第三章 (1)
店内を動き回る少女の姿は可愛らしく、くるくるとよく働いた。
年の頃は花梨と同年代。大きな瞳は黄色で、制服の狐色と相性が良い。時折跳ねる銀色のおかっぱは、ステンドグラスの光を淡く反射させる。翻るエプロンの裾は滑らかな弧を描き、花梨にはあんなに綺麗な動きはできない。
彼女は少女に化けた花入である。あれから数日しか経っていないというのに、彼女はもう店の仕事を覚えたようだ。てきぱきとした動きには迷いがない。
店は広くはないし、あの様子なら多少自分がいなくても回していけるのではないだろうか。
「余計なことは考えるんじゃないよ」
まるで心の声を読まれたかのように、棗が花梨の頭にメニュー表を載せて釘を刺す。別に辞める気はないし、考えるだけなら自由にさせて欲しい。
メニュー表を下ろして胸に抱えた花梨は、カウベルの音に顔をそちらへ向けた。
「いらっしゃ――」
そして、固まる。
扉の前に立っていた人物もまた、言葉を失ったように目を丸くして棒立ちになっていた。
(――ああ、髪染めたんだ)
声も出せないほど驚いている自覚がありながら、頭の隅では呑気にそんな思いが湧いて出る。
そこにいたのは花梨のかつての同級生――有明枝美だった。切れ長の目もスポーティーなショートカットも変わらないが、花梨の記憶の中の黒髪は明るい茶色になっていた。
数秒見つめ合い、枝美が口を開こうとした瞬間、二人の間に棗が割って入った。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
そう言いつつも手を広げ、座敷席の方へと誘導する。
枝美の顔を見た衝撃で目に入っていなかったが、彼女の他に友人が三人一緒だったようだ。見ない顔だから、高校でできた友人なのだろう。
彼女達に促されて、枝美も奥の座敷席に向かった。
「大丈夫かい?」
「え、あ、はい」
ついぼんやりとしてしまい、棗に声をかけられてはっとする。今は仕事中だ。客に誰が来ようと、アルバイト代分の働きはしなければいけない。
「花入、あっちの客は頼んだよ」
「はい」
棗の指示に、花入が枝美達のテーブルへメニュー表を渡しにいく。
短い一瞬ではあったが、花梨にとって枝美がどういう存在なのかは周囲に伝わってしまったらしい。変に気を遣われたくないのだが、態度に出てしまった以上、ここは甘えさせて貰うことにしよう。
奥の方からちらちらと視線を感じながら、花梨はそれに気づかないふりをして他のテーブルの接客に集中しようとした。




