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18話 秘密基地

今回もお楽しみください。

「うわ、こりゃひどいな……」


 俺の率直な感想に、後ろからセラが「まさか、こんなに崩れてるなんてねぇ~」と苦笑しながら漏らす。

 目の前にあるのは、かつて“秘密基地”と呼んでいた小屋の残骸だった。


「ここって、元々は馬車の停留所だったのよね?」


 とノエルが尋ねる。


「ああ。俺たちが10歳くらいの頃に使われなくなって、それから勝手に遊び場にしてたよな。もう……何年前になるんだ?」

「数えるのはやめておきましょう? 心が痛みますわ」


 マリーが小さく笑った。


「俺たちも歳を食ったもんだな」

「お爺さんみたいなことを言うのね」


 ノエルが真っ当な指摘をした。

 屋根は落ち、壁は歪み、草木が容赦なく侵食している。

 まるで時間の流れがそのまま形になったような有様だった。


「思い出の場所だったけど、こんなになるんだなぁ」


 ふとこぼれた俺の言葉に、セラが静かに頷いた。


「……だったら、直しましょうか?」


 そう言い出したのは、マリーだった。


「え?」

「せっかく全員そろったのですもの。昔みたいに、皆で何か作るのも楽しいですわ!」


 彼女は胸元に手を当てて、いつものように堂々と宣言する。


「いやいや、そんな疲れることを……買い出しとか色々面倒だろ」

「そうですの? ノエルは釘とかの金具を錬金できますわよ?」

「……えっ、ノエル、錬金術って使えるのか?」


 俺は驚き彼女に視線を向けた。


「うん……まぁ、趣味っていうか、パン作りに応用してたらできるようになっちゃって」

「パンに錬金……?」

「そうね、炉の温度調整とか、湿度管理とか、けっこう科学なのよ? それっぽい魔導器いじってたら自然と……あはは」


 どういう発想をすればそんな応用をしようという気になるのか。


「あはは、じゃなくて普通にすごいだろ……。けどまあ、釘があるなら話は早いか」


 田舎だから材料の買い出しには時間がかかる。

 そうと決まれば話は早かった。


「じゃあ、ライル。木材はお願いね」


 当然かのようにノエルは俺の腰に付けた剣を叩いた。


「え、なんで俺……って当たり前だよな」

「そうよ、だってあなたが一番この中で力が強いでしょう?」

「いや、合ってるけど……あぁ~せっかくの休日が~」


 俺は嘆いてしまう。

 まさか、休日に労働を強いられるだなんて。


「ふふっ、じゃあセラと私は応援組ですわね!」

「うんっ♪ がんばれー、ライルくーん!」

「こらーお前らも働けー」


 ゆるーくツッコミをするも、結局俺がやってしまうんだろうな。


「ライルが働く姿を見るだけで、もう今日は来た甲斐があるって感じだよね」

「ほんとほんと、良い運動になるわよ〜?」

「やかましいわ」


 ……結局、口では文句を言いつつも、俺は手を動かすことにした。


 古い材を取り除き、ノエルが錬成した釘で骨組みを補強し、マリーとセラが横から「がんばってー!」「そこ歪んでますわよ〜?」と好き勝手な応援を飛ばしてくる。

 だけど、不思議と悪くなかった。


 釘の音が響き、汗が滲んで、笑い声が混じって。

 忘れかけていた“あの頃”が、少しずつ形になっていく気がした。



 ————————————————————————



 流石に一日でどうにかなるほど甘くはない。

 目の前にある“秘密基地”だったものは、想像以上に老朽化していて、壁も柱もほとんど役に立たない状態だった。

 むしろ、よく今まで形を保っていたなと感心するレベルだ。


「……これ、直すっていうよりさ」


 俺は崩れかけた柱を軽く蹴りながら言う。


「いっそ全部壊して、一から作った方が早くないか?」

「それ、採用ですわ!」


 マリーがぱっと顔を輝かせた。

 言い出しっぺの俺だが、少しだけ抵抗がある。


「え、冗談のつもりだったんだが……そんなことしたらもう戻れないぞ?」

「中途半端に残すほうが危ないもの。どうせなら“理想の秘密基地”を作り直すべきですわ」

「理想って……お前、結構大胆だな」


 俺が懸念しているのは村の歴史とか、風習みたいなモノを壊してしまわないかということである。


「ふふ、こういうのは全力で楽しんだほうが勝ちですもの♪」

「そうは言うが……ん?」


 次の瞬間だった。

 マリーは躊躇いもなく、崩れかけた壁の前に立つと——


「それでは、まずは不要な部分から片付けていきますわね」


 やけに上品な前置きをしてから、

 ——ドンッ!


 思い切り、蹴りを叩き込んだ。


「ちょっ、おまえ……っ!?」


 バキッ、バキバキッ!

 乾いた木材が悲鳴を上げるように軋み、ひび割れが一気に広がる。

 さらに追撃とばかりに、ぐらついた柱へ手をかけ——


「えいっ」


 メリメリッ、と嫌な音を立てて、それを引き倒した。

 土煙がふわりと舞い上がる。

 ……おい、今の完全に“解体作業”ってレベルじゃないぞ。


「やったーこれでだいぶ風通しがよくなったね♪」


 マリーの破壊行動に、セラが満足げに万歳する。


「いや良くなりすぎだろ! 原型どこいったんだよ!?」

「中途半端に残して怪我をしたら大変ですもの。安全第一ですわ」

「分からなくもないが……躊躇いもなく全部壊すやつ初めて見たわ……」


 呆れながらも、俺は崩れた残骸を見下ろした。


 ……確かに、もう“直す”って段階じゃない。

 ここまでやられたら、もう選択肢はひとつだ。


「……はぁ。分かったよ、やるしかねぇか」


 肩をすくめると、マリーはぱっと笑顔を咲かせた。


「ええ、最初からそのつもりでしたわ♡」

「最初からかよ!」


 ……結局。

 その一言と一撃で、すべてが決まったのだった。


「はいはい、じゃあまずは解体な」

「がんばれー、ライルくーん♪」

「いやお前らもやれ!」

「応援も立派な仕事ですわよ?」

「どの口が言ってんだよ……」


 そんなやり取りをしながら、俺とマリーで崩れかけた柱を外し、壁を剥がし、セラとノエルが使えそうな木材を選り分けていくがほとんど使えそうにない。


「これ本当にイチから作る形になるな」


 原型は一ミリも残らなさそうだ。

 とりあえずは、土台から作っていこうということに。

 マリーには引き続き解体作業をしてもらい、その周辺をセラが掃除。土埃が舞っては作業に支障が出るから水を撒いて貰っている。

 そして、俺とノエルは資材を調達する係となった。


「よっこらせ……と」


 俺はその辺の木を伐採し、木材を調達する。

 途中、ノエルが釘や金具を錬成して補助してくれるおかげで、作業自体は思ったよりも進みそうだ。

 そこでふと、俺は気になってしまう。


「なぁ、それどうやって作ってんの?」

「ん? これ? まぁちょっとした応用よ。金属の成分を再構築して——」


 彼女はさも簡単そうに、落ちている石を使って釘を作って見せた。


「いやいやいや、さらっと言うけど普通にすごいことしてるからな?」

「そう? パン焼くほうが難しいけど」

「いや、そっちが本業だろ……」


 セラとマリーはというと——


「はーーー疲れた~~休憩しよっか♪」

「そうですわね、後は全部ライルに任せましょう!」

「お前らほとんど俺にやらせる気だろ」

「うん!」

「ええ♪」

「即答すんな」


 そんなこんなで、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。



 ————————————————————————



 日が傾き始めたころ、ようやく形になったのは——

 しっかりとした土台と、簡易的な壁だけ。

 屋根と内装は、まだまだこれからだ。


「……今日はここまで、だよな」


 俺は腰に手を当てて、出来上がりかけの骨組みを見上げた。


「思ったより進んだんじゃない?」

「うんうん、最初の状態考えたら上出来だよ」


 確かにイチから作ったとなると、十分な進捗である。


「ふふ、完成が楽しみですわね」


 三人は満足そうに頷いている。

 最初はなんでこんなことを、と思っていたが……まぁ、悪くないか。


「はいはい、注目ー!」


 セラが手を叩いて、場の空気を引き寄せた。

 いつの間にか取り出していた大きめの布袋を、わざとらしくごそごそと開ける。


「あ、お前どっか行ってたと思ったら!」

「ふふん、みんなお疲れさま♪ 途中でいなくなったの、これ買いに行ってたんだよ〜」


 中から現れたのは、見覚えのある懐かしいお菓子と、瓶に入った果実ジュース。

 紙袋の擦れる音と一緒に、甘い香りがふわりと広がった。


「おおっ……まさか差し入れとはな」

「やりますわね、セラ。すごく気が利きますわ〜!」


 マリーがぱっと顔を明るくする。


「ふふっ、たまには私も役に立ちたいからねー♪」


 セラは照れくさそうに笑いながら、ひとつずつ配っていく。

 袋を開けると、ぱりっとした音とともに、昔と変わらない匂いが鼻をくすぐった。


「これ、まだ売ってたんだな」


 思わず呟くと、セラが小さく頷く。


「見つけたとき、なんか嬉しくなっちゃってさ」


 それだけの言葉なのに、妙に胸に残る。

 こういうのが、帰ってきたってことなのかもしれないなって。


 焚き火の熱、夕焼け、そして懐かしい味。

 全部がゆっくりと混ざり合って、どこか懐かしい時間を形作っていた。


「じゃあ……」


 セラはジュースの瓶を持ち上げる。


「秘密基地の再建に乾杯―ってことで♪」

「いやいや、まだ出来てないだろ」

「座れる場所が出来ただけでもいいんだよ~」

「まぁ、お疲れ様ということにしておきましょう?」

「そうだよ~ささっ、乾杯~♪j」


 小さな声が重なり、瓶同士が軽く触れ合う。

 カチン、と澄んだ音が、夕暮れの中に溶けていった。




面白い、続きが見たい!思った方は評価、ブクマ、リアクションもよろしくお願いします。

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