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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第46話 「春休みの手紙」

春休み。



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学校へ行かない日々が続く。



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朝は少しゆっくり起きる。



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本を読む。



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宿題をする。



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家の手伝いをする。



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穏やかな毎日。



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それなのに。



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どこか物足りない。



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昼休みになると、 無意識に時計を見てしまう。



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「今ごろ図書室かな」



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そんな考えが浮かぶ。



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もちろん。



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学校は休みだ。



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誰もいない。



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それでも習慣は簡単には消えなかった。



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ある日の午後。



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机の引き出しを整理していると、 一枚の便箋が出てきた。



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真っ白な便箋。



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直人は何となくペンを取る。



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宛名を書く。



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藤崎 美月さんへ



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そこで手が止まる。



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何を書けばいいのだろう。



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「一年間ありがとう」



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それは書ける。



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「二年生でもよろしく」



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それも書ける。



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でも。



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そんな手紙を渡す勇気はない。



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それに。



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住所も知らない。



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結局。



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便箋には何も書かないまま、 折りたたんだ。



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引き出しへ戻す。



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夕方。



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翔からメッセージが届く。



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『春休み暇?』



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短い文章。



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直人は少し笑う。



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『暇』



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すぐ返信する。



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『今度遊ぼう』



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『いいよ』



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送信する。



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以前なら。



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誰かから誘われること自体が少なかった。



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少しずつ。



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自分の世界が広がっている。



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そう感じた。



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夜。



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窓を開ける。



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風が暖かい。



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春が近づいていた。



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直人はふと思う。



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二年生になったら。



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また美月と話せるだろうか。



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同じクラスになれるだろうか。



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図書室で会えるだろうか。



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答えはない。



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でも。



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期待してしまう。



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布団へ入る。



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眠る前に思い浮かぶのは、 やっぱり美月だった。



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まだこの頃の直人は知らない。



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期待は、


人を前向きにもするが、


時には大きく傷つけることもあることを。



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そして。



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始業式の日。



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教室の前で貼り出されるクラス名簿が、


彼の心を大きく揺さぶることを。



---


春の夜風は優しかった。



---


直人は静かに目を閉じ、


新しい春を待ち続けた。

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