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24話 切り上げ

今回もお楽しみください。

 それからしばらく、作業は思っていた以上に順調に進んでいた。

 ズレていた骨組みは少しずつ真っ直ぐになり、ぐらついていた柱も、さっきよりはだいぶマシになっている。

 風が吹いても、前みたいに頼りなく揺れることはなくなってきた。


 やっぱり何の知識も入れずにやるのは良くなかったなと実感。


「よし、そのまま押さえてくれ」

「はいっ」


 マリーがぐっと力を込めて柱を支える。


「……っ、思ったより重たいですわね」

「無理するなよ、すぐ終わるから」


 俺は手早く釘を打ち込む。

 手応えは悪くない。しっかり入った。


「はい、もういいぞ」

「ふぅ……」


 マリーが一息つく。

 ちらっと周りを見ると、ノエルも黙々と作業を続けていた。

 接合部を確認し、釘を打ち直して位置を調整している。


「……お前、ほんと慣れてるな」

「慣れてるっていうか、雑なのが気になるだけ」


 顔も上げずに言う。

 パンを焼いている時もこんな雰囲気なのだろうか。


「せっかくやるなら、ちゃんとしたいでしょ」

「まあな」


 セラはというと——


「よいしょっと……あ、これで最後かな?」


 両手いっぱいに抱えた落ち葉を、山にして置いていた。

 ……妙に張り切ってるな。


「……おい、セラ」

「ん?」


 振り向いたセラの顔を見て、少しだけ気になった。


「ちょっと疲れてないか?」

「え、そう?」


 きょとんとした顔で、自分の頬に手を当てる。


「さっきよりちょっと顔色がな。無理してないか?」

「うーん……」


 少し考えてから、へらっと笑う。


「ちょっと頑張りすぎちゃったかも?」

「かもじゃないだろ……」


 思わず苦笑する。


「まあ、気持ちは分かるけどな」

「えへへ、でしょ?」


 その表情につられて、ぱっと明るくなりかける。

 いかんいかん、ペースに乗せられたらだめだ。


「疲れてるんだろ、ちゃんと見てるからな?」

「えへへ……ばれてた?」

「ばればれだ」


 そう返すと、セラは少し照れたように笑った。


「でも大丈夫だよ。まだ動けるし♪」

「動けると大丈夫は別だぞ」

「ライルくんは細かいなぁ~」


 軽く笑いながら、また動き出そうとする。

 ……まあ、このくらいなら様子見でもいいか。


「ほどほどにしとけよ」

「はーい♪」


 軽い返事。

 そのまままた作業に戻った——その時だった。


「……こほっ、こほっ」


 小さな咳が聞こえた。


「おい、セラ」

「ん? あー……」


 セラは少し苦笑して、胸元に手を当てる。


「ちょっと土埃が喉に入っちゃったのかな……コホッ」

「本当か?」


 明らかに土埃がないタイミングで咳をしているではないか。

 じっと見続けていると、バレたと観念したセラが白状した。


「たまにあるんだよねぇ、これ」

「たまにって……」

「喘息のやつ。薬、飲み忘れてただけだから大丈夫♪」

「喘息って……やっぱりお前、大丈夫って感じじゃないだろ」


 思ったより強く言ってしまった。

 セラがきょとんとする。


「え、そんな心配しなくても……」

「するだろ普通」


 間髪入れずに返す。


「無理して倒れたらどうするんだよ……!」


 心配性が過ぎたか、つい強めに言ってしまう。

 彼女の身体のこととなると、どうにも感情を抑えられなかった。


「……そっか」


 けれど、セラは少しだけ柔らかく笑った。


「ありがと」


 少し言い過ぎたと反省した。

 ……こういう顔されると、調子が狂う。


「とりあえず、少し休んでくれないか」

「うーん……」


 少し渋るような顔。

 その様子を見て、俺は周りを見た。

 ノエルもマリーも、さっきより動きが鈍い。

 汗も出てるし、少し疲れてきていると思った。


「なぁ、そろそろ切り上げないか」


 ノエルが少し眉をひそめる。

 だけど、察してくれたようで


「あーーそうね、少し疲れてきたかも」

「そうですの? 私はいつでもいいですけれど——あっ」


 マリーも納得したように頷いた。


「確かに……少々疲れてきましたわね」

「でしょ」


 ノエルとマリーが裏打ちしたかのように話を合わせてくれる。


「だけどもう少し……」


 やはり、セラはまだ納得してくれない。


「ダメだ、無理して体調を崩したら意味ない」

「まだできるのにー」

「できるじゃなくて、やめるんだよ」

「でも~~」

「でもじゃない」


 軽くため息をつく。


「お前さっき咳してただろ」

「それは……」

「全員疲れてる。今日はここまで」


 言い切る。少しの沈黙。

 セラはしばらく俺を見てから——


「……じゃあわたし、一人でやるね?」


 ぽつりと呟く。


「は?」


 思わず声が出た。


「もうちょっとだけだから。ライルくんたちは先に帰ってていいよ?」

「いいわけあるか」


 即答だった。


「なんでそうなる」

「だって、もう少しで形になりそうだし……」

「だからって一人でやるな」

「大丈夫だよ?」

「大丈夫じゃない」


 きっぱり言う。


「そもそもメインの作業をしてたのが俺たちだって忘れたか?」

「うぅ……」


 セラが言葉に詰まる。

 そりゃそうだ、力仕事は一切させていないのだから、この後なにをしたらいいか分からないに決まっている。


「それにさ」


 少しだけ視線を合わせ、柔らかく告げる。


「次やればいいだろ」

「……でも」

「大丈夫」


 彼女の肩に手を置いた。


「え?」

「すぐに完成するように、俺がどうにかしてやるよ」


 そう言うと、セラが目を丸くする。


「ほんとに?」

「ああ」

「ちゃんと?」

「ちゃんとだ」


 少しだけ間を置いて言う。


「だから今日は終わり」


 セラはしばらく黙ってから、小さく息を吐いた。


「……そっか」


 それから、いつもの調子で笑う。


「じゃあ、任せるね♪」

「任された」


 納得したみたいだ。

 しかし、セラはまた一度、小屋の方を振り返った。

 相変わらずまだやりたそうな顔だ。


「次のお楽しみにしておこうぜ」

「……うん」


 小さく頷く。

 日もだいぶ傾いてきていたので、俺たちは帰ることにした。

 言っても完成までもう近い。急ぐ必要なんてない。


 だけど、この時の俺は、セラがまさかあんな行動を起こすとまでは考えてはいなかった。


面白い、続きが見たい!思った方は評価、ブクマ、リアクションもよろしくお願いします。

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