第38話 決勝戦
「負けたわ…………悔しいけど完敗よ」
「お前も強かったぞ。前に戦った時よりも圧倒的に」
「そう………貴方に言われるなら悪い気はしないわね」
「決勝、絶対に勝ちなさいよ」
「ああ。わかってる」
決着後、俺とレイチェルはこのようなことを話して別れた。
去り際、レイチェルの頬に一筋の涙が見えたような気がした。
あいつも自分の悔しさを押し殺して、俺を応援してくれたんだ。
―――負けない。絶対に負けるわけにはいかない。
――――――
俺が部屋で休んでいる間に、準決勝2回戦目が終了した。
勝ったのはやはりというべきか、ハルナードだった。
最後に立ちふさがるのは今までよりも大きな壁だ。
だが、俺はそれを打ち破り、絶対に王になる。
時間になったところで会場に入る。
今までで一番人が多く、俺が入っただけで観客席中から割れんばかりの拍手と歓声が飛び交う。
「やはり、決勝戦は違う。空気感も何もかも」
俺が会場の雰囲気にのまれそうになっているところに、ハルナードが入ってきた。
俺の時より数段大きな歓声と拍手が飛び交う。
空気感は完全アウェイだな。
「八雲、よくここまで上がってきた。俺は決勝でお前と戦うのを楽しみにしていたぞ」
「俺もだ。出し惜しみはしない。全力で勝ちに行く!」
「王家の人間として、負けるわけにはいかない。容赦はせん」
「「勝って王になるのは―――」」
「「この俺だ!!!」」
両者は互いに譲れないものを背負ってこの場に立っている。
片方は王家の誇りと誇りとプライドを。
もう片方はここに至る過程で敗れてきた者たちの意思と、自分がこの世界で生きる目標を。
背負っているもは違えど、強さは拮抗している。
どちらが勝つのか。それを決める戦いが今始まる。
「これより決勝戦、神代八雲とハルナード・バートリーの試合をとり行う」
「よーーい!!!」
「始め!!!」
ついに決勝戦が始まった。
始まると同時に四神の宝剣を抜く。
「やはり、最初から使ってくるか。さぁ、誰が来る」
「我だ。妖よ」
「建御雷か………ベルゼブブに乗っ取られていたとはいえ、手ひどくやられた記憶しかないな」
「だがまぁ、動きはすべて知っている」
「血の破魔槍」
ハルナードは自身の手のひらを切り、血を出すとその血を槍へと変化させた。
我にはわかる。あの血は強力な魔の力でできている。それゆえ、一般の人間がかすりでもしたら致命傷となる。
幸い、神力の強い我ならさほどダメージはないがそれでも確実に身体を蝕むものだ。
「一撃でその槍を破壊する」
「晴天の霹靂」
今出せる最高速度でハルナードへと切りかかる。
が、なんと完璧に見切られ攻撃を防がれてしまった。
「なぜだ、今の速度は肉眼で捉えようもないものだぞ」
「我々、吸血鬼にはコウモリの遺伝子が少し混じっている。コウモリや吸血鬼以外では感じ取ることのできない超音波を出すことができる。それにより、どこで攻撃が来るかを見切ったのだ」
「なるほど、そういうからくりか。ならそれを狂わせればいい」
晴天ばれの空をたちまち暗雲が覆いつくす。
そして、雷鳴が響き始め、雷が降り注ぐ。
「雷鳴により、貴様の超音波は意味をなさなくなった。ここからは我の独壇場よ」
「出でよ白鹿」
「疾風迅雷」
雷を纏った白鹿と共に、縦横無尽に駆け巡る。
ハルナードは何とか食らいついていたが、超音波なくしては捉えることができず、自身の傷ばかり増やしていく。
試合開始から僅かで一方的な試合展開となってしまった。
「血の千本矢!降り注げ!!」
ハルナードは血で作った球体を空へ打ち上げ、そして破裂させた。
すると、千本の矢となって地上に降り注ぐ。
「ふん。こんなものかすりもせんわ」
しかし、その矢も当たることはなく、依然として攻撃を食らい続けていた。
「もう策はないようだな。早いがこれでしまいにしよう」
背後へと迫っていた建御雷は終わりにしようと剣を振り下ろそうとする。
そのとき―――
「がはっ…………!!」
すべてよけたと思っていた先ほどの矢が一本、剣を持っている腕を貫いていた。
「想定外の攻撃だが、まだ白鹿が…………」
ハルナードは突進してくる白鹿をよけると、建御雷の目に飛び込んできたのは両目を矢に貫かれまっすぐ突進してくる白鹿の姿だった。
建御雷は避ける間もなく白鹿と激突する。
そして、白鹿もろとも後ろへ吹っ飛ぶ。
「な、なぜ……!こんなことに……」
建御雷が驚くのも無理はない。
自分たちが圧倒的に有利だと思っていたのが、たった一つの攻撃で覆ったのだから。
「だが、まだ終わりではな………はっ!」
建御雷の下の血で濡れた地面から突如、槍が生えてきた。
とっさに、避けようと身体をひねるが、よけきれず、右胸を貫かれてしまう。
「がっ……………………はぁ、はぁ…………」
「なぜこうなったと思う?」
「な、なぜって……我にはわからぬ………」
「左の脇腹をみてみろ」
「………?」
建御雷が左脇腹を見てみると微かだが、切り傷ができており、少量の出血が見られた。
「まさか…………貴様!」
「そのまさかだ。俺は千本の矢を放ったとき、自分の血以外にお前の血と、白鹿の血を混ぜて作ったものを放った。お前たちの血が含まれている矢以外はすべてブラフ。お前たちの血がついている矢は自動追尾して、当たった。というわけだ」
「そしてそれだけではない。当たらなかった矢は地面に落ちると、液体に戻り、水たまりのような小さい血だまりができる。それにより、俺のテリトリーを作ったのだ」
地面を見てみると、気が付かぬ間に血だまりがそこら中にできている。
おおよそ7割がたそのようになっている。
「さぁ、形勢逆転だ」
「くっ…………」
建御雷は立ち上がると、急いで血だまりない地面へと移動する。
この状況をどう覆すか。
逆転の糸口は掴んである。
”最初”にこれをしておいてよかった。
攻略のカギは”空”にある。




