第40話 力の代償
鈍い音とともにハルナードが壁に激突する。
壁はその衝撃でひびが入り、パラパラと小さい石粒が落ちてくる。
「なん……て…パワーだ」
「く………そ………!」
ハルナードはなおも攻撃を加えようと、血で槍を作り、こちらへと投げてくる。
「おりゃあ!!」
飛んでくる槍を俺は、パンチ一発で弾き飛ばす。
もう使える血も残ってないのだろう。
全然槍に勢いも、硬度もなかった。
「今のは………攻撃のためじゃない」
「お前の目を……逸らすためのものだ……」
そういうハルナードのほうを見ると、いつの間にか白鹿の死体を手繰り寄せていた。
白鹿の血を吸って回復しようとしているのか?
「させるか!」
「遅い、もうあらかた吸い終わっている」
「赫灼血騰!」
周囲の血だまりが急に熱を帯び、ぐつぐつと泡を出し始める。
そして、火山が噴火するように高熱の血が一気に周囲から噴き出す。
「ぐっ…!」
「吸血刀」
少しひるんだと同時に一本のナイフが飛んできて、足に刺さった。
なんだこれ…………血を吸われているのか?
「鬼の血を少し拝借するぞ」
鬼の血を吸ったことにより、ハルナードの身体は今までより少し強くなっているのを俺は感じ取る。
なんだよ、鬼の力でこのまま押し切れると思ったのに、状況が振り出しどころか少し悪化したぞ。
「おお、これが鬼の力か……!!少量でも体から力が漲ってくる」
「今度はこっちから行くぞ!」
ハルナードは俺との距離を一気に詰め、さっきのお返しとばかりに俺がパンチしたところと同じ所に打ってくる。
速い…!ガードするのがやっとだな。
「ぐうううう…………」
ガードしたものの、勢いを完全に消すことはできず、ズズズと後ろに2,3歩後退してしまった。
「おらぁ!」
俺も負けじと打ち返していく。
そこからは互いに一進一退の打ち合いとなった。
一歩下がっては打ち、一歩進んでは打ち返されてを幾度となく繰り返した。
そんな中で先に音を上げたのはハルナードのほうだった。
「はぁ………はぁ………鬼の血の効果が薄れて来ている!やはり一時的なものにすぎないか」
ここをチャンスと見た俺は天龍を抜き、一気に決めにかかる。
今なら前よりも、速く、鋭くあの技を出せるはずだ。
「燕返し!!」
今までで速度もキレも一番の燕返しが見事に決まった。
そこそこに深く入り、ハルナードは胸から血を流している。
「ぐぬううう……!!」
「げほっ…………げっほ………」
「まだだ………まだ、終わってはいない」
「まだ動けるのか……なら次の技で―――」
斬りかかろうとしたその時だった。
八雲は急に立ち止まり、ピクリともその場を動こうとしなかった。
「なんだ…………?急に身体が動かなくなって………うっ」
「頭が………!頭が痛い!誰かがしゃべりかけてくるんだ………!」
完全に鬼の力を制したと思っていた。
けど今になって鬼の力が俺を取り込もうとしているのか?
これが………三木さんの言っていた鬼の力の代償…………
「チカラ……ダ……チカラガホシイ……マダ、タリナイ」
「今喋っているのは八雲か……?」
「ヤ……ク……モ?ダレダ、オレハソンナナマエデハナイ」
「………ナラ、オレハダレダ?」
「オレハ?オレハナンナンダ」
「ク……ソ、ジャマをするな!デテくるんじゃネエ!」
「この身体はオレノものナンダ!」
「あああああ!!!」
八雲はしばらくの問答のうち、膝をついて倒れた。
「はぁ………はぁ………」
「飲み込まれなかった、抑え込んだぞ…………!」
「悪いなハルナード……待たせてしまって。試合再開だ」
予想外のアクシデントもあったが、試合再開だ。
以前こちらの有利は変わらない。
このまま勝たせてもらう!
「すでに………決着はついている………」
「………?」
ハルナードはそこを見ろと言わんばかりに、俺の腹を指さしている。
視線を下にやると、俺の腹を一本の槍が貫いていた。
「な………ん………で」
「血の創世槍だ。その槍は妖の血を人間の血に変える。人間の血を吸血鬼以外が吸うと拒絶反応を起こす。つまり鬼となった今のお前には猛毒だ」
完全に気付かなかった。
負けるのか………?このまま……ここで。
いやだ。そんなの絶対に。
何かないか?
この槍をどうにかして、そこから勝つ方法は。
「…………あ?」
ダメもとで、槍にふれてみたりしていたら、触ったところが少し燃えているのに気付いた。
なんで燃えている?何に反応した?
もしかして、俺の血か?
だとしたらすげぇぞ、鬼になるとこんなこともできるんだな。
鬼火とでも呼ぶか。
本来は怨念とかが火を現わしているそうだが、俺の場合は体外に出た血を空気と反応させて燃やせるって解釈でいいのかな。
「この土壇場で、逆転の目が生まれたぞ」
「何…………?」
「鬼火」
体外に流れ出た八雲の血が一斉に燃え盛る。
その炎は槍を焼き尽くした。
「なんだ!なんだその炎は!」
「俺はどうも外に出た自分の血を燃やせるらしい。今、俺自身も結構ケガしてるから燃えているところがいくつもある」
「くっ……!だがこちらの方が速く動け―――」
「鬼炎万丈!!」
ハルナードが動き出すよりも速く、俺の方が動いていた。
天龍で、ハルナードの胸を逆袈裟で斬り上げる。
深く入ったところに追い打ちをかけるようにハルナードの体についていた俺の血が激しく燃え盛る。
「ぐっ…………はっ…………ああ」
この一撃によりついにハルナードは地面に倒れこんだ。
つまり―――
「勝者!!神代八雲!!!」
審判の勝者を告げる声と共に、観客席からどわっと歓声が沸き上がる。
「うおおおおお!!!!」
俺は気づいたら叫んでいた。
無理もない。ここまで本当に長かった。それを考えると喜びがあふれるのもおかしくない。
「やった!ついに勝った!!俺はこの世界の王になったんだ!!!」
今はこの事実だけがただただたまらなく、嬉しかった。




