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20話 そういう人は?

今回もお楽しみください。

「あぁもう……よくお前らはそんなくだらない妄想ばっかしてくるんだよ」

「だってライルくんが答えないからじゃない~」

「そうよそうよ」


 と、俺は未だに詰め寄られていた。

 好みなんてないものはないんだから仕方ない、というか恋愛すらしたことないんだ。

 そんな困った俺の様子を見て、マリーがふと静かに尋ねた。


「都会にいたときは、そういう方、いらっしゃらなかったのですか?」

「え?」


 その問いかけは特に不自然なモノではなかった。

 ただ、俺の反応が少々遅れを取っただけ。


「確かに、向こうではどんな人がいたの?」

「私も気になるわね」


 セラとノエルも興味を示している。

 そういえばそこまで都会でのことは話したことなかったな。


「ええと……そうだな……」


 別に話したくないわけではない。

 ただその問いかけは、なんとなく軽いものではなくて。

 けれど、重くもなりすぎないよう、あえて明るく返した。


「いや……それなりに仲のいい冒険者仲間とか、気の合うやつとかはいたけどさ。恋愛ってなると、どうしてもな」

「どうしても?」


 セラが身を乗り出すようにして聞く。

 俺は少し目線を落として、指先でジュース瓶の結露をなぞった。


「仕事に夢中だったっていうのかな、足引っ張ったら誰かに迷惑かかるし、仕送りもしたかったしさ」

「仕事熱心なのはいいことだね!」

「はは、そうだな……」


 でも、そんな中でも助けたいって思える仲間はいたんだ。

 そいつらと一緒に、命がけで戦って。そうやって……なんとか生き延びて……今の俺がいて……。


「あ、いやいや、そうじゃなくって……」


 ふと我に返った俺は顔を振った。

 何を思い出しているんだ俺は。

 セラが神妙な顔をしているじゃないか。


「ライル?」

「あぁ悪い、ダルかった仕事がたくさんあったなーって」


 誤魔化しておいた。

 誤魔化せているか心配だが、ノエルが尋ねてくる。


「だったら、今は?」


 ノエルの問いが、焚き火の音の合間にすっと差し込まれる。

 俺は思わず言葉を飲み込んだ。


「はぁ、まだ深掘りしてくるのかよ……」


 軽く肩をすくめてみせるが、逃げ道はもう残っていないらしい。

 その隙を見逃さないように、マリーが身を乗り出してくる。


「そうですわよ。ここまで来たのですもの、最後までお聞きしませんと!」

「お前も来るのかよ……」

「当然ですわ。これは重要な情報ですもの♡」


 距離が近い。妙に近い。

 詰め寄るマリーに、思わず身を引きかけたところで——


「はいはい、ちょっと待ちなさい」


 ノエルが間に割って入った。


「ライル、困ってるでしょ。あんまり詰めるのもよくないわよ」


「……珍しくまともなこと言うな」

「“珍しく”は余計」


 ぴしっと軽く睨まれる。

 けれどその一言で、少しだけ空気が緩んだ気がした。

 焚き火の火が、ぱちりと弾ける。

 その音に紛れるように、俺はぽつりと呟いた。


「……正直なところさ」


 三人の視線が、自然とこちらに集まる。


「何しに帰ってきたのか、自分でもよく分かってないんだよな……」


 あ、空気、重くしたかもしれない。

 口にしてから、少しだけ後悔した。

 そう思って顔を上げると、セラだけがぽかんとした顔でこちらを見ていた。


「……え?」


 間の抜けた声。

 やらかしたかもしれない。いい歳こいてバカみたいなことを言ってしまった。

 呆れられているに違いない。

 そのまま、数秒固まってから——


「え、ちょっと待って」


 信じられないものを見るように、目を丸くする。


「ライルくんって……結婚しに帰ってきたんじゃないの……?」

「は?」


 今度は、こっちが間の抜けた声を出す番だった。


「いやいやいや、なんでそうなるんだよ」

「え、だって……!」


 セラは慌てて立ち上がりかけて、


「さっきの話題まだ続いてるよね? そろそろ結婚する流れになってるし!」

「なってねぇよ! 誰がそんな強制イベント発生させたんだよ!」


 思わずツッコミが炸裂する。

 その横で——


「ふっ……」

「ふふ……」


 ノエルとマリーが、堪えきれずに笑っていた。


「いや……さすがにそれは飛躍しすぎでしょ」

「セラ、話を都合よく解釈しすぎですわ」

「えぇっ!? 違うの!?」


 セラが本気でショックを受けた顔をする。


「なんでちょっとがっかりしてんだよ……」

「だってぇ……それっぽい流れだったのに……」

「どこがだ」


 額を押さえながらため息をつく。

 すると——


「セラ、落ち着きなさい」


 ノエルが少し呆れたように、けれど優しく声をかけた。

 あぁなんだ、ちゃんとフォローしてくれるじゃないか。


「物事には順序ってものがあるのよ」

「じゅ、順序……?」

「おい」


 セラがきょとんとした顔で聞き返す。


「そうですわ」


 今度はマリーが、いつものお嬢様然とした仕草で頷いた。


「いきなり“結婚”などという最終段階に飛ぶのは、あまりにも性急すぎますわ」

「最終段階って言い方やめろ」


 思わず横から口を挟む。


「まずは、もっとこう……段階を踏むべきですの」

「段階って?」


 セラが首を傾げると、マリーは指を一本立てて数え始めた。


「例えば——お茶をする、会話を重ねる、共に時間を過ごす……そういった積み重ねがあってこそ、その先に——」

「講義を始めるな」


 途中で遮るが、マリーは気にした様子もない。


「つまりですわ。順序を守ることこそが、関係を深める上で最も重要ですの!」

「そうそう。いきなりゴール狙うのはズルいってこと」


 ノエルがさらっと横から補足する。


「ズルいって……」


 セラは少しだけ不満そうに唇を尖らせた。


「でも……効率悪くない?」

「効率で恋愛を語るな」


 俺は即座にツッコむ。


「えぇー……だって遠回りじゃん」

「遠回りが大事なのよ、こういうのは」


 ノエルが肩をすくめる。


「過程を楽しめないと、続かないものですわ」


 マリーも静かに言い切った。


「むぅ……」


 セラは腕を組んで考え込む。

 しばらくして——


「……じゃあ、“順番通りに”頑張ればいいってこと?」

「まぁ……そういうことになるわね」

「ええ、少なくとも“いきなり結婚”よりは現実的ですわ」

「なるほど……!」


 なにか納得したらしいセラが、ぱっと顔を明るくする。


「じゃあまずは——ライルくんとデートするところからだね!」

「なんでそうなるんだよ」

「順序守ってるじゃん!」

「守り方がおかしいんだよ!」


 三人の言っている事が本気なのか冗談なのかが未だに分からない。


「え、ちょっと待った冗談で言ってるんだよな?」

「ふふっ、まぁ冗談ではない人も混じってるかもね」

「ええ、方向性としては」


 ノエルとマリーがちゃんとした答えをくれないので戸惑う。


「いやいやいや……」


 俺は頭を抱えた。

 もしかしたら何しに帰ってきたか決めてない俺が悪いのかもしれない

 だから完全に話の主導権はこいつらに握られている。


「結婚ってなぁ……」


 ため息をつきながらも——

 どこか、遠い話のように思う自分がいた。



面白い、続きが見たい!思った方は評価、ブクマ、リアクションもよろしくお願いします。

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