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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
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アリサの小屋2

アリサのいる小屋に入った俺たち。

エルマは勝手にはしゃいで二階に駆け上っていった。

その直後、エルマの悲鳴が二階から聞こえてきた。


エルマが危険だ。俺たちは急いで二階へ駆けつけた。


「きゃー! お父さん! 助けて!」


「かわいい! かわいい! なにこれ、かわいい!」


じたばたするエルマに、しっかり抱き着いて、

はなそうとしない、一人の女性がいた。


まぎれもなくアリサだ。

アリサは、獲物を見つけた肉食動物みたいに、

エルマに激しく抱き着いていた。


「はーなーしーてー!」


「かわいいいいいい!」


ほっとした。

竜や不審者に襲われてなくてよかった。

アリサに襲われているだけだった。

でもこのままだとアリサが「かわいい病」で発狂しそうだったので、

冷静にさせるべく、声をかけることにした。


「アリサ、何しているんだ!

 俺だ、ユートだ!

 シオン先輩も一緒だ!」


「ユート!?

 シオン先輩も……」


「はっ。私ったら……。

 どうしてこんな小さな子に抱き着いていたのかな。

 子供は好きだけど、こんなに激しく抱き着いたことは、なかったのに……。

 ごめんね。私はアリサ。この子のお名前は?」


俺はぞくっとした。

アリサは、無意識に、エルマの正体をかぎつけているのかもしれない。


エルマは、もともと俺の飼育竜エルミーだ。

竜の制御魔法が失われた結果、なんらかの突然変異で

エルミーは、人間の少女である「エルマ」となってしまった。


「どうしたの、ユート。

 この子の名前は……?」


「あ、ああ。すまない。名前はエルマだよ」


「エルマ……どこかで聞いたような名前」


「気のせいだよ」


アリサも竜が好きだ。

目に入れても痛くないくらいに。

(竜なんて目には入らないだろうけど)


アリサは、愛情あふれる飼育で、

自ら進んで何十匹もの竜を育てている。

飼育員仲間から評判はよいが、

あまりの働きぶりに心配の声も聞こえるほどだ。


そんなアリサに、俺も負けじと、

愛しの飼育竜エルミーの話ばかりしていた。

だからアリサもエルミーのことはよく知っているはずだ。


それに「エルマ」という名前でぼやかしてはいるが、

エルマは、エルミー本人だ。


アリサは感づいてしまっているだろうか。

俺はびくびくしながら話を続ける。


「アリサ。無事でよかった。ケガはないか」


「ケガはないよ。

 あのね……。今までのことを話すね。

 事件が起きる前から、ずっと森林エリアにいるんだけど

 今までどおりずっと飼育を続けていたの。

 最初は、制御を失った竜の飼育をできるか、怖かったけど

 みんな、私の飼育を大人しく受けてくれて……。

 事件なんて発生していない。そう思った」


「何かあったの?」


「この小屋のほうに、何人か逃げてきたの。

 みんな言うの。『竜に襲われた』って。

 私は耳を疑った。

 でも、事件が起きたことをはっきり実感したの。

 ああ、もう制御魔法は失われて、竜が自由になっているんだ、って。

 たいへんなことになったな、って」


「そうなのか。

 逃げてきた人たちって、もしかして……」


「竜の解放団の人たちだよ。

 カノンちゃんも、そこで初めて会ったの。

 カノンちゃんたちは言ってたよ。

 竜の解放は喜ばしいことだ。って。

 でも、そのぶん襲われるようになった。って。

 しばらくここにいていいか?って言われたから、

 私は『いいよ』って答えたの。

 そこから、私はずっと、カノンちゃんたちと一緒にいる」


「そういうことか……。

 だから竜の解放団の人たちと一緒だったんだな」

 

「カノンちゃんたちは、竜の解放団活動を続けるため、

 この島で寝泊まりしてたらしいの。

 今回の事件に巻き込まれ、森林エリアに逃げてきたんだって。

 そこを私が保護……というのも変なんだけど。

 まあ、保護したんです。

 竜の自由について語っていただいて、

 私も楽しく聞いてました」


「そうか……」


アリサは、楽しそうにおだやかに話す。

アリサにとって竜の解放団は、

そこまで嫌悪感のある連中ではなかったようだ。


アリサも竜の解放団も、ともに竜が好きで、

思想信条や行動は違えども、対立はせず共生しているようだ。


でも、ここで、「アリサの竜を使いたい」と申し出てしまうと

アリサはどんな顔になるのだろう。

取り乱すだろうか。

我が子を戦場に送るような物言いに、

さすがのアリサも怒ってしまうのではないか。

そう思い、俺は、言葉をためらった。

俺はしばらく黙り込む。

不思議に思ったアリサが俺にたずねてくる。


「どうしたの? ユート……。

 私に何か用があるの?」


「ええっと……いや、その……」


ためらう俺の気持ちを推し量ってか、

シオン先輩が「あの件、私が話そうか?」と申し出る。

続いてカノンも「いや、私から話そう」とさらに申し出る。


シオン先輩とカノンは、互いに見合い、どうぞどうぞと言い出した。

アリサは、その様子を見て、

「えっ、なんなの?」と言いたそうな表情をする。


アヤノさんに至っては、

「アリサさんに催眠術をかけて許可を得たことにしておきましょう」

と物騒な提案をしてきたので丁重に断った。



仕方ない。

やはり言うしかない。

俺は意を決して口にした。


「アリサさんの竜を俺にください!」


緊張感がマックスになった結果、舌が回らなくなり、

誤解を与えるような言い回しをしてしまった。

さすがに心優しいアリサも、

どこぞの馬の骨と対面した父親のような表情をした。


「は?」


血管の浮き出たアリサの顔を初めて見てしまい、

俺は狼狽するも、すぐに冷静な感情を取り戻した。


「あ、いや……待ってくれ。

 違うんだ。

 これは告白とかじゃなくて……。

 アリサの飼育竜を使いたいんだ。

 制御室を占領している犯人たちを取り押さえるために。

 お願いだ。

 本当はこんなこと言いたくなかった。

 アリサの飼育竜を戦わせるのは俺もつらい。

 でも、他に戦力が無いんだ」


「いいよ」


アリサはあっさり了解してくれた。

言うだけ言ってみるものだな。

もっと揉めるかと思っていた。


「そのかわり……」


ん? 不穏な表情をしているけど大丈夫か?


「エルマちゃんをちょうだい」




つづく

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