第41話 「隣で笑う人」
席替えから一週間。
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直人は少しずつ、 新しい毎日に慣れ始めていた。
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朝。
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教室へ入る。
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「おはよう」
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隣から聞こえる声。
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「おはよう」
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自然に返せるようになった。
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最初の頃のような緊張は、 少しずつ薄れていた。
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もちろん、 まだ心臓は少し速くなる。
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それでも。
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言葉が出なくなることは減った。
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授業中。
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先生が問題を出す。
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美月は小さく首をかしげる。
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「ここ、どういう意味?」
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教科書を見せながら聞いてくる。
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直人は説明する。
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ゆっくり。
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言葉を選びながら。
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「なるほど」
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美月は笑う。
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「ありがとう」
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その笑顔を見るたびに、 胸が温かくなる。
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昼休み。
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二人で本の話をする。
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「最近どんな本読んでる?」
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「これ」
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文庫本を見せ合う。
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「今度読んでみる」
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そんな約束が増えていく。
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放課後。
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教室で宿題をしていると。
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美月が言う。
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「直人くんって」
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「うん?」
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「説明するの上手だね」
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思わず止まる。
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上手。
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そんな言葉、 初めて言われた。
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「そうかな」
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「うん」
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「ちゃんと順番に話してくれるから分かりやすい」
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直人は少し照れる。
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今まで。
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話すのが遅い。
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説明が長い。
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そう言われることはあった。
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でも。
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美月は違った。
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同じ特徴を、 長所として見てくれた。
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帰り道。
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翔と歩く。
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「最近楽しそうだな」
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「そう見える?」
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「見える」
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翔は笑う。
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「良かったじゃん」
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短い言葉。
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でも。
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直人には十分だった。
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夜。
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机の上には、 美月が勧めてくれた本。
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ページをめくる。
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以前とは違う。
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ただ読むだけではない。
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「この場面、美月は好きって言いそうだな」
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そんなことを考えながら読む。
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一人で読んでいるのに。
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どこか二人で読んでいるような気がした。
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布団の中。
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直人は思う。
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自分は。
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少しだけ変われたのかもしれない。
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人と話すことが怖くなくなった。
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学校へ行くことも苦しくなくなった。
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全部。
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美月のおかげだ。
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そんなふうに考え始めていた。
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まだこの頃の直人は知らない。
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一人の存在だけを心の支えにしてしまうことの危うさを。
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そして。
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幸せな時間ほど、
失った時の痛みが大きくなることを。
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窓の外では夕焼けが街を赤く染めていた。
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その温かな光の中で。
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直人は高校生活で初めて、
「この時間がずっと続けばいい」
と願っていた。




