をわきまえなさいよ! っていうか、さっき私に言った好きは嘘だったの!?」
「う、嘘じゃない! でも、どっちか選べって言われても無理なんだよ!」
「最低……!」
即答すると、ノエルが本気で引いていた。
すると、セラが恐る恐る尋ねてくる。
「えっと……それって、友達として好きってこと?」
「違う!」
これも即答だった。
「二人とも目の前にいるとドキドキするし、一緒にいたいって思ってる!」
「じゃあ何が足りないって言うのよ!」
ノエルが怒鳴る。
拳が飛んできそうで怖い。
「お前たちが足りないわけじゃない!」
俺も思わず声を張り返していた。
「俺がまだ迷ってるんだよ!」
夜の村に、俺の真面目な声が響く。
「このまま中途半端なまま選んだら、絶対後悔する。お前たちのことも、不幸にするかもしれない。それが嫌なんだよ!」
「……」
沈黙、そして。
「「……はぁ」」
二人同時にため息をついた。
「ライルくん、さいてー……」
「ほんと見損なったわ……」
「うっ……分かってる、自分でも面倒くさいこと言ってるのは分かってる。でも……俺さ、ここに帰ってきて、居場所があるって思えたんだよ」
俺は視線を落とす。
二人は黙って俺の話を聞いてくれていた。
「未だに、自分がこれからどうしたいのか、ちゃんと見えてない。冒険者を辞めて帰ってきたくせに、まだ迷ってる」
情けない話だ。
でも、それが本音だった。
「だから……少しだけ時間が欲しい、ちゃんと決める時間を」
そう言い切ると。
二人とも、ぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「……そっか」
先に口を開いたのは、ノエルだった。
どこか納得したような声だった。
「じゃあさ」
そして、セラがにこっと笑う。
その笑顔に、嫌な予感しかしなかった。
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長らく更新を止めてしまって申し訳ございません。
ようやくひと段落つき、執筆の余裕が出来たので、こちらの作品を完結させるまで頑張りたいと思います。
引き続きどうか、よろしくお願いします。
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