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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
22/22

地下書庫再び

【1】


俺とエルマは手をつなぎながら、

制御室のドアを開け、外に出ようとした。


「どこへ行く」


制御室の外に出ようとすると、カノンが声をかけてきた。


「私を置いていくな」


「寂しいのか?」


「そんなことない!」


カノンは怒っていたが、少し顔を赤くしていた。

やっぱり寂しいのだろう。


「制御室の外でちょっと遊んでくる。

 カノンも一緒に来たいなら来るといい」


「お遊びならごめんだ。

 私は子供じゃない」


「あっそう。

 じゃあその制御室で一人で待っていてくれ」


「そう言わないで。子守りは必要だ。

 一緒に行かせてほしい」


カノンは自分を「子守り」と自称して、俺についてくる。

たぶんエルマの子守りだと思うのだが、

エルマもカノンも見た目的には大して変わらないのだが……?

もしかして俺が子供なのだろうか。

いやいや、それはないだろう……。と思いたい。


「じゃあ子守りを頼んだぞ」


ということで、俺とエルマとカノンの3人は、

制御室を出て、制御施設の中を旅行することになった。


アヤノさんは仮眠室に置き去りになってしまっているが、

制御室周辺は静かだし、大丈夫だろう。

念のため、ドアはしっかり閉めておいた。


「そういえば、ふたりとも、この制御室までよくたどり着けたな。

 制御施設内は複雑だし、竜もうろついているのに」


「それについては問題なかった。

 エルマが竜に変身して、他の竜と会話したから」


「へー。竜と会話したのか。

 竜たちは何と言っていたの」


「うーん。エルマ、何って言っていたかおぼえている?」


「うーんとね。

 『食べ物を探してたら、変な場所(制御施設)に来てしまった』

 『人間と何人か会った。仲間が撃たれて逃げた』

 『人間がいっぱいいる部屋(制御室)があるらしい』

 って。

 みんないろいろ教えてくれた」


「竜たちもずいぶん難儀しているみたいだな。

 教えてくれてありがとう、エルマ」


「ところで、我々はどこへ向かっている」


カノンが素朴な疑問を口にする。

制御室を出たはいいものの、何も動いてない。

俺も何も決めていない。


制御施設の地図とかあれば楽なのだが……。


「あてのない旅になる」


「……? 何を言っているかわからない」


カノンの疑問もそのままに、

俺たちは制御施設内をあてもなく、うろついた。

俺が制御施設内を歩くのは、制御室移動や地下書庫移動だけだったが、

アヤノさんのナビゲートありきの旅行だったため、

あまり道はおぼえていなかった。


俺たちは制御施設内をひらすらうろうろすることになった。

そのうちエルマも歩きづかれて、制御室に戻ることになるだろう。

だが俺の意志に反して、エルマはとても元気で、疲れる様子は見えない。


なんなんだ……。


そんなに元気なら、よし、地下書庫の捜索でも手伝わせようか?

俺はだんだんそんな気分になってきた。

カノンも一緒に手伝わせよう。


「……カノン。本は好きか?」


「唐突な質問だな。

 本は好きだぞ。

 最近読んだ本は……」


カノンはペラペラと語りだした。

大人でも挫折するほど難しい本。

古典的な本。

専門書。

カノンの本好きは異常なレベルだった。


「で、それがどうしたのだ」


「ここには、地下書庫がある。

 ……竜の研究成果や論文が大量にある。

 興味はないか?」


「ほほう。

 どうしてもっと早く言ってくれなかった」


カノンは興味をもって、身を乗り出してきた。


「悪い。エルマを遊ばせることが優先だったから」


「連れていけ」


「いいけど、協力してもらいたいことがある。

 地下書庫には、制御システムの切替手順書もある。

 あれを探してほしい」


「制御システムの切替手順書?」


「制御システムは今、壊れている。

 だが、予備システムに切り替えれば、まだ動くらしい。

 その切替手順書がどうも地下書庫にあるらしいんだ」


「ユート。お前は何を言っている。

 私が制御システムの切替を手伝うわけない」


当然の反応だった。

カノンは竜の制御を嫌っていた。


カノンは「竜の解放団」という、

竜の解放を主張する組織に所属しており、

そのため、竜を大人しくさせる制御システムを毛嫌いしている。


「切替を手伝ってほしい、とは言っていない。

 俺たちが切替手順書を先に見つけて隠してしまえばいい」


俺は、口から出まかせを言った。

竜の解放団の、極端な主張につきあうつもりはない。

リューランド島に閉じ込められた俺たちを救うには、制御再開は必要だ。


だけど、竜の制御をそのまま再開させるのも、少しずつ抵抗感が生まれていた。


エルマとの交流。

意外にも狂暴でない竜たちの姿。

リューランド運営会社の劣悪な職場環境。

今回起きた事件の、「みんな」の対応のぐだぐだっぷり。


こんな状況になっても、

制御が失われる以前の営みのままでいいのか?

俺の違和感は少しずつ育ち、縮むことはなかった。


切替手順書は、俺がどこかに隠す。

絶対必要になったら使ってもいい。

でも、そう簡単に、制御再開されてなるものか。


「お父さん! ちかしょこ?って何?

 滑り台とかある?」


エルマは、のんきな様子で俺に話しかける。

地下書庫に滑り台というものはない。

人間には常識だが、少し前まで竜だった娘なので、常識を知らない。

そんなことより「滑り台」という言葉をどこで知ったのか?

このリューランド島には、滑り台など無いはずだが……。

いろいろな疑問が出る。

まあいい。


俺は、「ちかしょこ」は、「ほん」がいっぱいある場所だと伝えた。

エルマは首をかしげていたが、連れていけばわかってくれるだろう。


【2】



「わぁ! すごーい!」


カノンは、地下書庫に入るなり、いきなりそういう反応をした。

おい、今までの不愛想な感じのキャラはどうなった。

まるで無邪気な子供のようだ。


「しゅごい、はぁはぁ……。

 こんなに竜の研究資料がいっぱい……」


カノン? 大丈夫か?

カノンは、ピンク色ハート型の瞳となり、ヨダレを垂らしている。

子供がする表情じゃない。

ちょっと止めたほうがいいだろうか。


「私の父親は、竜の研究者だったんだ。

 その娘である私が、

 竜が好きでないはずがない!」


カノンは自分の身のうちをさらけ出す。

そうか。父親が竜の研究者だったのか……。


やがてカノンは、地下書庫の本や資料を漁り始めた。

カノンは、当初の目的を忘れてしまったようだ。

俺は声をかける。


「おいおい、『切替手順書』を先に見つけるんだぞー」


「わかっている!」


カノンは、書棚を触りながら、力強く返答した。



「んうー。『ほん』がいっぱいある」


エルマは、初めて見る大量の本に圧倒され、

目をぐるぐる回していた。


そういえば気になっていたのだが、

エルマは、文字は読めるのだろうか?


「エルマ、この本の文字は読めるのか?」


俺は書棚から適当に取り出した研究用の本を、

エルマに見せる。


「んー。読めるのと読めないのがある」


多少の文字は読めるのか!?

どういうことだろう……。

人間としての教育は受けていないはずなのに。

不思議な存在だ。


文字がわかるなら、エルマも、切替手順書の捜索に協力してもらおう。


俺は、手近にあったペンと紙で

「切替」という意味をもつ文字を書いて、

エルマに見せた。


「この地下書庫に、こういう文字の本が隠れている。

 探してみて」


「うん」


エルマは紙を受け取り「切替」という文字を見ながら

書庫を探索し始めた。


こうして、俺たちは、整理されていないごちゃごちゃした地下書庫で、

「予備システム切替手順書」を探し始めた。


エルマ、カノン、そして俺。

捜索する人手は昨日より多い。

アヤノさんも来てほしかったが、疲れて寝ているので無理だ。

でも2人より3人のほうが人手は多く、探しやすいはずだ。



【3】

俺は、地下書庫の奥の方を探すことにした。

昨日、あらかた手前側を探しつくしたからだ。


アヤノさんは「手前側にある」と言っていたが、

結局のところ見つかっていないし、

逆に考えて、奥から探したらどうだろうか?と思った。


地下書庫の、この整理されていない乱雑さ。

おそらく、順番にものを置いてない。

最近格納した書物が、

なぜか奥の方にいってしまうということも

十分考えられる。


俺はそう考えて、奥の方へ行く。

昨日調べた手前側に比べても、やはりひどい乱雑ぶりだ。

竜の研究資料や専門書など雑多にあるらしいが、

こんなにごちゃごちゃしてたら、研究に支障が出そうな気がする。


それとも、今はもう誰も研究していない、

打ち捨てられた研究なのだろうか?


茶色くなり、ホコリにまみれた書類・資料・専門書たち……。

もう誰にも読まれなくなった「彼ら」は何を訴えようとしているのだろうか。


彼らの声なき声を聴いているうちに、だんだんと俺は、

導かれるように、1つの研究資料を手にした。


「人竜について」




つづく

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