第4話 【 欠けた記憶 】
京香が呪いをかけられたのは恐らく、妹が病に侵された頃だ。断言してもいい。
だが、何故彼女に呪いをかけたかがわからない。
京香のことを恨んでいたのか、若しくは妹の方か。それとも両方か。
無差別という考えもある。
「……ほんとに面倒くさいな、コイツは」
眉間にしわを寄せ、誰が呪いをかけたのかを考える。
それさえわかれば後は呪いを解いてもらえばいいだけだ。
そうすればこの”負”の連鎖は止まるはず――だ。
今はそう信じよう。
「……ねぇ、小夜? あなた神様なら誰か知り合いにいないの?」
いつの間にかベッドに戻り、布団に包まったまま頭だけを出す京香は、私にそんな質問をしてくる。
別にいないわけではない。そりゃ神様だから呪いの一つや二つ簡単に解けるだろう。
でも。
「私の知り合いにそんな奴はいないよ」
「えぇ……神様でしょぉ?」
ぶーたれる京香を横目に、私はベッドの隅に座る。
先も言った通り、解呪できる神はいる。だが、その対価が重い。
質の悪い神は生命力の半分を持っていく。そんなのに京香を合わせたくない。
京香を死なせたくない。
「探せばいると思うけど私、友達いないから」
「私と一緒だ!」
指を指しながら笑顔になる京香。
「はは、そう……だね」
私は苦笑いでそう答える。
違う。君は私と一緒なんかじゃない。
君の周りには、たくさんの友達がいたじゃないか。
たくさん君を助けてくれた親友が。幼馴染がいたじゃないか。
どうして……
「どうして忘れてしまったの……京香」
「どうしたの、小夜? お腹痛い?」
心配そうに顔を覗き込む京香。
私はすぐに表情を笑顔に戻す。
「だ、大丈夫! それより今後のことを考えよう」
「今後ねぇ……」
再び椅子に座らせ、机の上にノートとペンを置く。
「とにかくこういうのは、専門家に頼むのが一番だ」
「専門家、かぁ……でも私お金ないよ?」
「大丈夫、そこに関しては伝手があるから」
「友達いないんじゃないの? 裏切り者!」
「別に裏切っちゃいないよ。ただの知り合いだ」
「むー」と唸りながら睨みつけてくる京香。
本当に友達なんかじゃないんだ。信じてくれ。
「と、とにかくそいつに頼めば、呪いも解いてくれるわ」
「……外に出るの?」
「じゃないとそいつに会えないでしょ?」
「そうだけどぉ」と言いながら、椅子で船漕ぎをする。
まぁ、外への抵抗があるのも仕方がない。
部屋に閉じこもって早1年。
学校にも行かず、風呂とトイレ以外自室に籠りきりだったんだ。
それに――
「まだ「可哀想な子」って言われるかも……」
「可哀想な子」
彼女にとってその言葉は何事にも代えられないくらい、嫌いな言葉だ。
その言葉を、両親を失ってから。
いや、妹を失ったときからずっと言われ続けている。
「……分かった。じゃあ外には出なくていいわ。
でも、ここには連れてきていいでしょ?」
「うーん……まぁ、それなら……」
歯切れの悪い返答だが、了承は得た。
本当は京香を連れ出したかったが、仕方がない。
ここに連れてこられるだけでも良しとしよう。
「で、どんな人なの? その呪いを解いてくれるって人は」
「そうね……あなたと同い年の女の子だけど」
「同い年なの!? えぇ……どうしよう。上手く話せるかなぁ」
心配そうに私の顔を見る京香。
そんな京香に私は優しく微笑む。
「大丈夫、京香ならちゃんと話せるし仲良くなれるわ」




