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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第49話 「初めての約束」

ゴールデンウィークが近づいていた。



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校庭の桜はすっかり葉桜になり、


新緑が学校を包んでいた。



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昼休み。



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図書室。



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その日は美月が先に来ていた。



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窓際の席で文庫本を読んでいる。



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「こんにちは」



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直人が声をかける。



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「こんにちは」



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美月は本を閉じて微笑んだ。



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以前なら。



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この一言だけでも緊張していた。



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今は少しだけ自然に話せる。



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「その本?」



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直人が表紙を見る。



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「面白い?」



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美月は頷いた。



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「すごく面白いよ」



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「読み終わったら貸そうか?」



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思いがけない言葉だった。



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「いいの?」



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「もちろん」



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直人は少し戸惑う。



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誰かから本を借りる。



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それだけなのに。



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特別なことのように感じた。



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「ありがとう」



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美月は笑う。



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「じゃあ約束ね」



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約束。



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その二文字が胸に響く。



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放課後。



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美月は本を紙袋に入れて持ってきた。



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「はい」



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両手で受け取る。



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「大事に読むね」



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「感想楽しみにしてる」



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短いやり取り。



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でも。



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直人は紙袋を宝物のように抱えて帰った。



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家に着く。



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机の上へそっと置く。



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本を開く前に、


紙袋を見つめる。



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その中には本だけではなく、


美月との約束が入っている気がした。



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読み始める。



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物語も面白い。



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だが。



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ページの端に貼られた小さな付箋が目に入る。



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『この場面好き』



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美月の字だった。



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小さく丸い文字。



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直人は思わず笑顔になる。



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そのページを読む。



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「なるほど」



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本の感想だけではない。



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同じ場面で笑い、


同じ場面で考える。



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そんな時間を共有しているようだった。



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夜。



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ノートを開く。



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『今日は約束ができた。』



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『本を返す約束。』



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『たったそれだけなのに嬉しい。』



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書き終える。



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そして少し考える。



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以前の自分なら。



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誰かと約束をすること自体が少なかった。



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約束とは。



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誰かが自分を待っていてくれること。



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また会う理由があること。



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それが嬉しかった。



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まだこの頃の直人は知らない。



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この一冊の本が、


二人の距離をさらに縮めるきっかけになることを。



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そして。



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約束には、


守れるものと、


どうしても守れなくなるものがあることを。



---


五月の風が窓から吹き込む。



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本のページがゆっくりとめくれた。



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直人はその物語とともに、


自分自身の新しい物語も少しずつ歩み始めていた。

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