30話 目撃者
今回もお楽しみください。
朝日が差し込んできて、ゆっくりと目が覚めた。
昨夜の荒れ模様が嘘みたいに、外は静かだ。
風も止んでいるし、窓の向こうには澄んだ空が広がっている。
「ふぁぁ……終わったか」
小さく呟いて、体を起こす。
あれだけ鳴っていた風の音が消えているだけで、妙に落ち着く。
——と、そこで気づいた。
「……あれ、セラ?」
さっきまで確かにいたはずのセラの姿が、もうなかった。
布団だけが、ほんのり温かさを残している。
「早いな……いや、俺が寝坊したのか」
疲れが溜まっていたのか。
だったら、彼女の方が人一倍疲れていたような気がするのだが、まぁいいか。
頭をかきながら部屋を見回すと、テーブルの上に一枚の紙が置いてあった。
「なんだこれ?」
律儀に置き手紙をしていってくれた。
手に取って読む。
『おじいさんにバレちゃったら困るもんね。まぁ私は困らないけど♪』
「……おい」
思わずツッコミが出る。
だが、俺の考えを見透かされていたので否定はできない。
さらに続きにはこう書かれてあった。
『あと、神父さんにもちゃんと謝りに行ってきます!』
「……まあ、それはそうだよな」
昨日神父さんも心配していたので、その点だけは安心する。
あの人も今では両親代わりのようなモノだからな。
まぁ、これで俺が説明しに行かずに済んだか。
紙を置いて、ふっと息を吐く。
昔のセラなら、こんな勝手なことはしなかった。
もっと遠慮して、もっと大人しくて、誰かの顔色ばかり気にしていたはずだ。
……でも。
「今の方が、らしいよな」
ぽつりと呟く。
危なっかしいところは増えたかもしれない。
勝手に動くし、無茶もするし、からかってくるし。
それでも——
「……あいつはあいつだしな」
どっちがいいかなんて、考えるまでもない。
セラはセラでいい、それだけだ。
軽く伸びをして、立ち上がる。
「よーし!」
いつまでもぼーっとしてるわけにもいかない。
俺も外に出て仕事をしに行こう。
———————————————————
外に出ると、村はすでに動き始めていた。
倒れた木をどかしたり、屋根を直したり、飛ばされた物を拾い集めたり。
あちこちで人が動いている。
「嵐の被害、そこそこあるな」
見渡しながら呟く。
まぁ、俺の背中にデカい木が飛んできたくらいだからな、無事なわけがないか。
昨日の出来事を思い出したせいで、打撲後が少しだけ痛い。
だけど、冒険者やってた時に比べたら大したことはない。
そして、このまま通りを歩いていると聞きなれた声がした。
「あら、ライル」
振り向くと、いつもの上品な立ち姿でマリーがいた。
だがその手には、なぜか工具箱が抱えられている。
「おはようマリー。ところでお前、何してるんだ?」
「見ての通りですわ。復旧のお手伝いですの」
いやいや、そういう意味で言ってるんじゃないけどな。
マリーの後ろから、お手伝いさんが息を切らして追いかけてきているではないか。
「村の方々も大変そうでしたし、じっとしていられませんでしたの」
さらっと言う。
まったく、お嬢様が服まで汚して村の手伝いだなんて。
「……意外と行動派だな」
「失礼ですわね、困っている人を手伝うのは当然でしょう?」
ふふん、と胸を張る。
「それに、うちの旅館の方でもいつもお世話になっている方々を放っておくことなんて、私には出来ませんわ」
「なるほどな」
彼女はその義理を果たしに来ていたのだ。
納得して頷く。
「それでー……」
マリーが、じっとこちらを見る。
「昨夜は大変でしたわね?」
「まあな」
ヤケに神妙な面持ちで尋ねてくるが、軽く流そうとした。
だけど、核心を突いてくる。
「見てましたわよ」
「……は?」
俺に後ろめたいことがあるとすれば、アレしかない。
「早朝に、ライルの家からセラが出てきたの」
ぴくりと固まる。
わざと間を置いて、意味深なことまで告げるのだ。
「しかも、若い男性の服を着ておりましたわね?」
「そ、そうなんだな……」
「ドーソンさんは家には不在のようでしたし、何事でしょうか」
一瞬、思考が止まり、どう言い訳しようかと目を泳がせる。
だけど、下手な言い訳は通用しないと白状することに。
「いや、あれはだな……セラが嵐で帰れなくなって、仕方なく泊めただけで……」
「ふーん、そうですの?」
にやっとした笑み。
完全に分かっている顔だった。
「別に、変なことは何もないからな」
「ふふふ、仲が良いのは良いことですわよ?」
あっさり流される。
「まぁ、そういうことにしておいてあげますわ」
「しておいてあげますってなんだよ……」
なんとなく釈然としないが、懸念点が一つある。
「……誰かに言ったりしてないよな?」
「言ってませんわよ」
にこっと、綺麗な笑顔で返される。
「ふふ、そんな野暮なこと言うつもりはありませんわよ、安心しました?」
「……まあな」
正直、完全に安心したかと言われると微妙だ。
だってマリーにはバレているわけだし、何を想われているのか、これからどんなイジりを受けてしまうかを想像したくない。
「では、わたくしはこれで」
くるりと踵を返すマリー。
また仕事に戻るつもりなのだろう。
「ああ、気をつけろよ」
「ライルもですわよ」
そう言って去っていく。
マリーがこんなに精を出しているのだから、俺も村の為に色々しないとなと思わされた。
「——あ、でも」
小さく呟く声が、風に紛れて聞こえた。
振り向くと、マリーはすでにこちらを見ていない。
「……まあ、いいですわ」
何かを考えたように、ふっと微笑んでそのまま歩いていった。
「……なんだ、気のせいか?」
首を傾げながら、見送る。
なんとなく、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
嵐は過ぎたはずなのに、別の意味で、まだ落ち着かない気配が残っていた。
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