第45話 枯れた平和の証
レストランを出て、徒歩十分ぐらいで王宮の前へとたどり着いた。
一言でいうなら、でかい。
もうそれに尽きる。
桃源郷の王宮なんか比べ物にならない。
王宮のでかさに圧倒されていると、奥からアスが走ってくるのが見えた。
「ごめん!待たせたね」
「いや、いいんだ。俺達もさっき来たところだから」
「じゃ、早速中に入ろうか」
門番にしっかり身分を明かし、中に通される。
「私は着替えがあるから、ここでいったん離れるよ。あとは爺にまかせる。爺、お客人を任せたよ」
「はい。アス王子、しかと承りました。さぁ、準備が整うまでこちらへどうぞ」
アスから爺と呼ばれている執事の案内で、王座の間近くの一室に通される。
「準備が整うまでこちらでお待ちください。お手元の荷物などはいったんすべてここにおいてください。それでは準備が整い次第、またお呼びに参ります」
そういって部屋の扉を閉め、去っていった。
特にこれといってすることもないし、おとなしく待ってようか。
10分ぐらい待ったところで、先ほどの執事が呼びに来た。
「準備が整いましたので、皆様こちらへどうぞ」
そう言って、王座の間の前の扉に通される。
いよいよ、この国の王様と会うのか。
緊張していると、アリエルが声をかけてきた。
「八雲は自分の名前と王であることを言うだけでいいですから」
「ああ。わかった」
それ以外の話はすべてアリエルが行ってくれるらしい。
頼もしい限りだ。
扉が開き、中へと入っていく。
中央にはカーペットで道が作られており、その奥には王座があり王であろう恰幅の良い男が座っている。
「貴重な時間をいただき謁見の場を設けていただいたこと誠に光栄であります」
「うむ。くるしゅうない」
「そして、この者が桃源郷の新たな王にございます」
「名はなんと申す」
「神代八雲と申します。この度桃源郷8代目国王となりました」
「神代……八雲……か。覚えておくぞ」
「そなたらがこの国に見聞を広げるためにやってきたというのは事前に聞いておる。存分に見て行ってくれ」
「その案内役として、儂の息子のアスを付けよう。既に面識はあると聞き及んでいる」
「アス、お客人方をしっかり案内するのじゃぞ」
「は!私にお任せを」
「さあ、皆様こちらです。私についてきてください」
アスに促されるまま、王座の間を退出する。
あーあ、緊張した。
「では、時間の許す限り色々なところに皆様を連れていきたいと思います」
「まずはこの国の歴史的建造物から」
こうしてアスの案内で様々な所へと行くことになった。
歴史的建造物、自然、繁華街などなど。
そうして日が暮れたので、今日は解散となった。
宿につき、早速ベッドに潜る。
明日は少しこの国を出るって言ってたっけ。
楽しみだな。
――――――
2日目。俺達は国境の前で待ち合わせをすることになっている。
待っていると、馬車に乗ってアスが現れた。
「お待たせ。皆様馬車に乗ってください」
全員が馬車に乗ると、国を出て道なりに進んでいく。
するとどうだろうか、少し先にとても大きな木が見えてきた。
「アス、あの木は一体?」
「あれは世界樹と呼ばれる木です。詳しいことはついてから説明します」
それから馬車に揺られること10分ほどして、世界樹と呼ばれている木の根元にたどり着いた。
みんなで馬車から降りる。
木の根元には人間だけでなく、様々な種族がいた。
「この世界樹は平和の証なんです。世界が平和になると葉が覆い茂り、花が咲くといわれています。
今は……枯れてしまっていますが」
たしかにこの木は葉が一枚も生えることなく、枯れはててしまっている。
つまり、平和とはほど遠いってことだ。
「この世界樹の周辺は各国の了承を得て、非武装地帯となっています。武器を持ち込んだり、軍隊が通ることは禁止されています」
「ですが、武力的な衝突はないにしても民族間の意識的な衝突は多く、多くの火種が飛び散っている地域でもあるんです。故にここは”火薬庫”とも呼ばれたりします」
言われてみてみると、多くの多様な種族がいてそれぞれがにらみ合っているような感じがする。
今すぐ衝突が起きたとしても何ら不思議ではない。
「私は自分が王になってこの世界を平和にしたいんです。そしてこの世界樹を花で満開にしたい。それが私の夢です」
「立派な夢があるんだな。アスならきっと成し遂げられるよ」
「ふふ、そういってもらえると嬉しいです。ではそろそろ帰りましょうか」
再び馬車に乗り、来た道を戻っていく。
いつかまた来たときにあの場所が花で満開になっているといいな。
きっとアスならやってくれるはずだ。
「無事に街に戻ってこれましたね。では―――」
何か言いかけたところで、アスの元に一人の男が駆け寄ってくる。
コソコソと何かを話している。
「……ええ、わかりました。では、行っていいですよ」
話し終えたのか男は去っていった。
心なしかアスの表情が曇っている。
「どうした?アス。何かあったのか?」
「………あー、ここではなんですので場所を変えましょう」
そうして、小さな喫茶店に連れてこられた。
一体何があったんだ。
「実はですね……イリスのことで進展があったようで」
「イリスのことで……?まさか、両親が見つかったのか?」
「そのまさかです。両親が連れ去られた場所が発覚しました」
「それで肝心の場所は?」
「ここです。この闘技場に連れてこられたという情報が入りました」
アスが地図を広げ、指を刺した場所は繁華街のはずれにある小さな闘技場だった。
昨日通りかかったときはいかにも金持ちそうな人間でにぎわっていた印象だ。
「ここは連日亜人や獣人を怪物と戦わせてそれに賭けたり、怪物に手も足も出ずやられていく様を見て楽しむ金持ちの娯楽場です」
「亜人や獣人だけでなく、人間も剣闘士として参加することができます」
「………なんとも悪趣味な場所だな」
「私もそう思います。ここに連れてこられた以上、早急に助けないと命の保証はできません」
「なら、今すぐ行こう」
「ですが、問題があります」
「私は今から前線の方へ赴き、指揮をとらなくてはならなくなりました。故にこれは私からのお願いですが」
「どうか!皆様にイリスの両親を助け出して頂きたいのです!」
「もちろんだ。断るわけがない」
「ほんとですか!ああ、なんとお礼をいったらいいのか…………!!」
「おおげさだなぁ、別にそれぐらいなんてことはないよ」
「そうですか。あと一つお願いしたいことがあります」
「イリスも一緒に連れて行ってあげてください」
「イリスも一緒に!?危険だ!」
「危険なのは承知です!ですが、あの子に一刻も早く両親に合わせてあげたいし、両親の特徴もわかっているあの子なら皆様の役に立つと思って………それに皆様の力ならイリスを守り通せると信じているからです!」
「そうか……そこまで言うなら連れて行くよ。安心してくれ、イリスは俺達が絶対に守り通す」
「心強いお言葉です……!早速、イリスをここに連れてきますので少し待っていてください」
それだけ言って、足早にアスはどこかへ行ってしまった。
本命は救出だが、その過程で戦いになることはある程度覚悟しておかないとな。
「おーい!!道を開けろ!!!将軍様のお通りだ!!!」
道の下の方で誰かが叫んでいる。
道端の人達が一斉に道を開ける。
状況がよくつかめないまま、周りに合わせて道を開ける。
隣にいたおっさんに事情を聴いてみることにした。
「なぁ、これから一体何が通るんだ?将軍様って?」
「あんた、この辺の人じゃないのか?将軍様っていえばこの国の英雄達だ」
「”達”って英雄が何人もいるのか?」
「この国には十二星将って言われている、12人の将軍様がいるんだ。この国の軍隊はその12人を中心に部隊が作られる。基本は12部隊あって隊長が十二星将で副隊長が一人ってのが基本形。中には副隊長が3人とかいる部隊もある」
「ほら来るぞ!第一将の王翦様の部隊だ!」
は?なんで地球の中国史に出てくる英雄がこの世界にいるんだ?
しかも、生きているはずがないのに
「な、なぁ今王翦って言ったか?明らかにこの世界の人間じゃないよな?」
「ああ、そういえば説明してなかったな。十二星将はこの世界に一番近い地球って世界の各地の英霊の集団なんだ。この国に英霊を召喚する魔術師たちがいてな、彼らの召喚に英霊が応じれば晴れて肉体を得てこの世界に生き返るってわけだ」
「すると、他の11人も英霊なのか?」
「もちろんだ。さらに言うと副隊長もその英霊と関係の深い者たちだ」
「例えば王翦様の部隊の副隊長は息子の王賁様だ」
「へ、へぇー」
突然のこと過ぎて頭がパンクしそうだった。
歴史の話でしか聞いたことない英雄たちと会うことができるとか。
見る奴が見たら卒倒しそうだな。
「王翦様!!よくぞご無事で!!」
ついにやって来たのか道端のいたるところからこのような歓声が上がる。
人ごみの間からよく目を凝らすと姿が見えた。
年老いてはいるものの歴戦の武将と思わせる風格で、知恵者の雰囲気が漂っている。
対してその後ろにいる副隊長と見える王賁は若く、綺麗な黒髪をたなびかせている。
肉体もしっかりしていて武の将と見える。ただ武に偏っているのではなく、父譲りの知恵も持ち合わせているような雰囲気だ。
しばらくして、全軍が通り終えた後、何もなかったかのように人々は道を歩き始めた。
俺はしばらくあっけにとられてその場を動けなかった。
そんな時にアスがイリスを連れて戻って来た。
「連れ来ましたよ………って何かありましたか?」
「あ、いや何も……」
「ならいいんですが……とにかく、イリスのこと彼女の両親のことしっかりお願いします!」
「ああ!任された!」
俺達にイリスを託すと、また忙しそうに王宮の方へと去っていった。
これからいよいよ救出に向かうわけだが、できれば穏便に事が済むことを願いたい。




