第47話 「クラス替え」
四月。
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高校二年生、始業式。
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校門の桜は満開だった。
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風が吹くたびに、 花びらが静かに舞い落ちる。
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直人は校舎へ向かう。
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胸の鼓動が少し速い。
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今日だけは、 いつもとは違う緊張だった。
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昇降口の前。
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新しいクラス名簿が貼り出されている。
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大勢の生徒が集まり、 自分の名前を探していた。
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「二組だ!」
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「また一緒だ!」
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歓声があちこちから聞こえる。
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直人も人混みの中へ入る。
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指で名前を追う。
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二年三組。
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自分の名前を見つけた。
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ほっと息をつく。
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その瞬間。
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もう一つの名前を探し始めていた。
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藤崎 美月。
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一行ずつ確認する。
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ない。
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もう一度見る。
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ない。
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最後まで見ても。
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なかった。
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胸の奥が少し冷たくなる。
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別のクラス。
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そういうことだった。
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「直人!」
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後ろから声がする。
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翔だった。
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「同じクラスだな!」
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笑顔だった。
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直人も笑顔を作る。
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「うん」
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嬉しい。
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本当に嬉しい。
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でも。
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心のどこかに、 ぽっかり穴が開いたようだった。
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新しい教室。
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新しい席。
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新しい先生。
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自己紹介。
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全部が新しく始まる。
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でも。
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隣には美月はいない。
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昼休み。
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無意識に図書室へ向かう。
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扉を開ける。
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窓際を見る。
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誰もいない。
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少し遅れて。
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美月が入ってきた。
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目が合う。
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「あっ」
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二人とも少し笑う。
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「クラス別だったね」
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美月が言う。
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「うん」
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短い返事。
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少しだけ寂しい。
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でも。
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美月は続ける。
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「でも図書室なら会えるね」
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その一言で、 胸が軽くなる。
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「うん」
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今度は自然に笑えた。
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放課後。
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帰り道。
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去年のように一緒には帰れない。
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教室が違う。
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時間も違う。
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それでも。
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図書室という場所がある。
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それだけで十分だった。
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夜。
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布団の中。
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直人は思う。
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一年前なら。
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クラス替えだけで、 世界が終わったように感じていたかもしれない。
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でも今は違う。
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離れても。
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会える場所がある。
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繋がりは消えない。
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そう信じたいと思えた。
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まだこの頃の直人は知らない。
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人との距離は、
教室の場所だけでは決まらないことを。
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しかし同時に。
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環境が変わることで、
少しずつ心の距離も変わっていくことを。
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満開だった桜は、
風に吹かれながら静かに花びらを散らしていた。
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その春の日。
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直人は新しい一年を歩き始めた。
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そして。
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気づかないうちに、
人生の新たな試練も始まろうとしていた。




