19話 恋バナ
今回もお楽しみください。
日が落ちて、空は紺碧に沈みつつある。
焚き火の炎が、小屋の壁に揺れる影を描いていた。
即席で敷いた草の座布団は思ったよりも座り心地が良く、俺たちは丸く輪になって、静かにそのぬくもりを味わっていた。
「はぁ、疲れましたわ~~ちょっと眠くもなってきましたし」
「ダメだよマリーちゃん、こんなところで寝ちゃったらー」
真っ白なブラウスに、うっすらと土がついている。
普段の彼女からは考えられない姿なのに、それが妙に様になっていて——思わず苦笑が漏れる。
こんな場所にお嬢様が率先して来て、土まみれになっているなんて。
村の連中が見たら、間違いなく腰を抜かすだろう。
……まぁ、こうして笑っていられるのは、俺たちだからこそか?
「……ってか、ノエル。お前、店は大丈夫なのか?」
ふと気になって横目で尋ねると、ノエルはあっさりと肩をすくめた。
「うん、今日はバイトくんに任せてきたわ」
「休みじゃなかったのかよ」
「たまにはこういうのも大事でしょ?」
「責任感って言葉、知ってるか?」
「あるわよ失礼ね。店もパンも逃げたりしないしたまにはいいでしょ」
「パンは逃げないけど、焦げたりはするだろ」
「大丈夫よ、そのへんはちゃんと教えてきたから」
さらっと言い切る辺り、そこまで心配ないのだろう。
そして、またお菓子を口に含んで他愛のない話を始める。
「あ、そうそう隣の奥さんが最近再婚したみたいよ」
「ちょっと、それ聞いてない! 誰と!?」
「それがびっくり、ギルドの依頼を受けてやってきた方らしいわよ」
「元々都会の方でしたのに、移住してくれるなんてすばらしいことですわ」
「ほえ~でもよかったねぇ、旦那さんが亡くなって以来一人だったから、きっと寂しかっただろうし」
どこか他愛のないやりとりが心地いい。
昔みたいに、何も気にせず言葉を投げ合い、笑って、ふざけて。
誰が偉いとか、正しいとかじゃなくて、ただ「一緒にいる」ことが嬉しい。
「ふーん、やっぱそういう出会いが今は主流なのかな」
そんなことを呟くと、セラが唐突に口を開いた。
「てかライルくん、好きな女の子のタイプってどんな子?」
「——ぶふっ!?」
思わず飲みかけていたジュースを吹き出しかける。
「は、はぁ!? な、なんでそんな話になるんだよ!」
俺の狼狽に、セラは無邪気に笑ってみせた。
「へ? なんかおかしな流れだったかな?」
いや確かに話題が結婚だから、そういう方向に行くのはおかしくはないが。
「と、唐突だったから。なんだ、気になるのか?」
「もちろん!」
セラが俺に詰め寄る。
「子どもの頃に“将来結婚する〜”って約束。それを最近掘り返してあげたばかりなのに、いまだに何も進展ないじゃない? ねぇ、ノエル?」
「ま、まぁ……そういう話、少しはあってもいいかもしれないわね」
おい、なんだこの連携攻撃は。
しかも、横を見るとマリーが全力で頷いているではないか。
「確かに、ライルの好み……把握しておくに越したことはありませんわ!」
「……いや、待て待て。お前ら、なんで揃いも揃ってそんな納得してんだよ」
俺の抗議にも三人は涼しい顔をしている。
その中で、ノエルが真面目な顔をしながら言った。
「だって、敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うでしょ?」
「俺たち戦争でもしてんのかよ……?」
完全に流れは彼女たちのペース。
まぁこの感じ、冗談の延長なのかもしれない。
逃げ場なしと見て、仕方なく俺は頭をかいた。
「……うーん、タイプ、ねぇ……難しいな」
思わず言葉に詰まる。
正直、考えたことがないわけじゃないけれど、こうして聞かれるとどうにも口に出しづらい。
——なんて考えている間に。
「ライルくんはやっぱり……」
セラが、にゅっと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「ちっちゃくて、愛嬌の良い女の子が好きだよね♪」
「……なんで決めつけてんだよ」
にっこりと自分をアピールしてきた。
というか近い。距離感がおかしい。
「ほらほら、こういう感じの子とか♪」
わざとらしく上目遣いで見上げてきた。
……あざとい。こいつ、絶対分かってやってる。
「……いや、別にそういうのじゃ」
「待ちなさい! ライルはそんなロリコンじゃないわ!」
食い気味に割って入ってきたのはノエルだった。
きっぱりと言い切る。
「……え?」
セラが固まる。
「ろ……ロリコン……?」
「え、じゃないわよ。なに堂々と自分アピールしてんのよ」
「え、ええー……?」
セラはショックを受けたように、よろよろと一歩下がった。
「そんな……わたしって、ロリなの……? 二十歳超えた幼女……?」
「まぁ感じ方は人それぞれじゃないか?」
「そうだけど……ほら、私って比較的可愛いしさ、守ってあげたい系の子が好きかなって……」
「それはそれでロリコン発言より問題がある気がするが」
なかなか自意識過剰な言動をする。
まぁ小悪魔っていうのは間違いなく、これも冗談のつもりで言っているのだろう。
「違うわよ、全く……ライルの好みというか、男の子の好みを分かってないわね」
ノエルが呆れたようにため息をつく。
そして、少しだけ頬をかきながら――
「どっちかっていうと……ちゃんと働いてて、真面目な子の方がいいでしょ」
「まぁ……ん?」
一瞬、空気が止まった。
的を得ているようで、どこか引っかかる言いよう。
ノエルは自分で言ってから気づいたのか、ほんのり耳が赤くなった。
「な、なによ。普通の話でしょ」
「……へぇ?」
セラがにやりと笑った。
「やっぱりノエルちゃんもライルくん狙ってるんだ♪」
「はぁ!? ち、違うわよ!」
ノエルが即座に否定する。
「じゃあなんでそんな具体的なの?」
「具体的っていうか……一般論よ!」
「確かにそうだけど、一般論で“真面目に働いてる子がいい”って、この場においてはかなりピンポイントじゃない~?」
「うっ……」
言葉に詰まるノエル。
セラはさらに畳みかける。
「パン屋さんでしっかり働いてて、守ってあげたくなる見た目で、ちょっと意地悪だけど優しい子とか~?」
「合成すんな」
「どこかにそんな人いませんかねぇ」
「うぅ……」
クスクスと笑い、セラはノエルをからかう。
ノエルは一瞬言葉に詰まり、それから勢いよく言い放った。
「こ、小悪魔みたいなのに引っ張り回されるのが可哀想だから、妥協案として私を——じゃなくて! 他の女の子を提案してあげてるのよ!」
「今“私を”って言った」
「言ってない!」
「言ったよね?」
「言ってないってば!!」
顔を真っ赤にして否定するノエルだが、セラは楽しそうに笑っている。
「ふふ、ノエルちゃんかわいいね~」
「うるさい!」
……なんだこれ。
完全に俺を置いて話が進んでいる。
「おい、そろそろ本人の意見を聞いてくれないか?」
「はいはいはいっ!」
今度はマリーが勢いよく手を挙げた。
妙に自信満々な顔だ。
「ライルの好み……わかりましたわ!」
「お前もか……」
くだらない予感しかしない。
マリーは胸に手を当てて、高らかに宣言した。
「やっぱりお金ですわ!」
「違うわ!! って金目的ってヤベー奴だろ!? 俺のことなんだと思ってんだ」
「ひ、酷いですわ……最初からそういう目的で……」
「お前が言い出した話だろ」
ツッコミを入れつつも、ふと思うんだが……。
コイツら俺をからかってんのか?
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