第45話 「最後のホームルーム」
三月。
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高校一年生、最後の日。
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教室にはいつもとは違う空気が流れていた。
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机の中を片づける生徒。
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黒板に落書きをする生徒。
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写真を撮り合うグループ。
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笑い声が絶えない。
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担任が教室へ入る。
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「じゃあ、最後のホームルームを始めます」
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教室が静かになる。
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一年間を振り返る話。
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文化祭。
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体育祭。
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試験。
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一つ一つの思い出が語られる。
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直人は静かに聞いていた。
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一年前。
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この教室に入るだけで緊張していた。
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友達もほとんどいなかった。
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失敗ばかり恐れていた。
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でも。
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今は違う。
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翔がいる。
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そして。
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隣には美月がいる。
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担任が笑って言う。
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「四月になればクラス替えだ」
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「またどこかで会えるだろ」
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教室から笑いが起こる。
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直人だけは笑えなかった。
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「また会える」
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その保証はない。
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同じクラスになるとは限らない。
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昼休み。
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図書室へ向かう。
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美月も来ていた。
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窓際の席。
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いつもの景色。
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「今日で最後だね」
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美月が小さく言う。
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「うん」
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直人も頷く。
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しばらく沈黙。
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でも。
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嫌な沈黙ではない。
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二人で窓の外を見る。
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校庭。
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少しだけ膨らみ始めた桜の蕾。
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「二年生になっても」
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美月が言葉を続ける。
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「図書室には来ると思う」
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直人は顔を上げる。
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「私、本読むの好きだから」
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少し笑う。
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その言葉だけで安心した。
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クラスが離れても。
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会える場所がある。
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そう思えた。
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帰る時間。
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教室で荷物をまとめる。
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美月が立ち上がる。
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「一年間ありがとう」
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直人は少し驚く。
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そして。
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「こちらこそ」
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言葉が自然に出た。
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「ありがとう」
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二人は軽く頭を下げる。
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それだけ。
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握手もない。
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特別な約束もない。
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でも。
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直人にとっては、 十分すぎる時間だった。
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帰り道。
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夕日が校舎を赤く染めている。
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一年前とは違う景色。
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違う自分。
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全部。
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少しずつ変わった。
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夜。
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机の引き出しを開ける。
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一年間で読んだ本。
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文化祭の資料。
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進路希望調査票の控え。
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どれも思い出になっていた。
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その中に一枚。
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図書室の貸出期限票が挟まっていた。
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美月と初めて同じ本を読んだ日のもの。
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直人はそっと本に戻した。
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まだこの頃の直人は知らない。
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「また会える」
という言葉は、
時に願いであって、 約束ではないことを。
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そして。
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高校二年生の春が、
彼の人生を大きく動かす始まりになることを。
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高校一年生は終わった。
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不安だらけで始まった一年は、
少しだけ希望を抱ける一年になっていた。




