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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
21/22

カノンとエルマ

【1】


ドアを開けたら、子供がふたりいた。

背の低いふたりは、俺の顔を見上げていた。


ひとりは、「竜の解放団」を率いる銀髪の娘。

もうひとりは、俺を「お父さん」とか呼んでくる自称娘。


「おいおい、なんで子供がこんなところにいるんだ」


俺は驚きと同時に、冗談でそう言ったが、

エルマとカノンは怒り出した。


「は? 私は子供じゃない!」


カノンは銀髪を震わせながら、怒った。


「お父さんのバカ!」

「ぐふっ」


エルマも怒って、俺のお腹に、小さな頭を突っ込んできた。

けっこう痛い。

ちょっとした自転車がぶつかったレベルの衝撃だ。


「お父さん! どうして私を置いていったの?

 寂しかったんだから……」


エルマは、そのまま抱き着いてきた。

正直、置いてきたのは悪かったと思っている。

非常事態だから仕方なかったんだ……。


でも一番の疑問は、なんでこのふたりが、制御室に来ているかということだ。


「なぁ、他の大人の人たちは?

 まさかふたりで来たなんてことは……ないよな」


「何を言っている。私たちだけで来た。な? エルマ」


「うん、そうだよ」


「嘘だろ……。

 どうやって来た? 車なんて運転できないはずだし」


「エルマを使った」


「は?」


「エルマが竜に変身して飛竜と交渉し、

 私たち二人は、飛竜に乗ってやってきた」


「……は?」


飛竜に乗ってやってきた。そこはわかった。

でもエルマが竜に変身することは、俺とアヤノさんしか知らなかったはずだ。

なぜカノンが知っている。


「私は、エルマと会話するうちに、エルマの正体が竜であることを知った。

 ユート。お前がエルマの飼い主であることも知った」


うわぁ。バレてしまっている……。

エルマが自分から話したんだろうな。

なんということだ。

他の人にも話していないだろうな?


「飛竜に乗ってやってきた私は、

 制御室に行こうとした。

 なんで制御室に向かったのか、だって?

 あの女(シオン先輩)が、忙しくバタバタしているうちに

 制御室を壊してやろうと思ってね」


「制御室にたどりつくのは大変だった。

 途中、竜がうろついててね。

 エルマが竜に変身して、竜たちと会話することで、

 特に危険もなく進むことができた」


「そうか。残念だけど、すでに制御室の機械は壊れてる。

 無駄足だったな」


「なんだと。もうすでに目的達成していたのか!」


笑顔になるカノン。

カノンは「竜の解放団」という竜の解放を主張する団体の一員だ。

わりと偉い地位にいるらしいが、カノンは少女なので、あまり偉くは見えない。


カノンは、制御魔法や制御機械を「竜を縛る道具」だとうとましく思っている。

だから「制御室を壊す」という過激な発言が出てきた。

でもすでに制御室は使えない。

なぜなら、制御室の機械は壊れてしまっているから。


「カノン。喜んでいるところ悪いけれども。

 このままだと、制御室の機械が壊れていても、

 いずれ、予備システムに切り替えるか、

 修理されてしまうかで、どのみち復旧してしまうだろうね」


「そうはさせない」


そうはさせない、と言っても、一体どうするつもりなのだろうか。

予備システム切替手順書とかを燃やすのだろうか。

あと、修理道具を奪うとか。


「私は、制御の再開を絶対に止めてみせる。

 少しでも時間を稼がないといけない。

 予備システム切替も修理もやらせない」


「いったいどうするんだ?」


「制御の再開を止めるように説得する」


もし俺だったら、手順書を探して燃やすけど……。

修理については、修理連絡先を廃棄したり、

電話など通信機器を壊して止めるかもしれない。

すべて時間稼ぎにしかならん気もするが。


「切替手順書を燃やすか、修理連絡先を廃棄するか、

 時間稼ぎにしかならないけど、

 いろいろやらないと、結局、制御が再開されてしまうぞ」


「ふーん。たしかにそうだ。

 ユート。お前はずいぶん私にアドバイスしてくれるな。

 飼育員側なのに珍しい奴だ。

 気でも変わったのか」


「いや、俺は今でも竜の制御再開を願う側だ。

 だって、そうしないと自由に生活もできないし。

 カノンが小さい女の子だから、

 あぶなっかしくて、ちょこちょことアドバイスしてるだけさ」


「竜の制御再開を願う?

 ……エルマはお前のことを慕っているようだけど、

 制御が再開されたら、どうなるか?

 考えたことはあるか」


「……」


少し考えたことはある。


制御が再開されたとき、

おそらく、エルマは、竜の姿に戻ったまま、

そのまま人間には変身しなくなるかもしれない。


いつもの、エルミーに戻るだけ。


そこだけは正直なところ心配だった。

最初、竜のほうが好きだったけど、

エルマの顔を見るたびに、人間のほうも悪くないなと思うようになってきた。


竜の制御は再開されてほしい。

だがエルマは人間のままでいてほしい。


そんな気持ちも、どこか片隅にあるわけではない。

俺の複雑な気持ちは顔に出ていたようだ。


「どうした。難しそうな顔をしているぞ。

 やはりためらいがある。

 お前は制御再開を心の底から歓迎してはいない。

 そうだろう?」


「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」


俺のあいまいな返事に、カノンはあきれ、ため息をついた。


「どっちつかず、いけない。

 エルマを見なさい。ほら。

 あんなにうれしそうにあちこち触ってる」


カノンはエルマを指さした。

初めて見る制御室や機械が珍しいのか、

エルマはぴょんぴょん飛び跳ねながら、

あちこちを触っている。

まるでオモチャを与えられた子供のようだった。


「制御が再開されれば、あの子の笑顔は失われる。

 それがよいことかどうか。

 もう一度自分で考えてみることだ」


カノンの言うことも一理ある。

エルマがエルミーに戻っても、

俺はそれなりに幸せかもしれないが、

エルマの笑顔は永久に失われてしまうかもしれない。


俺はエルマに近づいた。


制御用の機械をあちこち触っているので

何か変な動作をしたらまずいと思った。


「エルマ、あちこち触ってはいけないよ」


「お父さん! これなに?

 すいっち、ていうの?」


エルマは俺の言うことも聞かず、

近くのスイッチだのレバーだのをいじっている。

ヒヤヒヤした。

繊細なアヤノさんが見たら発狂したかもしれない。


だが、制御用の機械はうんともすんとも反応しない。

セーフだ。

これは完全に機械がイカれてしまっているのかもしれない。

もしくは、偶然動いてないだけかもしれない。


「これは危険な機械だから、触っちゃだめ。

 向こうで大人しくしてなさい」


「えー。いや!

 せっかくお外に出られたのに、

 大人しくなんてできないよ」


エルマは遊びたがっているようだ。

でもこんな制御室の機械をポチポチ触らせてたら

何が起こるかわからない。

制御室の外に出てもらおう。


「もっと楽しいところがあるよ。

 そこに行こう」


「え? どこ?

 お父さんと一緒に行くよ!」


俺はとっさに「楽しいところ」と言ってしまったが、

実は何も考えていなかった。

制御室を出ることばかり考えていたからだ。


制御室の外――つまり、制御施設にどんな場所があるかも

あまりわかっていない。

せいぜい、昨日行った地下書庫くらいなものだ。

あんなホコリっぽい場所、

エルマは喜んでくれないだろう。


適当に歩き回ってみて、

楽しそうな場所を見つけたら入ってみよう。


俺とエルマは、制御室のドアを開け、外に出た。





つづく

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