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28話 家に連れ込み

今回もお楽しみください。

 セラは何も言わないで、ただ、ぎゅっと俺の服を掴んだまま、俯いていた。


「おい……大丈夫か?」


 声をかけると、少しだけ肩が揺れる。


「……ごめん」


 ぽつりと、落ちるような声。


「なんで謝るんだよ」

「だって……また、ライルに迷惑かけちゃった……」


 言葉が続かない。

 そのまま、静かになってしまう。

 ……ああ、そうか。

 さっきの話、思い出したのか。


「……別にいいって」


 軽く頭をかく。

 きっと変に罪悪感が湧いてるんだろうなと思いながら。


「守ったのは俺の勝手だし」

「でも……」

「でもも何もない」


 少しだけ、わざとらしく肩をすくめる。


「むしろ、ちゃんと見てくれたか?」

「……え、なにを?」

「俺、ちゃんと盾になってただろ」


 にやっと笑ってみせる。


「昔みたいに転がって終わりじゃないぞ」

「……へ?」


 セラは一瞬、ぽかんとする。

 それから——


「……ふふ」


 小さく、可愛らしく笑った。


「なにそれ」

「いや、いい反応だろって」

「あはは……でも大ケガしてたらどうしてたの……」

「それは白魔導士セラちゃんの治癒魔法でだなー」

「くすっ……ざんねーん、もうMP切れでした。働きたくありません♪」


 そう言いながらも、少しだけ表情が戻ってきている。

 ……よし。


「とりあえず、帰るぞ」


 外を見やる。

 風はさっきよりも強くなってるし、ここに居続けるのはさすがにまずい。


「……うん、そうだね」


 セラも素直に頷いた。

 さっきみたいに意地を張る様子はない。

 手を差し出すと、少しだけためらってから、その手を取った。


「ほら、急ぐぞ」


 そのまま引いて、小屋を出る。

 ……とはいえ。


「教会、遠いな……」


 正直、この天気であそこまで行くのはきつい。

 足場も悪いし、セラも万全じゃないだろうし……。

 少し考えて——


「……うち来るか?」

「へ?」


 もしかして、引かれてないか?

 ……家に女の子を誘うなんて、下心を疑われそうだが状況が状況だ。

 でも、セラだしな。長年の付き合いのある異性だから、特別だ。


「このままだと風邪ひくだろ」


 ちょっと大胆過ぎただろうか、セラは少し驚いた顔をして。


「いいの?」

「ダメって言うと思うか?」

「……思わないかも」


 小さく笑う。


「じゃあ決まりだな」


 そう言って、手を差し出す。

 セラは一瞬だけためらってから——


「……うん」


 観念したようにその手を取った。

 ちゃんと冷たい手だ。

 本当に風邪をひいてしまうかもしれないなと、少し怖くて強めに握る。


「ほら、ちゃんと掴まってろ」

「うん」


 ぎゅっと握り返してくる。

 そのまま引くようにして歩き出した。

 行き先はちゃんと俺の家だが、下心はない。



 ———————————————



「……とりあえず入ってくれ」


 扉を開けて、中に押し込む。

 俺の家っていうか、正確にはじいさんの家だけど。

 今は俺しかいない。


「うわ、びしょびしょだな……」


 セラの様子を見て、思わず眉をひそめる。

 髪も服も完全に濡れていた。


「タオル……いや、その前にシャワー浴びてこい」

「えっ」

「そのまま拭いても意味ないだろ」

「た、確かに……」


 セラは少しだけ考えて。


「じゃあ、先にライルくんが——」

「いやいやお前だろ」


 即答だった。

 そんな遠慮をされると困るんだよな。風邪ひかれたら困るし。


「このままだと冷えるぞ」

「でも……」


 少しだけ、間を置いて。


「じゃあ……一緒に入る?」

「は?」


 思考が一瞬止まる。


「ほら、その方が早いし?」


 さらっと言うな。

 だけど、冗談のようにも見えない。もしかして本気か?


「いやいやいやいや」


 思わず手を振る。


「なに言ってんだお前」

「えー? ダメ?」


 首を傾げてくる。


「ダメに決まってるだろ!」

「はぁ……真面目だなぁ」

「そういう問題じゃない!」


 なんでこいつは平然としてるんだ。


「いいからお前が先に入れ!」


 軽く背中を押す。


「ほら、行け」


 すると、セラがくるっと振り返る。


「ふっふーん」


 なぜか、ちょっと悪い顔。


「じゃあ、女の子の匂いでも付けておきましょうかね~?」

「……はい?」


 一瞬、思考が止まる。


「な、何言ってんだお前」

「えー? だってほら、お風呂上がりっていい匂いするって言うじゃん?」

「知らん」

「えー絶対気になるくせに」

「ならん」

「ほんとに~?」


 にやにやと、セラはからかってくる。


「いいから早く入れ!!」


 思わず声が大きくなる。


「はーい♪」


 楽しそうに笑って、そのまま風呂場へ消えていった。

 ……ったく。


「調子戻るの早すぎだろ……」


 小さくため息をつく。

 でも。

 さっきみたいに黙り込まれるよりは、ずっといい。


「……はぁ」


 少し肩の力を抜いて、テーブルに目をやる。

 そこに、一枚の紙が置いてあった。


「……なんだこれ」


 手に取って、ざっと目を通す。

『嵐で帰れなくなりそうだから、今日は外で泊まる。飯は適当に食え。』


「……じいさんか」


 短い文章。

 らしいといえばらしい。


「何かあったのかね……」


 まあ、あの人のことだ。

 大抵のことじゃどうにもならんし、心配するだけ無駄か。

 そう思って、最後の一文に目をやる。


 『——別に女を家に上げても構わんぞ。』


 思わず吹き出した。


「ぐはっ……お、おい……」


 タイミング良すぎだろ。

 てか見透かしてるのか、あの人。


「どうしたの~?」


 後ろから声がして、びくっと肩が跳ねた。


「うわっ!?」


 反射的に振り向いて——思考が止まる。


「……は?」


 そこにいたのは、バスタオル一枚を体に巻いただけのセラだった。

 濡れた髪をもう一枚のタオルで拭きながら、きょとんと首をかしげている。


「なに見てたのー?」

「な、なんでもない!!」


 慌てて手紙を裏返す。

 というか、それどころじゃない。


「お前、なんでそんな格好で出てくるんだよ!」

「へ?」


 セラは自分の格好を見下ろして、少しだけ首を傾げた。


「だって、着る服なかったんだもん」

「いや、だからって……」


 もう少し現れ方や伝え方があるだろうに。

 健全な男子にとって、普通に心臓に悪い。


「ちゃんと隠れてるでしょ?」

「そういう問題じゃない」


 思わず顔を背ける。

 何かの拍子にバスタオルがめくれでもしたらどうする。

 視界の端に入るのも危険だ。


「……とにかく、そこで待ってろ」

「えー?」

「いいから!」


 強めに言い切って、急いで部屋に入る。

 適当に服を引っ張り出して、セラの元に戻ってきた。


「ほら、これ着ろ」

「ありがとー」


 セラはあっさり受け取って、そのまま脱衣所に引っ込んだ。

 扉が閉まる音。

 ……ようやく一息つく。


「……ほんと、勘弁してくれ」


 小さく呟く。

 数秒前までの光景が、やけに鮮明に残っている。


 ——いやいやいや。俺は変態か?

 一瞬セラの裸の姿を想像してしまった。

 あんなのに興奮してしまうなんて、とうとう俺はロリコンにでもなってしまったのか。


 ブンブンと首を振って追い払う。

 しばらくして。


「できたー」


 扉が開く音と一緒に、セラが戻ってきた。

 ……そして。


「……やっぱ、でかいな」

「でかいね」


 即答だった。

 ぶかぶかの服に包まれて、袖も丈も余っている。

 しかし、さっきの危ない格好よりはマシだが、これはこれで落ち着かない。


「どうー?」


 くるっと回る。


「似合ってるでしょ?♪」

「似合ってるかどうかは別だが……まあ、変ではないな」

「やった♪」


 なぜか嬉しそうにする。

 一体何が楽しいんだか分からない。


「……じゃあ俺も風呂入ってくる」

「はーい」


 軽く手を振るセラを横目に、風呂場へ向かう。

 さっきの一件で変なことを考える余地は完全に消えた。

 幸か不幸か、じいさんの手紙とあの登場のせいで、“女の子の匂い”なんて意識する暇もなく、俺はそのままさっさと身体を流すことになった。


面白い、続きが見たい!思った方は評価、ブクマ、リアクションもよろしくお願いします。

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