火消し
【1】
朝のコーヒーを飲みほしたあと、
気分が落ち着いてきたのか、急に、外の情報が知りたくなった。
島外では、みんな、今頃どうしているだろうか?
リューランド島のような小さな島の、
しかも制御室という職場に、わざわざテレビなど置いているわけがなかった。
ラジオみたいな気の利いたものも無さそうだ。
携帯端末はかろうじて使えるが、
あまりこんな小さな画面でいろいろ閲覧すると目が疲れる。
だから俺はあまり、携帯端末を使っていないのだが……。
リューランドの今回の事件は、
メディアではどう報道されているのだろうか?
事件発生からしばらく経つし、さすがに気になってきた。
俺は、ニュースサイトを見ることにした。
連日トップニュース扱いとなっているらしい。
そりゃそうだ。
島に大勢の人々が閉じ込められたうえ、
竜にいつ襲われるかわからないし、
食糧や飲料水の問題もある。
これが騒がれなければ、世も末だろう。
世間では「制御システムがダウンした」という扱いで伝わっているらしい。
制御室を武装集団が一時占拠したとか、そういうことは書いていない。
未確定ニュース扱いだから、配信されていないのだろうか。
俺は腑に落ちなかったが、他のニュースも見て、情報を集める。
「まだ多くの人々が生きている模様」
「政府は連日徹夜で対策会議をするも結論が出ず。
場当たり的な対応」
「いま、リューランドでは、竜の制御が効かず、
竜が自由に歩き回っている。
でも竜は意外とおとなしい生き物。
正しく恐れることが重要」
「制御システムがダウンしたことにより、リューランド島全体に、
竜脱走防止用のバリアが自動展開されている。
制御システムが復活するか、または、
島全体にかかっているバリアを解除しないと、人々は救出できない。
バリアは、政府判断でいつでも解除できるが……」
「バリアをうかつに解除してしまうと、竜も島外に出てしまう。
どのようにバリア解除を行うか? それとも竜の制御再開を目指すのか?
政府はどういう決断をするのか?」
「リューランド運営会社は、島に残る職員たちで『火消部隊』を結成し、
対応にあたるとのこと」
リューランドの火消部隊? 初めて聞いたぞ。
ニュースを続けて読む。
火消部隊とは、今回起きた事件について、
さまざまな被害に対応するため、結成されたようだ。
「リューランド運営会社社長は、
火消部隊の代表であるシオン氏と連携をとり、
速やかな対応を目指すとのこと」
シオン先輩!?
シオン先輩の名前が出ている。
このニュースの配信日は、昨日だ。
俺が知らなかったにせよ、とにかく、
リューランドの外部からも内部からも、さまざまな動きがあるようだ。
「一方、軍部は、リューランド島の人々を救出するため、
政府と連携をとり、対応にあたっている。
竜の嫌がる音や臭いを発生させつつ、飛行部隊を飛ばし、
救助を行う計画を立てている。
だが軍部突入には、竜脱走防止用のバリアを解除する必要があり、
どのように島外に竜を出さないようにしながら人々を救出するか、
政府の判断が問われている」
軍隊もようやく動くようだ。
だが、軍隊が突入するには、竜脱走防止用のバリア解除を行う必要がある。
政府判断でしか解除ができない。
きっとすぐには来れないだろう……。
俺はさらに、ニュースを読み続ける。
「島内に取り残されている人々は、
ネットを通じて、さまざまな投稿をしており、
真偽不明のニュースが飛び回っている。
デマや見間違えに注意されたし」
怖いな……。
デマに振り回されて、島内の人々が、変な行動をとらなければいいが。
さて、そろそろ携帯端末の充電もあやうい。
ニュースサイト閲覧はここまでにしておこう。
それにしても、「火消部隊」か……。
まるで島が炎上しているみたいな言い方だ。
火事災害は発生していないものの、
ある意味「炎上」しているのかもしれない。
しかし、「部隊」とつけているからには、
結構大がかりな人数で、制御室にやってくるのではないだろうか。
そんなに大勢で来てどうしようというのだろうか……。
まあ、大勢で来てもらった方が、地下書庫の捜索は楽なのだが。
俺がいろいろと思案していると、
そのとき、制御室の固定電話が鳴り響いた。
【2】
シオン先輩からの電話だ。
心なしか、シオン先輩の声のトーンが低い。
「その声は、ユート君ね? 残念なお知らせがあるのだけど」
残念なお知らせ? 俺は身構えた。
「制御室に向かう予定だったんだけど、すぐには来られそうにもないわ。
……いま、島で発生している問題に対応するため、
大がかりな人員編成をしているの。
それが終われば制御室へ行けるようになるわ」
「火消部隊のことですね」
「そうよ。知っていたのね?」
「ニュースで見ましたから」
「それなら話が早いわ。
私はそのリーダーとなって、今から対応を開始するの。
でも予想以上にやることが多くて大変よ。
ええっと……。
とにかく、制御室には優先して向かうから、
待っててちょうだい」
「わかりました」
シオン先輩たちの到着が遅れる。
正直ショックだったが、
島が異常な状態に陥っているだから、
やむを得ないのかもしれない。
アヤノさんも疲労で倒れてしまっているし、
この制御室でまともに動けるのは俺だけ。
とても心細い。
そんな感じで意気消沈していると、非常に驚くことが起きた。
コンコン。
制御室のドアが、叩かれた。コンコンと。
俺は思わず椅子から飛び上がり、ドアを凝視した。
心臓が口から出てくるかと思った。
ドアの向こうにいるのは誰だ?
シオン先輩は遅れると言っていた。
だから、今、シオン先輩が来るはずがない。
竜がドアを叩くなんていうことはするはずがない。
ということは……人間だ。
まさか、武装集団が、制御室を取り戻しに来たのだろうか?
ありえない。
制御室が使えないのだから、武装集団は制御室を捨てて逃亡したはずだ。
いまさら取り戻しに来る理由がない。
じゃあ、いったい誰なのか?
想像もつかない。
もしかしたら、生き残りの制御魔術師や警備員かもしれない。
でもいきなり開けるのは危険な気がする。
こんな感じでしばらくためらっていると、
コンコンコンコン
トントントントン
ドアを叩く音が増えた。
1人でたたいている音じゃない。
ふたり?
コンコンコンコン
トントントントン
コンコンコンコン
トントントントン
あーうるさい。
まるで子供が、友達の家のドアを、しつこく叩いているかのような叩き方だ。
まさか子供がこんなところに来るはずが無い。
子供……?
子供なら、少し前まで一緒にいたじゃないか。
もしや……。
俺は、意を決してドアをゆっくり開けた。
つづく




