第6話 【 記憶の恢復 】
「これより『呪解ノ儀』を執り行います」
巫女装束に身を包んだ命と京香。
京香は五行八卦の描かれた内側に、命はその外側に立つ。
「……私は外に出てようかな」
小夜が部屋の外に出ていこうとする。
「居たほうがいいですよ。外は今、『神道』に繋がってますから」
そう言って、薄っすら笑みを浮かべる命。
小夜は「ははっ……」と苦笑いをしながら、元の位置へと戻る。
今、コイツから目を離せばどうなるかわからない。
それならコイツも一緒に祓ってしまえばいい。
『ツクモガミ』とか言っていたが、コイツからは『陽の気』が一切感じられない。
逆に空気が淀むほどの『陰の気』を放っている。
コイツは確実に”黒”だ。
「では、改めて。
これより『呪解ノ儀』を執り行います。
被呪者は決して印の外側へ出ないようにしてください。
もし出てしまった場合は、被呪者諸共祓わなければいけなくなります」
「……はい」
京香の手が震えている。
だがもう遅い。
儀式はもう始まっている。私がそっちに行くことはできないし、京香がこっちに来ることもできない。
「……京香さん、一度深呼吸をしてください」
京香は言われた通り深呼吸をする。
まだ、手の震えは止まっていない。
「京香さん、怖がらなくても大丈夫です。
――私の目を見つめてください」
「……?」
京香は困惑しながらも、命の目を見つめる。
『――安寧ノ詞』
命がそう呟くと、京香の手の震えが止まる。
表情もどこか落ち着いている。
「どうですか?少しは気持ちも落ち着いたでしょ?」
「……さっきよりかは」
「それはよかった」
命も深く呼吸をする。
そして――
「それでは『祓浄ノ詞』を詠ませていただきます」
『――祓浄』
そう言い放った瞬間、部屋の空気が一気に変わる。
部屋の上層と下層で空気の重さが違う。
上層は重いのに、下層はやけに軽い。
『陰は陽に、闇は光に。
失われし理を今此処に正し、在るべき姿へと還します。
禍つ不浄の魂を断ち、清浄の魂を縁く。』
『急急如律令――』
一瞬、命の身体が「がくっ」と崩れる。
咄嗟に足に力を入れ、倒れるのを防ぐ。
今ここで力尽きるわけにはいかない。
力尽きるなら、全て終わった後にしろ。
「苦しい」という言葉を噛み殺し、再び詞を詠み始める。
『印・詛・祟・憑・縛・蝕。
全ての呪を持つ穢れよ。
祓い給え、清め給え
我が命を持って、其の身の呪縛を解き放たん』
詞を詠み終えた瞬間、上層と下層の空気が入り混じる。
そして、京香が立っている印が発光しだす。
『――神浄・『縛解』』
京香の身体に結び付く黒く淀んだ鎖が姿を現す。
これが京香を縛っていた”呪い”だ。
これからその鎖を断ち切る。
「京香ちゃん、戻ってきて――!!」
手刀で鎖を一太刀入れる。
瞬間、パキッ……という音を立て、鎖が解け落ちる。
これで呪いは解けた。
京香ちゃんの記憶も戻るはず。
だが、最後まで油断するな。儀式を終えるまでが『呪解ノ儀』だ。
装束に滲む汗。
切れそうな血管。
垂れる鼻血。
悲鳴を上げる四肢。
もう身体も限界だ。
だけど。
ここで終わるわけにはいかない。
命は目を瞑り、深呼吸をする。
そして。
「――これにて『呪解ノ儀』を終えます」
言い終えた瞬間、命と京香にドッと疲れが現れる。
アイツは――祓えてないか。まあいい、京香の呪いが解ければそれだけで。
「京香、大丈夫?」
小夜が京香の下へと駆けつける。
京香はぐったりとし、呼吸が荒い。
だが、笑みを浮かべ、
「大丈夫。心配かけて……ごめんね、小夜、命ちゃん」
記憶が戻った。
京香の記憶が、戻った。
解呪したから当然なのだが、記憶が戻った。
「……よかった。 本当に、よかった……!!」
涙が零れ落ちる。
小夜も涙を流し、京香に抱き着く。
「お待たせ。 姫宮京香、今復活しました!!」




