第43話 「言えなかった気持ち」
二月も終わりに近づいていた。
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昼休み。
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図書室。
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窓際の席。
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そこはもう、 二人にとって自然な場所になっていた。
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本を読む。
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少し話す。
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また本を読む。
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沈黙になっても気まずくない。
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直人は、 この時間が好きだった。
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ある日。
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美月が本を閉じて言う。
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「直人くんってさ」
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「うん?」
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「最初は話すの苦手な人だと思ってた」
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直人は苦笑する。
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「間違ってないよ」
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「でも今は違う」
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美月は静かに笑った。
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「話すのが苦手なんじゃなくて、ちゃんと考えてから話す人なんだね」
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その言葉に、 直人は息をのんだ。
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今まで誰も、 そんなふうに言ってくれたことはなかった。
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遅い。
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考えすぎ。
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返事が遅い。
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そう言われることはあった。
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でも。
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美月は違った。
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欠点ではなく、 そのまま受け止めてくれた。
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その瞬間。
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胸の奥が熱くなる。
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「あの……」
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言葉が出る。
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今なら言えるかもしれない。
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ありがとう。
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君のおかげで救われた。
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そう伝えたい。
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でも。
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喉で止まる。
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怖かった。
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伝えたら、 今の関係が変わるかもしれない。
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重いと思われるかもしれない。
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だから。
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「……ありがとう」
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それだけだった。
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美月は微笑む。
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「どういたしまして」
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それで会話は終わった。
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帰り道。
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直人は何度も後悔する。
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もっと伝えられたはずだった。
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でも。
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言えなかった。
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夜。
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部屋。
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机に向かう。
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ノートを開く。
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誰にも見せないページ。
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そこへ書く。
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『ありがとう。』
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『君と話せるようになって、学校が少し好きになった。』
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『自分のことを嫌いじゃなくなれた。』
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書いて。
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少し眺める。
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そして。
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ページを閉じる。
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誰にも見せない。
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見せる勇気はなかった。
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布団に入る。
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目を閉じる。
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今日は。
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少しだけ苦しかった。
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嬉しいのに。
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伝えられない。
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近づけたのに。
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あと一歩が踏み出せない。
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まだこの頃の直人は知らない。
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言えなかった言葉は、
時間が経っても心に残り続けることを。
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そして。
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人は失ってから、
「あの時伝えておけばよかった」
と何度も思い返すことになることを。
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冬の夜。
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ノートの最後のページには、
たった一言だけが残っていた。
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「ありがとう。」




