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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第42話 「初めての放課後」

二月。



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冷たい風の中にも、 少しだけ春の匂いが混じり始めていた。



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放課後。



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ホームルームが終わる。



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教室には、 まだ半分ほどの生徒が残っていた。



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部活動へ向かう者。



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友達と話す者。



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宿題を始める者。



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直人は鞄に教科書をしまう。



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帰ろう。



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そう思った時だった。



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「直人くん」



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隣から声がする。



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美月だった。



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「今日、この本返しに図書室行くんだけど」



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文庫本を見せる。



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「一緒に行く?」



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時間が止まったようだった。



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誘われた。



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自分が。



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「……うん」



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声が少し裏返る。



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美月は小さく笑う。



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「じゃあ行こう」



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二人で教室を出る。



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廊下を歩く。



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並んで歩くのは初めてだった。



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何を話せばいい。



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頭の中で考える。



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すると美月が先に話しかける。



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「最近、寒いね」



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「うん」



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「朝起きるの大変」



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「分かる」



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たわいもない会話。



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でも。



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直人には十分だった。



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図書室へ着く。



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本を返却する。



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新しい本を探す。



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本棚の前で立ち止まる。



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「これ面白かったよ」



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美月が一冊の文庫本を差し出す。



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直人は受け取る。



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表紙を見る。



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聞いたことのない作品だった。



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「ありがとう」



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「感想聞かせてね」



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その言葉が嬉しかった。



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帰り道。



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校門まで一緒に歩く。



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途中で道が分かれる。



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「また明日」



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美月が手を軽く振る。



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「また明日」



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直人も小さく手を上げる。



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その姿が見えなくなるまで、 目で追ってしまう。



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家に着く。



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母が言う。



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「今日は帰るの遅かったね」



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「図書室に寄ってた」



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嘘ではない。



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でも。



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全部ではない。



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部屋へ入る。



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今日借りた本を机に置く。



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表紙を見るだけで、 自然と笑顔になる。



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布団に入る。



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目を閉じる。



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今日の帰り道を思い出す。



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並んで歩いた時間。



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「また明日」



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その言葉。



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今まで。



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明日が楽しみなんて思ったことは、 ほとんどなかった。



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でも今は違う。



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明日になれば、 また会える。



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それだけで十分だった。



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まだこの頃の直人は知らない。



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この何気ない放課後が、


何年経っても忘れられない思い出になることを。



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そして。



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「また明日」という言葉が、


決して当たり前ではないことを知る日が来ることを。



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冬の終わり。



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直人は人生で初めて、


誰かとの「明日」を楽しみにしていた。

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