第2話 【 喋る人形 】
「京香ちゃん、ご飯置いておくね」
今日も扉の前から、祖母の声が聞こえる。
流石に2日前から何も口にしていないから、今日ぐらいは食べておこう。ちょっとだけ気分もいいし。
ベッドから下り、扉をゆっくり開ける。
祖母の姿は無かったが代わりに、お盆に置かれたおにぎり二つとお茶、そして――
「……日本人形?」
何故日本人形が一緒に置かれているのだろうか。
もしかしてこれも食べ物――ではないか、流石に。
ま、考えても仕方がない。お腹も空いたし早くおにぎりを食べよう。
おにぎりとお茶を手に取り、そのまま扉を閉める。日本人形はそのままお盆の上に放置。
部屋に置いといても邪魔だし。もしかしたら祖母が片付けようとして忘れたものかもしれないし。
何にせよ、あの日本人形は少し薄気味悪い。
「……あ、鮭だ」
手が大きい祖母のおにぎりは成人男性の握りこぶし1.5個分の大きさがある。
だから、中に入っている具材もかなり大きい。
今食べてるおにぎりには、焼き鮭のほぐし身が入っているのだが、恐らくこの量は一匹分入ってる。
出来立てだからかまだ温かいおにぎりを一口、もう一口と頬張っていく。
ほんのり甘いお米の味と、焼き鮭の塩味がいい塩梅になっている。
こうもおいしいと、食べなかったときの罪悪感が更に増してくる。
一つ目を食べ終わり、もう一つのおにぎりに手を伸ばす。
しかし、なんで日本人形なんて置いてあったのだろうか。
何処かに仕舞うつもりでそのまま置いていったのか、それとも単にボケたのか。
まぁ、後者は無いと思うが。
お茶を飲みつつ、二つ目も完食する。因みに具材は梅干しだ。種無しが4個入ってた。
コップを返却するためにもう一度扉を開く。
お盆は下げられていたが、日本人形だけはそのまま放置されていた。
「これは……持ってけってことなのか?」
仕方がなく日本人形を部屋に持ち込む。
よく見ると昔、祖母の部屋に飾ってあった日本人形だ。
やっぱり、どこかに仕舞うつもりで忘れたのだろう。
「戻しておくか」
扉に手をかけ、日本人形を先ほどの位置に戻そうとした時だった。
ピクッ……と日本人形の手が動いた気がした。
それは腕が取れそうになったとか、グラついたとかそう言うのではない。
指が。指の関節が動いたのだ。
――あなたは香苗の想いを踏みにじるの?
突然誰かに話しかけられた。
だが、部屋にも廊下にも私以外誰もいない。
――こっちよ、こっち
手元――日本人形から声が聞こえる。
視線を手元に下げると――
「やっと気づいたのね」
さっきまで手に持っていた日本人形は無く、その代わりモチモチとした弾力の頬を包んでいた。
陶器のように白く滑らかな素肌。
真っ直ぐで艶のある黒髪。光が当たると、紫に淡く光っているのがわかる。
切れ長――とは程遠い、ぱっちりとした大きな目。
そして――
「私を放置するなんて、あなたも香苗もほんと酷いわ!」
少女のような可愛らしい声。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声を上げながら、尻もちをついた。
日本人形が。
さっきまで手に持っていた日本人形が、人間に変わった。
「ゆ、夢?それとも幻?」
「どっちも違うわよ。これは現実」
少女はそう言いながら、私の目の前に手を差し伸べる。
そして。
「私は小夜。日本人形の『憑喪神』よ」
そう名乗った少女の目は、青いビー玉のようにキラキラと輝いていた。




