第3話 【 ツクモガミ 】
「私は小夜。日本人形の『つくもがみ』だ」
小夜と名乗るその少女は、腰に手を当て、胸を張りながらそう言った。
青い瞳が爛爛と輝いている。
「つくも……がみ?
ってことはあなたは神様なの?」
「そう……だね、うん。神様だね」
何か歯切れの悪い回答だな。
ちょっと怪しい。いや、そもそも『つくもがみ』というだけで怪しい。
そもそも付喪神っていうのは、百年経った道具に魂が宿ったモノなんだが、小夜はなんだか違う気がする。
「神様っていうか、神様見習いってところかな」
「神様見習い?じゃあ神様じゃないんだ」
「正式にはね。そもそも君の言う『付喪神』と私たち『憑喪神』は、根本から違うからね」
そう言って小夜は、淡々と説明を始めた。
「まず君の考えてる『付喪神』は、百年経った道具に魂が宿ったモノ。そうでしょ?」
「うん、それしか知らない」
「そうだろうね」と言い、机の上からノートとペンを手に取る。
「で、私たち『憑喪神』って言うのは、道具に憑りついたモノ。簡単に言うと憑依みたいなものだよ」
「憑依……」
「漢字で書くと、違いが分かりやすいと思うよ」
そう言って、ノートを一枚破るとそこに文字を書き始める。
「君が思っているのは『付喪神』。こっちはモノが『付』く。
で、私たちの方は『憑喪神』。『憑』りつくモノ」
「『付く』と『憑く』で違うんだね」
私の知っている付喪神じゃないことが分かった後、いつの間にかスーツ姿に眼鏡をかけた小夜に、机の前に座らされる。
そして開いたノートを前に、ペンを握らされる。
「で、本題だ。君は今後、どうしたいんだ?」
いきなりそんなことを聞いてきた。
何が目的なんだ?
「どうしたいって……なんで小夜に言わないといけないの?」
「それが、香苗の望みだから」
「おばあちゃんの?」
さっきから香苗、香苗、と言っているが、祖母とどういう関係なのだろうか。
祖母も小夜のことを知っているのか?
だからお盆に日本人形を乗せていたのか?
だとしても。
「これからのことなんて……わかんないよ」
妹が死に、両親も死んだ。
私に残っているものは何だ?
私はこれから、どうしていけばいいんだ?
「……じゃあ質問を変える。君は――」
「両親と妹の死が、偶然じゃなかったら?」
「!?」
偶然じゃない。
つまり、誰かが意図的に引き起こしたとでも言うつもりなのか?
「……ありえないよ、そんなの。
パパとママの事故がそうだったとしても、日向の死は――」
「病だと思っていたものが実は、呪いだったら?」
「のろ……い?
なんで?なんで日向に呪いがかけられるの?おかしいじゃん!!」
「そう言うものなんだよ、呪いってのは」
「そう言うものって……」
本来、呪いというものは悪意を持って、人や社会に対し災厄をもたらす行為だ。
じゃあ何だ?妹を恨んだ誰かが、呪いをかけたっていうのか?パパやママにも?
そんなのありえない。だってパパもママも日向も、人に恨まれることなんかしていない――
「別に対象がその人である必要はないんだよ」
私の思考を読んだかのように答える小夜。
ペンを取り、再びノートに何かを書きだす。
「いいかい?呪いってのは局所的なものもあれば、広範囲に渡って効果を広げられるものがあるんだ」
「今回は広範囲の方。それに、かけられたのは君の妹でも両親でもない」
「じゃあ、誰――まさか!!」
私は小夜と視線を合わせる。
「君だ」「私だ」
小夜がフッ……と笑う。
「じゃあ今後どうすべきかわかるよね?」
「……うん。でも、それをどうやって調べれば……」
「君の周囲には、こういうのに適した人材がたくさんいるだろう?」
「? なんで?」
「……覚えていないのか。これも呪いの効果ってことかな」
小夜がぽつりと呟く。
私はその言葉が小さすぎてよく聞こえなかった。




