第42話 新たな世界
目を開けると、そこには見慣れた天井、壁、床があった。
さっきまでのは夢で、ここが現実だ。
「結局、紫苑については何も知ることはできなかったな」
だが、結んだ契約によって奴の行動を大きく制限することができた。
今はそれで十分か。
それに奴が言っていたことを信じるならば、いずれは真実を知ることができる。
その時を気長に待つしかないか。
しかし、紫苑のことは俺とレイチェルとレイナしか知らない。
でも、俺達3人は奴についてほとんど知らない。
なら、だれがその真実とやらを教えてくれるのだろうか?
「九朗さんはもしかしたら気づいてるかも…………?」
そんな淡い期待を胸に九朗さんを探して神社の中を探索する。
目的の人物はすぐに見つかった。
電話の置いてある廊下に九朗さんはいた。
誰れかと話をしている様子だった。
いけないとは思いつつも、気になって会話の聞こえるとこまで近づいてみる。
「…………ええ。そうです、彼のことで」
「彼の中の”あれ”はかなり進行が速い様子。もしかしたら、寝ている間に接触した可能性も」
「その場合は…………について知っている可能性も考慮しなければ」
「もし、彼が…………について知ってしまったときはあなたも覚悟をもって彼と話してください」
「…………と…………の関係、あなたと彼の関係、それに…………についても。すべて話さなければ」
「ええ。あなたの言う通り、今の状態でとても受け入れられる話ではないでしょう。しかし!あなたもわかっているはずです!残された猶予は少ないと!」
「止まっていた運命は動き始めている。適切な処置を行わないと手遅れになりますよ……!」
「………いえ、すこし焦りすぎました。まだ可能性の段階でしたね。彼については十分留意しておきます。ええ、ではまた」
電話が終わったのを見て、急いで物陰に隠れる。
あんなに焦った九朗さんを見たのはこれが初めてだ。
一体、誰と何を話していた?あんなに焦る話って?
それに”彼”って多分、俺のことだ。
九朗さんはやっぱり何か知っているんだ!
そう思った時、物陰から出て九朗さんに声をかけていた。
「九朗さん」
「おや、八雲ですか。おはようございます。私に何か?」
「九朗さんは俺について色々知っているんですよね?」
「いえ、私は八雲のことなどなにも―――」
「紫苑のこと!知っているんですよね!」
紫苑という名前を出したとき、顔色が変わるのを感じた。
「…………その名前をどこで?」
「大分前から存在を知っていました。そして昨日の夜、夢で接触を図ってきました」
そのことを伝えた瞬間、九朗さんは俺の肩をつかみ、すごい剣幕で捲し立て始めた。
「それで!何を言われましたか!何を知った!それでどうなりましたか!!」
「あ、え、別に何を知ったわけでもなく、奴とは俺が許可しない限り表に出ないという契約を結んで終わりました」
「それは本当ですね!!何かの関係性を知ったとかは本当にないんですね!」
「はい。それは本当にないです」
「…………ああ……ならいいんです。ごめんなさい、少し驚かせてしまいましたね」
「いえ、別に大丈夫です。九朗さんは何も知らないんですね?」
「……え、ええ。私から話せることは何も」
「わ、私は少し用があるのでこれで」
「ああ……はい。お気をつけて」
九朗さんは俺の前から去っていった。
絶対に何か知っている。そういう確信は持てたが、あの剣幕を見た後だとどうにも追及する気にはなれなかった。
今はこの問題は後回しでいいのか?これ以上のヒントがないと探りようもないし。
目先の2日後の王宮での集まりについて集中するのが先決か。
――――――
心に少しもやっとしたものを抱えながらも時は過ぎ、ついに約束の日時になった。
それと、九朗さんは出かけて帰って来たときにはケロッとしてていつもの調子だった。
俺も極力気にしないようにしていたが、かえってそれが不気味だった。
蓬莱山の麓までやってくると、アリエルが待っていた。
「来ましたね。それでは行きましょうか」
アリエルの案内で、蓬莱山へと登っていく。
まさか、こんなとこに王宮があるとは思いもしなかった。
山頂までたどり着くと、目の前には巨大な宮殿が立ちそびえていた。
「この山、たいして高くないのに何でこんな目立つものが外から見えないんだ?」
「魔法でカモフラージュしているんです。目立たないように」
「へぇー」
「さ、中に入りますよ」
中に入ると、想像とたがわない光景が目に広がった。
天井につるされた大きなシャンデリア、正面には2階へと続く大きな階段。
絵にかいたような宮殿だった。
「お待ちしておりました。さぁ、こちらへ。お嬢様も」
そういって声をかけてきたのは以前屋敷で戦った、執事長のダリアだった。
以前は敵として戦ったが、今はもう敵ではない。
彼も、俺に仕えてくれる一人ということだろう。
ダリアの案内でたどり着いたのは会議室の様なところだった。
広いが、ハルナードともう一人しか座っていない。
「来たか。待っていた。八雲」
「ごめん、待たせて。それでそこの人は?」
「ああ、こいつは………」
ハルナードが紹介しようとした矢先、立ち上がりしゃべり始める。
この声、まさか!
「フフフ……待っていましたよぉ、貴方様を」
「その声!ベルゼブブか!」
「そちらの元王のハルナードには事前に事情を話して、了承を得ています」
「あとは貴方に納得してもらうだけです。王よ」
「何に納得しろと……?」
「私を貴方の秘書として雇うことですよ!」
「秘書!?俺の?お前が!?」
「そうです!そうですとも!私はあらゆる叡智を持っています!きっと貴方の役に立つでしょう」
「ハルナードはいいのか?こいつを身近に置くことになって」
「俺は悪い話ではないと思っている。こいつからはもう悪意を感じないし、俺達ももちろんお前をサポートするが、俺達だけでは手が足りないのでな」
「うーん………悪い話ではないのか」
「では!雇用契約成立ということで!」
「ただし!俺達に牙をむいた瞬間、お前を解雇し討伐するからな」
「ええ、もちろんです。そんなことありえませんが」
なんとも奇妙なことに俺の秘書はかつての宿敵が就くことになった。
けど、ほんとに悪意がないからなぁ……悪魔なのに。
それからの話は、停滞していた業務とか人事の話だったが、停滞する前とほとんど変わることはなかった。
変わったとこで言うならば、いままで王として一番上にいたハルナードが王じゃなくなってアリエルと一緒に現場指揮などを行うことになったとこかな。
とまぁ、そんなこんなで話し合いも終わった。
「八雲、少しいいか」
話し合いが終わって帰ろうとしたところでハルナードに呼び止められた。
「重要なことを話し忘れていた」
「これからお前には2つの異世界に旅に行ってもらう」
「期間はそれぞれの世界で2週間づつだ」
「ちょ、ちょっとまて。2つの異世界?2週間の旅?話が全くつかめないぞ 」
「桃源郷の王は代々交流を持っている2つの異世界に見聞を広げるため、旅に行く慣行がある」
「俺も当然行ってきた。で、新しく王になったお前にも行ってもらおうということだ」
「なんとなく話は掴めたが、王が1か月近くも席を開けても大丈夫なのか?」
「その点については問題ない。今は忙しくないからな。俺達だけでも十分回せる」
「ああ、ならいいんだが」
「そんなに心配することはない。何もお前ひとりで行かせるわけではないしな」
「じゃあ、誰がついてくるんだ」
「妹のアリエルとお前の秘書のベルゼブブだ」
「その二人がついてくるのか」
「二人には事前に伝えてあり、ある程度の知識を持ってもらった状態で行ってもらうから大丈夫だ」
「そうか。なら安心だ」
「出発は1週間後だ。俺たちの屋敷に来てくれ」
「わかった」
「帰り際に引き留めて、すまなかったな」
「いや、いいんだそれじゃあな」
一通り話し終え、帰路についた。
しかし、異世界から異世界に行くとは思ってもいなかったな。
でも、少し楽しみだ。
そんなことを考えながら森を歩いていると声を掛けられた。
「少しよろしいか」
振り返ってみるとそこには6人の鬼らしき風貌の男たちがいた。




