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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
17/22

地下書庫の捜索

【1】

制御室を取り戻したのはいいが、

制御システム用の機械が壊れてしまっていた。


アヤノさんが言うには、

予備の制御システムがあり、それに切り替えることができるらしい。


しかし、制御システムの長年の順調な稼働が祟り、

かなり長い間、予備制御システム切替は行われていなかった。


そのせいで、

予備制御システム切替操作手順書がどこにあるのか、

まったく見当がつかなかった。

とりあえず、制御室内をうろうろと二人で探し回ったが、

見つかる気配はない。


うーん。困ったな。

制御システムが動かなければ、竜の制御は再開できない。

つまり危険なままだ。


制御室は、制御用システムの機械が、半分のスペースを占めている。

残りの半分は、

制御魔術師が作業するためのスペースや、事務作業用のスペースだ。

俺たちは、事務作業用のスペースを丹念に探してみた。


机の中には、あまり役立つものは入っていなかった。

現在使っている制御システムの、細かな仕様や操作手順はあるが、

予備制御システムへの切替操作手順書は、入っていない。


俺とアヤノさんは、制御室内を探し回ることをあきらめた。


「まさか、予備システム切替操作手順書が制御室内に無いとは……。

 不覚でした。

 あまりに使わない手順書だから、

 紛失してしまったのかもしれませんね……」


アヤノさんはがくっと肩を落とした。


「まだあきらめるのは早い。

 制御室に無くても、制御施設にはあるかもしれない……」


俺は、制御室の重厚なドアをちらっと見た。


「制御施設内は、竜もうろついてるっぽいので、

 あまり出たくはなかったですが……。

 この際、仕方ないですかね」


「俺も出たくはないが、制御システムが動かないのでは、

 ずっとここにいても意味が無い。

 制御施設内のどこにあるか、だいたいの目星はつくか?」


「うーん……」


アヤノさんはしばらく考え込む。

しばらくして、「はっ」とした。

何かに気づいたようだ。


「ここには地下書庫があります」


「地下書庫?

 なんで制御施設内にそんなものが……」


「この制御施設は、ずっと前、研究施設だったんですよ。

 最初は、竜の研究をしながら、制御実験をしていました。

 ところが、竜の制御実験を続けるうちに、

 だんだんと規模が巨大化し、制御施設へと生まれ変わってしまったのです」


「へぇ」


「そのあと、新しく研究所を作り直した際、

 研究や実験に使う材料や書物を引越したんですけども、

 竜に関する研究資料は、あまりに膨大な量となってしまい、

 すべてを引越するのは無理でした。

 結局、制御施設の地下書庫に、古い研究資料を保管しているんです。

 ……保管という名の『置き去り』ともいいますけどね」


「新しい研究施設への引っ越しで、資料を持ち運びきれなかったんだな。

 だから、制御施設の地下書庫にそのまま保管おきざりか。

 ありえそうな話だ」


「で、その地下書庫に、いつのまにやら、

 制御施設で使っている資料もどんどんため込んでいってるんです。

 制御の仕事をしていると、それはそれで結構な資料が作られますからね。

 おそらく、予備制御システム切替操作手順書も、

 地下書庫にまぎれこんでいる可能性が高いですね」


「その話を聞くと、相当量の書類が、

 地下書庫にまぎれこんでいそうだな……。

 探すのにかなりの苦労がありそうだな。

 とりあえず、地下書庫に行こう」



【2】


制御室から、地下書庫へ移動する。

途中、竜との遭遇が何回かあったが、

アヤノさんが使役する(?)小型竜の活躍で

なんとか切り抜けることもあった。


遭遇した竜も、ある程度行動パターンが決まっていた。

逃げていく。

こちらの様子をじっと伺っている。

威嚇しているだけ。

だいたいこの3パターンに分かれていた。

襲いかかってくる竜もいたが、例外中の例外に等しかった。


竜は、制御魔法がかかっているときは、

人間に対してかなりおとなしく従順な態度をとる。

制御魔法が切れたら、暴走して襲い掛かってくる……はずだったのだが、

それはほんの一部程度しかいないようだ。


竜も、人間が恐ろしいのだろうか。

人間は、竜に制御魔法をかけてまで、おとなしくして、見世物にしている。

その点だけで言えば、人間のほうが恐ろしいのかもしれない。


さて、地下書庫にたどりついた。

暗く、窓もなく、光とは無縁のしめっぽい場所だった。


地下書庫のドアには、セキュリティロックのようなものがある。

どうやって開けるのだろう?

俺は、アヤノさんの様子を伺っていたが、

アヤノさんはセキュリティロックをあっさり解除した。


アヤノさんは、

あまり地下書庫には足を向けていないようだが、

こうもあっさり解除してしまうとは、驚きだった。

実は、パスワードとか解除方法が、制御施設内ですべて同一なのだろうか。

制御施設のセキュリティ面の仕組みが少し心配になった……。


【3】


地下書庫の中は、膨大な資料に埋もれていた。

きちんと整頓されている形跡が見られない。

フリーダムだ。

こんなんでよく研究ができたものだ。


というか、どうやってこの中から、予備システム切替手順書を探せと?

砂浜に落ちた毛髪を探すに等しい。

ありえない。何日かかるのだろう……。


「ユートさん。

 そう絶望する心配はないですよ」


「え?」


「地下書庫の、比較的手前のほうに、

 だいたいの場合、制御システム系の資料はあります」


「どういうことだ?

 ……あっ。そうか。

 何年も前の過去の研究資料より、

 制御システムの資料のほうが新しいからだな?」


「そうです。

 古い資料より、新しい資料のほうが、

 部屋の手前に配置しやすいですよね。

 逆に、奥に行けば行くほど、古い研究資料が積まれています」


「よーし。そうと決まれば、

 地下書庫の出入口付近の資料をよく調べてみよう」


「はい!」


俺とアヤノさんは、手分けして、地下書庫出入口付近の資料たちに手を入れ、

「予備システム切替手順書」を探し回った。


山のように積み上げられた資料や書類を崩すたび、ホコリが発生し、

俺たちはゴホゴホと咳をしながら、探し回った。

こんなにホコリを吸い込むなんて、健康に悪いなぁ…。


そして資料をかきわける作業が、ずっとずっとエンドレスに続く。


どれくらいの時間がたっただろうか?

俺とアヤノさんは、汗にまみれ、肉体は疲弊していた。

資料のひとつひとつは、ただの紙切れであり、軽いのだが、

それを何度もかき分けているうちに、だんだんと肩が重くなっていく。

しまいには、紙一枚が、鉄板一枚のように重く感じてしまうのだ。

塵も積もれば山となる。そんなコトワザを思い出した。


「もう疲れた。休憩しよう」


「そうですね……」


俺とアヤノさんはぐったりとその場に座り込んでしまった。

もう動けない。お腹もすいた。

そういえば、今日はまともな食事をしていない……。

ああ。

こんな事件が起きていなければ、

今日も竜の飼育生活を送っていたのだろうな……。

とにかく、お腹がすいた。

でも食べるものはない。食べられるようなものは周囲にはない。

もしかして餓死するのだろうか。


ふと気になって、アヤノさんの様子をちらりと見る。

青い顔をしている。

おそらく俺と同じ気持ちだろうと思われる。


「ユートさん……。

 私の使う制御魔法は、催眠術の応用なので、

 空腹や疲れを感じたら、

 それを無視できる催眠術を使ってもいいですよ」


「……お断りします」


元気のない声で答える。

そんなイカれた催眠術を使ったら最後、何も感じないまま、

ワーカーホリック化し、体を蝕み、そのまま死に至るのだ。

絶対に嫌だ。

でも、このままじゃ、空腹と疲労で倒れてしまうだろう。

参ったなこりゃ。


「あっ。

 そういえば……ですね。

 制御室の中を探していたときに見つけたのですが」


アヤノさんは、自分の服装のポケット?らしき箇所をごそごそ触ると、

何かを取り出した。


飴玉だ。


「飴玉? どうしてそんなの持ってるんだ」


「制御室の机の中に入ってたんです。

 念のために持ってきました。

 たぶん、制御魔術師が勤務時間中の緊張を紛らわすため、体力を補うため、

 飴玉とか準備してたんでしょうね」


「そうか。助かった。舐めさせろ」


「この飴玉は1個しかないです」


「……なぜ2個持ってこなかったんだ」


「自分しか食べないだろうなぁって思いまして」


「……」


アヤノさんは用意がいいんだか、悪いんだか、よくわからない。

だが俺もアヤノさんも、空腹だ。

飴玉は1個しかない。

……。


俺か、アヤノさんが、あきらめるしかない。


もしこれが何かのゲーム画面なら、

選択肢が2つ出て、

・俺が飴玉をもらう

・アヤノさんに飴玉をあげる

という画面になったに違いない。


だがこれはゲームではなく、現実である。

つまり「選択肢以外の行動」も選ぶことができる。


「選択肢以外の行動」の中には、

アヤノさんが二度と口を訊いてくれなくなるような方法もあったが、

そんなことをするわけにはいかない。

俺は正常な人間なので、もう少し冷静で現実的な選択をすることにした。


「アヤノさん……制御室に戻ろう」


「えっ」


「制御室の机の中には、お菓子や飴玉がまだ残っているんだろう?

 それを口にして、休憩して、地下書庫には再チャレンジしよう。

 シオン先輩たちと合流して、人手を増やしたうえで、

 もう1回地下書庫に戻るんだ。今は……撤退するしかない。

 最後の体力が残っているうちに引き返すんだ。

 さもなくば遭難してしまうだろう。

 こんな人工的な建物の中で」


「そうですね。戻りましょう。

 まだ時間はあるでしょうし」


こうして、俺とアヤノさんは、

最後の力を振り絞り、来た道を引き返すのだった。


もう少し捜索すれば、予備システム切替手順書が発見できたのではないか?

後ろ髪を引かれる思いだった。

だがこんなところで倒れるわけにはいかない。

まだ体力が残るうちに、引き返すのが賢明なのだ……。

俺は必死に言い聞かせて、強い意志で制御室へ戻る道を進んだ。



つづく

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