第40話 「新学期、隣の席」
冬休みが終わった。
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三学期。
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冷たい朝の空気を吸い込みながら、 直人は校門をくぐる。
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「おはよう!」
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久しぶりに会うクラスメイトたちの声。
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冬休みの思い出を話し合う姿。
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教室は久しぶりとは思えないほど賑やかだった。
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直人も席へ向かう。
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その時。
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黒板に一枚の紙が貼られていた。
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席替え。
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教室が一気にざわつく。
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「やった!」
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「最悪!」
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「また前かよ!」
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みんなが紙の前へ集まる。
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直人も近づく。
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自分の名前を探す。
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二列目。
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窓側。
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「ここか」
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小さくつぶやく。
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そして。
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隣の席の名前を見る。
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藤崎 美月。
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一瞬。
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文字が読めなかった。
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もう一度見る。
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間違いない。
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美月だった。
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鼓動が速くなる。
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本当に?
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偶然?
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信じられなかった。
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授業前。
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新しい席へ座る。
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まだ誰も来ていない。
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落ち着かない。
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何度も机を整える。
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教科書を並べ直す。
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意味もなく筆箱を開く。
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すると。
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「隣、よろしくね」
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顔を上げる。
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美月だった。
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優しく笑っている。
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直人は一瞬固まる。
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それでも。
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「……よろしく」
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ちゃんと返せた。
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美月は席へ座る。
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その距離は、 今までで一番近かった。
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授業が始まる。
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先生の声が聞こえる。
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黒板を見る。
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ノートを書く。
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でも。
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隣からページをめくる音が聞こえるたびに、 少しだけ意識してしまう。
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昼休み。
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美月が話しかけてきた。
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「冬休み、本読んだ?」
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直人は頷く。
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「読んだ」
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「どうだった?」
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今度は前より話せた。
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好きだった場面。
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登場人物のこと。
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結末について。
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美月も楽しそうに話す。
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「私もそこ好き」
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その一言が嬉しい。
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同じ気持ちだった。
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放課後。
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翔が直人の席へ来る。
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「隣になったんだな」
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「うん」
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「顔見たら分かる」
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翔は笑う。
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直人も照れ笑いを浮かべる。
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こんな表情をする自分がいることに、 少し驚いていた。
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夜。
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布団の中。
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今日を思い返す。
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「よろしくね」
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「本読んだ?」
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何気ない会話。
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でも。
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直人にとっては、 特別な一日だった。
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まだこの頃の直人は知らない。
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この席替えが、 高校生活で最も幸せな時間の始まりになることを。
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そして。
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その幸せを失った時、
自分が想像していた以上に深く傷つくことを。
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冬の夜。
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直人は初めて、
明日学校へ行くことを心から楽しみに思いながら眠りについた。




